第二十話
羽付きは手をかざす。すると兵士が落としていった剣が床を擦る音を立てて動き出し、宙に舞う。それら全てはファシルを狙う。
≪クルエーレ≫
≪アーヴィス≫
ファシルも剣の舞を高速に動いて躱す。しかし、如何に速く動いても躱すのが精一杯であり、攻撃に転じる余裕など存在しない。剣と舞うファシルに羽付きが忠告する。
「躱していても」
私を殺すことは出来ませんよと言った。
(そんなことはわかってんだよ)
ファシルは苛立ち、心の中で悪態をついた。反転攻勢に出ることが出来ず、羽付きに踊らされているからであった。
羽付きは、高速で剣の舞を躱すファシルを見つめながら両手を挙げた。そしてオーケストラを指揮するように手を振る。すると指揮者に合わせて剣はテンポを上げた。それだけではなく剣が通り抜けた後の軌跡は線となってそこに残り、見えない程の細い刃物となった。それは時間が経つにつれ目の細かい網となる。そこを通れば細切れである。
(まずいな)
ファシルは剣より速いテンポへと自身の動きを上げる。高速の剣の舞より速く動いている分、少し時間に余裕が出来たがそれでも猶予はあまりなかった。ファシルは羽付きに近づこうと試みる。
羽付きはファシルの動きを見て、片手で指揮しながら反対の手で、オーケストラの演奏で起きた不揃いを正すように個別に指示を飛ばす。
「ストラ」
雷撃が飛び、ファシルは位置を正される。そうして羽付きはファシルの色んな不揃いを正す。
「ヴォル」
「セラル」
「フィーナ」
どれも初級ではあるが声に出ているため寸分の狂いなく、正確にファシルを正し、前に出ることを阻止した。
ファシルは羽付きに近づくことができないでいた。しかし時間の猶予は刻一刻と無くなっていく。ファシルは近づくことをやめて、そのままの位置から攻撃を試みる。
≪ジズ≫
高速で舞う剣に触れ、複製した剣を羽付きに向けて投げる。
「無駄ですよ」
投げた剣は正確に撃ち落とされた。しかしそれはファシルに予期せぬ閃きを与えた。
(これだ)
残り少ない猶予の中、ファシルは次の手で終演へと導いた。
羽付きはさらに速くと指揮すると剣はより速く舞い、脱出不可能な細かい網目の檻を完成させた。羽付きはその檻を小さくしていく。中にいる者を細断するためである。拳が通るか通らないかというほどの目の細かさになった時、中にいる者の声がした。
≪ジズ≫
羽付きに向かって、一直線に砕けた剣の破片が飛ぶ。
羽付きは再度撃ち落とそうとした。
≪シーオース≫
飛んでくる破片は中にいたはずの者へと変わった。羽付きは瞬間的に魔法の質を上げて確実にトドメを刺せるように対応した。
「ヴォルーン」
≪ガイラーズ≫
羽付きの詠唱とほぼ同時であった。しかし、玉座の間を飲み込めるほどの大炎球はその者へと直撃し、その場所は大炎球の爆発で吹き飛んでしまった。羽付きは剣の舞いを止めさせ、自分の傍に呼んだ。煙が薄れる中、あろうことか言葉が飛ぶ。
≪マイウール≫
羽付きはその言葉を認識する前に、聞こえた時点で反射的に剣を飛ばした。いくつもの剣が薄れた煙の中にたたずむ影へと向かって行く。
しかしここで、余裕の表情を浮かべ続けた羽付きの顔が変わった。
(いけないっ)
羽付きは咄嗟に動いてその影の前に出た。しかし、仕留めるために放った剣は凄まじい速さで影に向かって直進する。中断の指揮は間に合わず、その剣を自らの背中に受けてしまう。
「ああ、やはり」
煙の中から現れたのはトゥスタスであった。羽付きはトゥスタスに近づき手を取った。
「会いたかったぞ」
しかしトゥスタスは反応を示さなかった。背中を負傷し羽がもげた痛々しい姿のまま、なおも言葉を募らせた。
「このサイロス、最後にお前を見たかった」
空しい感動の言葉は自身がここで終わることを悟っていた。
その二人の手に手を添えて告げた。
≪エミス≫
サイロスはその手を払いのけることなく受け入れた。そして最後に言い残した。
「なんと慈悲深い悪魔」
その言葉を最後にサイロスはトゥスタスを抱きしめた。二人は足元からポロポロと剥がれるように数多の光の粒となって、上空へと散っていく。二人は天へと昇った。




