第十九話
人もどき達は次々に切りかかった。一人に対して切りかかるなら、同時に三人ぐらいが限度である。なぜならお互いの剣が交錯してお互いを邪魔してしまって効率が悪いからである。それすらも厳密には一人一人ずれて切ることになる。しかし、人もどきはもっと多い数で同時に、お互いを邪魔しても構わずどんどんと切りにかかる。手前の人もどきが切り損ねても、後ろの人もどきはそれごと切り込んでいく。これだけの数が一か所に密集すれば物理的に隙間がなくなり動きを止めてしまうが、それでも流れは止まらず、吸い込まれていく様にどんどんと雪崩れ込んだ。それだけ中心にいる者が凄まじい速さで精確に切り刻んでいく。人もどきは人の形を保てなくなり、粉々になり積まれていく。広間を埋め尽くす程いた人もどきはみじん切りの山となっていった。中心の一人を残してすべて塵となった。
全ての人もどきを倒したが、ファシルにとっても、短時間で相手するには流石に数が多かったため肩で息をしていた。ファシルが息を整えているとどこからともなく声が聞こえてくる。
「やりますね」
悪くないですよと言い終えるとファシルの周りに落ちていた塵が動いた。ファシルは咄嗟のことに反応が遅れてしまい、球体状に包まれてしまった。ファシルは、どうにかして脱出しようと剣を突き立てたが先程までとは違い硬く、剣が折れてしまった。脱出するため他の方法を探していると球体が動き内部のファシルはふらついてこけてしまった。球体は空中に浮かび上がっていた。すると、スッと消えてしまった。
ファシルは急な振動に立てないでいた。手足をついて姿勢を維持していると球体が着地した感触が伝わってきた。動きが無くなったので球体内で立ち上がると、球体は煙のように消えてなくなった。ファシルは玉座の間にいた。
「よく来ましたね」
優しい口調ではあるが、声のその人は優しくないことがなんとなく伝わってきた。
赤く大きな絨毯が真っすぐのびその脇を鎧を全身に装備した兵士がずらっと並ぶ。その者たちは全員が剣を抜き、胸の前に持つ。それらは綺麗な彫刻と言っても過言ではないほど微動だにしない。ともすれば永遠に動かないのではと思わせるほどであった。脇に兵士が並ぶ絨毯の先、一番奥に玉座がありそこに人が座っている。広場からここまでの間、度々聞こえてきていた声の主その人であった。
「まあ、そんな身構えないで」
話をしましょうと言うとファシルの体は自由がきかなくなった。構えを強制的にとかされた。握られていた剣は手を離れ、その場に落ちると砕け散ってしまった。そして真っすぐに歩かされ、玉座に近づく。一定の距離で足が止まった。玉座に座り肘をつく者は自分をシュレヒタスの国王だと名乗った。国王は見た目、中老といったくらいであった。国王はファシルに質問を投げかける。
「シュレヒタスには何用で」
いらしたのかなと訊いてきた。顔だけが笑っていて、緊張感が重く感じられた。投げかけられた質問の答えは間違えてはならない、答えを間違えるということは死ぬことと同義であると思えた。ファシルに対しての質問であるにもかかわらず、その答えをファシルに訊いていないという矛盾した状態であった。しかし、ファシルは自分の目的を口にする。その答えはもちろん国王の望むところにない。
「仇をとりに来た」
ゼノムのみんなの仇を、とはっきりと伝えた。すると国王は、肘をついていないほうの手で何かを払うように一度だけ振る。すると、絨毯の脇に立つ兵士が一人、剣を落とす音を残して爆ぜた。ファシルは内心驚いていたが、体の自由がきかないので傍からは、全く気にしてないように見えていた。しかしそれが却って国王の神経を逆なでした。とはいってもファシルからすれば国王が国王自身を苛立たせている、そう思えた。それだけ玉座の間は理不尽な空間となっていた。さらに質問が続く
「仇とは」
誰の事かなと分かっていながら訊いてくる。国王が分かっているその答えを正直に言えば、さらに絨毯の脇に剣が落ちる事だろう。言わなければいけない事と言ってはいけない事が同じなのだ。果てしない心痛が襲う空間である。それでもファシルは答える。
「あなたです」
「あなたとは」
国王は間髪入れず訊き返す。言葉は違うが言うことは同じ。
「国王です」
この時、ファシルは束縛への抗いで、国王は怒りへの我慢で小刻みに揺れていた。
「私か」
「はい」
今度はファシルが間髪入れず返事する。国王は質問を少し変えた。
「なぜ仇をとりたいのかな」
ファシルは呆れて鼻で笑った。こいつは阿呆なのかと。何もしていない者を一方的に殺しておいて、仇の理由は何かだと、馬鹿なのかと。次の質問でファシルの堪忍袋の緒が切れた。
「本当に私かな」
ファシルは束縛を脱して叫び、堂々巡りはここで終わりを告げた。
「お前だって言ってんだろ!羽付き野郎」
ファシルは自分の口から出た言葉に驚いた。しかしその言葉は的を射ていた。ファシルの左目は真っ赤に染まり、その目はしっかりと玉座の者を捉える。その者から大きな羽が生え、中老だったはずの見た目は壮年の男へと変わっていた。国王になり替わっていたのだ。壮年の羽付きが羽ばたくと玉座は消し飛び、兵士達は剣を残して全て爆ぜた。茶番の終わりを告げた。




