第二十八話
ネーベンのあちこちで上がる花火の音や人の喧騒と雑踏で、街は賑わいを見せていた。普段から人の多いネーベンでも今日は違う。国を挙げての祭典なのだ。大通りを行くパレード一つとっても飽きが来ない。ネーベンは世界各地から人が集まるため、文化も人もひしめき合っている。大きな旗を持ち歩く人、仮想している人、神様が街を回るための大きな箱を担ぐ人たち、隊列を組み楽器を奏でながら練り歩く人たちなどいろいろであった。
そんな雑踏を横目に豪華な装飾を施した車が列になってネーベンから離れるように走っていた。その車の見た目も千差万別で、街にいる人にはパレードの一部に見えていた。しかしそれら車の御者は一人たりとも、はしゃいでなどいなかった。神妙な面持ちの御者が操る車の中はどれも、今か今かと餌を待つ獣のように待ちわびる者が乗り込んでいた。ただ一つを除いて。
「見て見て」
車窓から見える光景一つ一つにはしゃぐレイリア。それとは打って変わってファシルは唸ることで相槌を打っていた。ファシルは酔っていた。ファシルが生きてきて見た光景としては最大級の人混みであった。
「これでも」
まだまだ序の口ですよと教えてくれたのはファシル達と同乗していた屋敷の主であった。今回は武術大会に出場するにあたっての雇い主でもあった。主は大はしゃぎのレイリアをよそに、ファシルを伺い見た。
「大丈夫ですか」
「はい」
大丈夫ですと返事するがどう見ても大丈夫ではない様子であった。主はファシルに
「着くまで眠っててください」
着いたら起こしますのでと気を使ってくれた。ファシルは主の言葉に甘えることにした。ネーベンの街を離れていく。すると、次第にレイリアも静かになった。
ファシルは主に起こされるまで眠り続けていた。
ネーベン領内の深い森の入り口がすぐそこに見える運営受付に来ていた。
「では」
私は受付を済ませてきますと言って主は運営テントに向かって行った。ファシルは辺りを見回した。今回参加する者が集まっていた。ファシルのように主に付き従う者、推薦状を持って自身のみで参加する者達がいた。
他の参加者を見ていたファシルにレイリアが耳打ちする。
「あの人」
前回のバトルロイヤルで優勝した人だよと教えてくれた。ファシルはその人をちらっと見た。
森の入り口付近に大きな岩があった。その上に座る男が一人。その男は腰に剣を携えていた。それは少し反った形状をしていて、その形にあった鞘に納まっていた。その男の国は礼節を重んじる国であり、そこでは主流の剣であった。男の髪形は独特なもので、ファシルは見た事がなかった。髪を一か所にまとめて結ってあった。すると、その結った髪の塊が揺れた。ファシルの視線に気づいてそっぽを向いたのだ。男とはそこそこ離れた位置で尚且つ視線を合わせたわけでもなかった。ファシルは気取られた事に少し驚いた。ファシルはその男を興味深く見ていると視界を邪魔するように大きな男が割って入ってきた。
「ようっ」
見ない顔だなと言いつつファシルの肩を小突いた。ファシルはむっとして大男を無視した。すると、大男は聞こえよがしに主を馬鹿にした。
「あのおっさん、代役見つかったのか。前の男は弱そうだったからな」
「金だけは持ってんだな」
と言った。そして次の言葉でファシルは無視できなくなった。
「しかし、そいつの代わりが子供とは」
「これは楽勝だな」
ファシルは、あまりにも言いたい放題な男に食って掛かろうとしたがそこで
「あんな」
安い挑発に乗っちゃダメとレイリアに制止された。ファシルは少し冷静になって、大男を睨みつけた。すると大男は悪びれる様子もなく、続けた。
「女に守られちゃって恥ずかしいねぇ」
ファシルは咄嗟に自信の剣に手を当てていた。しかしその剣を抜くことは出来なかった。ファシルと大男の間に老人が立っていた。老人がファシルの剣の柄頭を押さえていたのだ。さらによく見ると、大男も同様であった。
「お二人さん」
そのへんにしておきなと完全に制された。すると大男は舌打ちしながら離れていった。ファシルも剣から手を離した。すると老人は何も言わず離れていった。受付が終わり、その様子を離れた位置から見ていた主が近づいてきた。
「大丈夫ですか」
主はファシルを心配してそう言った。ファシルは落ち着いて、大丈夫ですと答えた。
主は大男の事を教えてくれた。大男は、主の商売敵に雇われていた。さらに大男は武術大会によく出場するらしく、自身に合った特注の大きな武器での戦闘を得意とした。主の雇っていた戦士は大男によって参加出来なくされていたのだ。
ファシルは主の話を聞いて、大会中大男と対峙したときは容赦しないと心に決めた。




