第二十七話
日が暮れてファシル達は食堂で夕食をとっていた。すると、廊下をタタタと急ぐ足音が聞こえ、その足音は大きくなり食堂に近づいてきた。そしてそのまま食堂の扉が慌ただしく開いた。何事かと一同扉に注目した。入ってきたのは使用人であった。使用人は咳払いをして、失礼とお詫びしつつ屋敷の主に、足早に歩みを寄せた。そして主にそっと耳打ちし、何かを手渡した。屋敷の主は前にかけていたナプキンをとり、その内側で口を拭ってからテーブルの上に置いた。そして、それに目を通した。すると屋敷の主は目を丸くして使用人に
「誠か」
と訊き返した。その言葉に使用人はすかさず
「はい」
間違いございませんと答えた。屋敷の主は使用人を下げさせた。使用人は一礼して下がった。屋敷の主は
「すまない」
食事中だが聞いていただきたいとファシル達に向けて言った。
武術大会の試合形式が決まったという事だった。それはネーベンの街にある闘技場を使わず、ネーベン領内の深い森で行う試合形式の中でも一番過酷と言われるバトルロイヤルであった。
バトルロイヤルのルールは、くじで順番を決めて一人ずつ森へ入り、全員が森に入ってから合図をもってスタートする。装備は自由であり、最後の一人になるまで戦う。
ここまでは単純で過酷さを感じないものであるが、武術大会でバトルロイヤルが一番過酷な理由は次のルールにある。それは世界各地の選りすぐりの獰猛な獣を意図的に乱入させる事であった。それらは捕獲する際、十人以上要する。バトルロイヤルにおいて共闘はあり得ないので一対一で対処しなければならず、それが過酷さの所以であった
屋敷の主はその過酷さを知っているので頭を悩ませていた。大見得を切った手前、ただ出ただけでは格好がつかない。なのでファシルには、優勝は無理でもある程度の活躍はして欲しいと考えていたのだ。だがよりにもよって件の試合形式であった。屋敷の主はなかば諦めていた。しかし、そんな主の考えとは裏腹にファシルはやる気満々であった。ファシルにとっては念願の武術大会で、それも一番過酷なバトルロイヤルである。これに昂らないわけがなかった。ファシルは屋敷の主に
「俺に任せてください」
絶対優勝して見せますよと言った。その言葉に屋敷の主は、自身の後ろ向きな考えに恥ずかしさを覚えた。ファシルは屋敷の主よりも遥かに若く、どっしりと構えている。さらに言えば、出場するのはファシルであり主ではなかった。屋敷の主は
(私は何を考えているんだ、大会はこれからじゃないか)
と自分を鼓舞した。そしてファシルに向かって
「ああ、大船に乗った気持ちで応援しているよ」
頑張ってくれたまえと言った。そのやり取りに食堂は和やかになった。
食事は和やかな雰囲気のまま終えた。食堂を出て自室に戻る途中、ファシルの後をレイリアが追ってきて声をかけた。気がかりな様子であった。
「無茶しないでね」
「大丈夫だよ」
とレイリアを安心させるように優しく言葉を紡いだ。
「それに」
俺は強いからと言って笑って見せた
そんなファシルを見てレイリアは少し元気がわいた様であった。




