第二十九話
「気を付けてね」
そう言ってレイリアはファシルを送り出した。ファシルはくじの結果、順番は最後であった。あれだけ多くいた参加者たちは森へと消えていった。ファシルは笑顔で
「行ってくる」
と言って森に入っていった。
大会開始の合図はファシルが森に入ってしばらくしてから聞こえてきた。その合図が聞こえた途端、森の雰囲気が一気に変わるのが分かった。森林独特の新鮮な空気が全く感じられない程、殺気が森を満たしていく。ファシルは大会が始まったことを肌で感じ、高揚感と緊張感でいっぱいになった。ファシルは気を引き締めて、感覚をとがらせた。
くじの順番が比較的早かったちょんまげの男、名前を色音と言った。色音は大きな岩の上に座ったままで、開始の合図を聞いても動かずにいた。しかし、開始の合図が聞こえて少し後の事、森全体に響く程の殺気に目を見開いた。目の前にいないその存在に色音は自身の刀を瞬時に抜いた。反射的なことであった。色音は気を抜いていたわけではなかったが、抜刀していなければそこで事切れていたかもしれない、それだけその存在に焦った。色音は少しニヤついて岩から飛び降りた。そしてその異様な殺気の者に向かって、抜き身の刀を手に持ち歩き始めた。
同じころ、開始前に絡んできた大男ゾスも殺気を感じ取っていた。ゾスは、今回のために用意させた特注の大槌で、目の前の参加者を吹き飛ばした。その者は木に叩きつけられて気絶した。ゾスは目の前の者には目もくれず、殺気の方角を見た。
「いいねぇ」
強いやつは大歓迎と言って殺気の方向に向かって歩き出した。ゾスは真っすぐ歩く。邪魔な木があればなぎ倒して進んだ。
開始前のいざこざを仲裁した老人ギーザ―も同じであった。ギーザ―は自身の背丈ほどの大きな杖を持って胡坐かいた状態のまま浮遊して移動していた。ギーザ―は魔法戦を得意とした。
「ほっほっほ」
血気盛んじゃのうと言いながら辺りを囲む他の参加者たちを魔法で一掃した。そしてギーザ―は殺気の元へは向かわず他に向かった。
今大会は森で行うとあって観戦用に、森のいたるところに結晶石が浮遊していた。この結晶石によって映像として観戦席の人にも見られるようになっていた。さらに参加者には特殊な腕輪を装着させていた。その腕輪は結晶石を通していろいろな情報が記録されていた。今どこにいるのか、身体の状態など様々で、この情報によって敗退失格を確認していた。バトルロイヤルは殺し合いではないので、場合によっては腕輪が魔法の障壁を張り参加者を保護していた。
主とレイリアは大会の観戦席にいた。いかにもな、宝石を身にまとった男が声をかけてきた。ゾスの雇い主であった。
「これはこれは」
と憎まれ口を叩き出した。主は慣れているのか適当にあしらっていた。宝石男は気が済んだのか言いたいことを言うと去っていった。この時はレイリアはゾスもゾスなら宝石男も宝石男だなと思っていた。そうこうしていると映像に変化が見られた。
森のあちこちで戦闘の痕が見られた。戦闘により木々が倒された場所、不自然に燃えた場所、綺麗に切れられた場所と多種多様であった。しかし、気絶した参加者だけを残して、戦闘の痕跡が残っていない不思議な場所がいくつか見られた。まず、その場所にたどり着いたのはギーザ―であった。
「これは」
まずいのうと言ってすぐさま自身を覆う程しかない大きさの魔法障壁を作り出した。
≪イルスフ≫
障壁が出来上がった瞬間、ギーザ―は障壁もろとも、水で出来た球体に閉じ込められた。ギーザ―の判断は正しかった。水球体はギーザ―を障壁ごと潰しにかかったのだ。凄まじい圧力が障壁にかかる。ギーザ―は障壁の強度を高めるため、魔力を注いだ。すると障壁の強度が水圧に耐えられる程に達したのか、軋む音はしなくなった。
「やれやれ」
どうしたものかのうとギーザ―は障壁内で困り果てた。姿も確認できない相手の攻撃を取り敢えずは凌いだのだが、ギーザ―からは攻撃に移ることができなかった。自身の障壁が邪魔しているのだ。しかし障壁を解除すると凄まじい水圧が迫ってくる。どちらにしても反撃できないこの状況をギーザ―は持久戦に持ち込んだ。このまま障壁に籠っていれば負けることはない。さらに他の参加者が来れば、ギーザ―への手は疎かになる。そう考えていた。しかしギーザ―のその考えは甘かった。
≪イドゥヴァ―リ≫
ギーザ―の足元から植物が生え始めた。ギーザ―は障壁を急いで作ったので足元の草を巻き込んでしまっていた。その草木は障壁内を満たしていく。先ほど、障壁の強度を上げたことが裏目に出た。障壁内で急成長する草木でギーザ―は内側から潰されそうになったのだ。障壁が強いがため草木の逃げ場がなく圧力が上がる。ギーザ―は自分自身を攻める形となった。草木に圧迫され身動きが取れなくなるギーザ―。
「ま、負けじゃ」
わしの負けじゃとギーザ―は叫んだ。すると水球体は消滅して草木の成長も止まった。ギーザ―は障壁を解き、その場に膝をついた。ギーザ―は肩で呼吸しながら息を整えていると、先ほどの草木が動いてギーザ―の身動きを封じ、持ち上げた。そしてギーザ―の前に相手が姿を現した。
「俺の勝ちでいいんだな」
その相手は淡々と訊いた。ギーザ―は焦りながら
「お、おぬしの勝ちじゃ」
早く下ろしてくれと懇願した。相手は草木を解除してギーザ―を下した。そして何も言わずギーザ―に背を向けて歩き出した。この瞬間をギーザ―は狙った。
「甘いぞ」
小僧と叫びながら杖を使って魔法を放った。大きな火球がその者の背を狙う。
≪シーオース≫
ギーザ―には相手が消えたように見えていた。何が起きたか理解する間もなく、ギーザ―は後ろから火球の直撃を受けて燃え上がり、火球の破裂で吹き飛んだ。吹き飛ばされたギーザ―は木に頭をぶつけて気絶した。そして丸焦げのギーザ―は腕輪の保護障壁に包まれた。




