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第二十三話

「いたぞ」

その声はファシルのすぐ後ろまで迫っていた。

鍛冶屋を出てからのファシルは幾度となく同じ景色を見る事になった。ファシルにはシュレヒタスは大きすぎたのだ。期せずして街観光をすることになったファシルは色んな場所を巡っている内に衛兵と出くわした。そこからは街観光ではなく、シュレヒタスの街を強制的に回る長距離走へと変わった。この長距離走は道順も決まっておらず、絶対に追いつかれてはいけない過酷なものであり、景観など楽しむ余裕もなく、ただ自分の体力との勝負である。そんな長距離走をしていたファシルの前方に、この街で一番大きく、外との隔たりとして立ち塞がる関門、ゴールが見えてきた。ファシルはそれに向けてラストスパートをかけた。


 シュレヒタス脱出に向けて全力で走っていると、ゴール直前でファシルは聞きなれた声を聞いた。その声からは少しご機嫌斜めといった感情が読み取れた。

「いた」

どこ行ってたのと現在の状況に似つかわしくない質問にファシルはこっちの台詞だ、と思いつつも止まることなく走り続けた。止まらないファシルに

「待ちなさいよ!」

と言いつつ、むくれた声は並走してきた。しかし、ファシルはそれどころではなかった。思わぬ長距離走によって息が切れ疲労困憊であった。早くゴールをしたかったのだ。この長距離走も終わる、そのためのゴールは目前に迫っていた。やっと終わると気が緩んだその時、ゴールに変化が見られた。先回りしていた衛兵の指示で門が閉じられようとしていたのだ。

(まぁ、そうなるよな)

ファシルは冷静に状況を把握しつつ次の行動に出た。むくれてごね続け、並走している声の手を引っ張った。

「えっ?」

その声は困惑した声に変わった。この時、ファシルは感情変化の激しいやつだなと思っていた。ファシルは手を引っ張った勢いのまま横抱きした。

「また?!」

何度目かのお姫様抱っこにファシルは何度目かの台詞を言った。

「しっかりつかまってろよ」

そう言って続けざまに言う。

≪フィリオース≫

ファシルはゴールの上、はるか上空へと、力いっぱい地面を踏みしめて大きく跳躍した。ゴールでは、矢をつがえた弓を持ち、待ち構えていた衛兵達が飛び上がったファシル達を撃ち落とそうとしている。それでもファシルはゴール上を通過した。衛兵たちは矢を放った。しかし急な進路変更で狙いが定まらず、衛兵達の矢は何本も雨のように降ったが一つもかすりはしなかった。

ファシルは危機を切り抜けたと気が緩んだ、その時であった。


「あぶないっ」

レイリアがファシルを引っ張った。レイリアに引っ張られたファシルが体勢を崩し、軌道が逸れた瞬間、ファシルが元いた場所を光の矢が通り抜けた。その矢は、衛兵たちの貧弱な矢の軌道ではなく、何処までも真っすぐな軌道で、もっと遠い位置から放たれた矢であった。その矢はとてつもない速さで轟音を立てながら飛んでいく。そしてその後をわずかに遅れて、凄まじい突風が矢を追った。引っ張られた事と突風によってファシル達は姿勢を完全に崩して、とある方向に墜落していった。




「チッ、はずれたか」

男は矢を放つ構えを解いた。光り輝く弓は消えてなくなった。男は仲間内での賭けに負けらしく、愚痴をこぼしていた。その腹いせとして矢を放った。

「しかし、パスケ達の方に逃げたのは正解だな」

「このまま来ても即死だろ」

そう言って男は鼻で笑った。

「奴一人なら」

パスケ共で事足りるだろうが、と男は声に出して思案していると

「なにぶつぶつ言ってるんですか、行きますよ」

そう言って、男はもう一人の男に急かされて、行軍する隊列に戻った。この隊列はシュレヒタスを目指していた。白を基調とした軍旗が嫌でも目立つ。それを持つのは帝国である。

もしファシルの目を通して、行軍に戻っていった二人を見たのなら、四つの大きな白い羽が生えて見えただろう。

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