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第三十一話

 大会も終盤に差し掛かった頃、参加者全員に着けられた腕輪が光り出した。それは残りの人数によって発動するようになっていて、相手の数と相手の場所が分かるというものであった。お互いの位置が、腕輪から映し出された小さなマップに表示された。ファシルを含めてあと四人であった。誰が残っているかは分からないが、前回の優勝者である色音が残っているのは明白であった。それだけ色音の殺気は強く、ファシルにはその殺気を感じ取れていた。色音もまた然りであった。


 バトルロイヤルにおいて、決勝戦というものは存在しないがあるとすれば、この二人が戦うところでほぼ間違いなかった。それだけ観客席に座る客も期待していた。


 腕輪によってお互いの位置がマップに表示されてしばらくの事、一つの点がマップ上から消えた。それはファシルでも色音でもなかった。二人には、その点は眼中になかった。観客席ではその点である参加者の様子が映像として映し出されていた。その参加者は自ら棄権したのであった。最後の四人にまで残っていた者なので、他の残りの参加者に異様な気配を持つ者がいると感じ取れたのだ。それには敵わないと恐れをなして棄権したのだ。観客たちも納得したのか、野次は飛ばなかった。するとまた一つマップ上から点が消えた。今度は棄権ではなく、獣によって敗退した。


 参加者が見れるマップ上には獣は表示されない仕様となっていた。なので、森に放たれた獣は後何体いるのか分からなかった。観客たちも同様、映像に映らないと確認しようがないので分からなかった。しかし、残った二人にとってそれは些細なことであった。二人は動く、お互いに向かって。その二人の歩みは近づくに連れて緊張感を増していく。その緊張は映像越しに観客たちにも伝わった。もちろん観客席にいるレイリア達も同様であった。奇しくも、二人はマップの中央にある開けた場所で接触した。その場所は二人が戦うのには、おあつらえ向きの場所であった。二人はお互いが視認できているにも拘らず、尚も歩き続けた。二人に言葉はなく、段々と二人の距離は縮まり、お互いの間合いに差し掛かる。そして間合いに入った。その刹那、二人の剣と刀が交錯しキンッという音が響いた。その場所は恐ろしいくらいに静まり返っていたので遠くまでよく響いた。それと同時に二人を中心とした衝撃波が広がった。二人による決勝戦が始まった。


 観客席は大盛り上がりになっていた。しかしそれだけに野次も多く飛ばされた。観客が見る事のできる映像は結晶石を経由して映し出されるのだが、現場から観客のいる会場まで時間差が生じるので二人の戦いが詳細に把握できなかった。だが、もし現場で直に見ていたとしても詳細に把握出来はしなかったであろう。それだけ二人の剣と刀の応酬は凄まじいのだ。


 二人の剣術は対照的であった。

ファシルの剣術は言うなれば、動である。ファシルの剣術は、一振りからの技の派生は多岐にわたる。例えば、上段から切り下ろした次の手はいくつもあり、その次も手もいくつもある。それにより、一振りごとに使う技の種類が増えていくといったものであった。ならば、それら先の読めない手を見てから対処すればと普通の戦士なら考えるところであるが、それは不可能であった。それだけファシルの剣の速さは尋常ではないのだ。少し眼がいい程度では、一振りに見えていた技で、実際には十回以上は切られてしまうだろう。

しかし、それらを先読みせずにいなせるのは色音の剣術が、静だという所以であった。色音の剣筋はファシルの剣の合間を縫うように動く。それは流れるような動きで、相手の手筋を収束させる。それにより色音を相手する者は、色音に操られているかのような動きをする。色音はこうしてファシルの本来の手数を抑えて、先読み不可能な剣の速さを対処していたのだ。色音の特殊な剣術は、剣筋の動きだけを指して言うのではない。色音自身の動きにも意味がある。色音はその場から一歩も動かないのだ。この二つの重なりにより色音の剣術は完成していた。この剣術を使う色音には異名があった。対峙した者には、自身は動かずに刀だけが動いて見えることから、止まっているようで実は動いている、雲の色音と言われた。


 ファシルは色音の強さに嬉しさが込み上げていた。見た事のない刀剣とそれによる剣術で数多の技がいなされる。どんなに力を込めても、するりと躱し、どんなに速く剣を振っても、するりと躱された。ファシルは感激していた。これだけの単純な己の力同士の果し合いを、ファシルはしたことが無かった。それだけに、まだまだ続いてくれと思っていた。しかし、ファシルとって喜ばしいこの時間も長くは続かなかった。それを邪魔する、まさに邪魔者が姿を現した。


 観戦会場の映像は何者かの登場によって映らなくなった。

観客からは観れなくなった事への野次が飛び、運営の係員からは復旧を急がせろという怒号が飛んだ。その突然の出来事に嫌な予感がしたレイリアであったが、その予感は的中した。


 二人が為合うその場所に突如大きな衝撃が走った。

二人は、お互い距離を取って衝撃の正体に注視した。煙に巻かれて正体をつかめないでいた色音の横で、ファシルの左目は赤く染まっていた。

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