第三十四話
羽付きはファシルの宣言に、苛立ちを覚えると同時に呆れていた。
「やれやれ」
手数を減らしても変わらんぞと言って接近戦を再開した。ジャブ、フック、アッパー、ストレートを混ぜた攻め手を繰り出す。それに加えて足技である。足技は屈強な体に似合わず繊細かつ大胆な予測のできない無軌道な線を描く。それらは次第に速度を増していく。ファシルが切り捨てた手足も攻め手に加わり、羽付きの攻撃は隙という隙を潰して攻めてくる。光を纏った手足から放たれる攻め手全てから風の斬撃が飛ぶ。もはや羽付きの攻めの前では、距離を取ることは意味がなかった。しかしそれを真っ向から切り捨てていくファシル。速度を増す羽付きの攻めに合わせてファシルの剣術も速度を増す。そして羽付きの死角を狙った斬撃も数を増していった。すると、徐々に羽付きの攻め手の数が減って隙が生まれる。そしてファシルの剣が羽付きの胴を切る。羽付きは咄嗟に不自然な動きでそれを避けるように努めた。それにより攻めの手も止まる。羽付きはすぐに距離を取った。羽付きの胴から血が流れた。どうやら再生の効かない場所がある様であった。
「忌々しい」
ギリギリと歯ぎしりをする羽付き。誰の目からも焦っていることがわかった。羽付きのその焦りをよそに、目前の相手は言葉を告げる。
≪イープ≫
≪ビスキナ≫
≪クルエーレ≫
その容赦のなさに羽付きは自身を奮い立たせるため叫んだ。そしてがむしゃらに接近戦を仕掛けた。あとのない羽付きの攻めは威力と速度を増して放たれる。
「おらおら」
あちこちに斬撃が飛び木々を薙ぎ倒していく。それを目前の相手は刀で対抗する。羽付きは切られた手足を今までより速く攻め手に加えるため、再生の速度も上げる。がしかし、それらは攻め手に加わらない。目前の相手は切り捨てた手足をさらに小さく細断していたのだ。それと同時に行われる死角からの斬撃によってみるみる手数を減らしていく羽付き。焦る羽付きはずっと探っていた死角からの斬撃を消すためあらぬ方向に蹴りを放つ。そしてそれは水平に、風の刃として飛んでいく。すると、手応えがあったのか死角からの斬撃が止んだ。この有利な状況に羽付きは全勢力を注いだ。
「よしよし」
これで終わりだと叫びながら連打をこれでもかと目前の相手に叩き込む。
羽付きは、切られては再生し、細切れにされては再生する。
目前の相手も、切ってはいなし、切り捨てては小さく細断した。
高速で行われる一進一退の攻防。この攻防は、短いが長く続いた。この一進一退の状況下、わずかに羽付きが相手を押す。すると、羽付きがその場で回り、その勢いのまま横に凪ぐように蹴りを放った。それは回し蹴りによるフックとなって相手を襲う。相手は寸でのところで刀で受け止めて大きく後退した。無理な受け止め方をした刀は砕けてしまう。
「もらった!」
羽付きはこの商機を逃さんと間合いを詰めようとした。その刹那、死角から一つだけ斬撃が飛んだ。それは羽付きの胴を狙い鋭く飛ぶ。羽付きは咄嗟にそれを避けた。この隙が羽付きを死に追いやった。
ファシルは、羽付きが姿勢を崩したほんの僅かな隙を逃さなかった。
≪バインス≫
ファシルは復活した刀を構えて一気に間合いを詰める。その速さは瞬き程の速さで、間合いを詰める様は一つの線に見えた。物凄い速さの直線となったファシルは勢いのまま羽付きに切りかかった。
音を超えて迫る刀を羽付きは受け止めた。しかし、速度の余力で腕が削げていく。再生の速度が間に合わず刀は腕を通り越し、胴に差し迫った。あと少しで胴が切れる。あとほんの少し。羽付きは自身の足をあり得ない角度に曲げて刀を阻害した。足をへし折ったのだ。徐々に速度を落とす刀に対して、羽付きの再生が勝る。とうとう刀は速度をなくし、胴を切らずして止まってしまう。
「よいぞよいぞ」
あと少しであったなと誇らしげに言う羽付きの背に何かが触れた。
≪エミス≫
すると、羽付きは悟ったのか覇気をなくす。
「どうしてわかった」
と羽付きは相手に訊いた。
ファシルは消えつつある羽付きの疑問に答えた。
「色音が切りかかった時だ」
それで気づいたとファシルは答えた。
色音が切りかかった時の事である。羽付きが集中して溜め込んだ光の拳が、色音を掴んだ時には消えていたのだ。それでファシルは、羽付きが意識がそれると力が疎かになることに気づいたのだ。それを聞いた羽付きは最後の言葉を残す。
「このライアト、一生の不覚であった」
そして光となって消えた。




