第十七話
朝早くにハーフェンを出たファシル達は輸送の護衛で荷車に同乗していた。ファシルもレイリアもまだ眠たげであった。昨夜、宿屋の主と話したファシルはそのあと散歩もそこそこに部屋に戻った。部屋に入るとレイリアは自分のベッドで眠りについていた。ファシル達は入れ違いになっていた。
荷物の輸送には御者が使役する動物に引かせていた。しばらくすると御者が休憩すると言って荷車は道路の脇に止まった。ファシルは辺りを確認しながら荷車を降りると伸びをして体をほぐした。レイリアは完全に眠ってしまっていた。そうこうしているとハーフェンから来た荷車がシュレヒタスとは違う方角に向かって走っていく。その荷車を見ていたファシルは、どこに行くのだろうかと考えていると、御者が教えてくれた。
「ネーベンに向かうんですよ」
近々、国を挙げてお祭りを行うということだった。それでハーフェンからネーベンに向けて物資が多く運ばれていた。
ネーベンは商業が盛んな国であった。各地から多種多様な品物が揃うのでその品物目当てにわざわざ遠方から足を運ぶほどであった。さらにネーベンでは武術を競う大会が毎年行われていた。大会を優勝した者には、この世界で最も価値のある品物が贈呈されるとあって腕に自信のある者はこぞって参加した。
ファシルは御者の話しに興味を持ったが今年は行くことはないだろうとこの時は考えていた。
道中、幸いにも怪物に遭遇することはなかった。そのかわり王国兵と何度かすれ違ったがどうにかやり過ごし、王国シュレヒタスの大きな関所に到着した。関所を通るには通行証が必要で、それを王国兵が確認をしていたので関所前には長い列ができていた。
関所には通行証を確認する者、荷車を確認する者、見張りが数人と他にも待機の者が数人いた。ファシル達は大人しく荷車に身を潜めて通過することにした。御者は通行証を見せ、慣れた様子でやり取りしていた。その間、ファシル達も見つからないように息をひそめた。そうして通行の許可が出てので御者が荷車を動かそうとした時、その様子を離れて見ていた王国兵が呼び止めた。
「待て」
積み荷をもう一度調べさせろと言って荷車を調べ始めた。御者は、ファシル達が見つかるといけないので下手に口出しせず、平常心を貫いた。内心では神に祈っていた。
ファシル達は荷車から外の状況は確認できないため、動き始めたと思ったらすぐに止まった荷車に冷や汗をかいた。王国兵が荷車を調べ始めてすぐのことだった。関所前の列の後方から叫ぶ声が聞こえた。怪物が出たという知らせだった。王国兵は荷車からすぐに下りて関所に数人残し、怪物の対処に向かった。御者はこの絶好の機会を利用し、怪物にひどく怯える素振りをみせた
「もういいだろ!早く通してくれ」
関所の通過を急かした。王国兵も動揺してすぐに通してくれた。
関所を通過してしばらくすると大きな街が見えてきた。その街の中心を大きく陣取った、大きな城がそびえ立っていた。その城を中心に街が囲うようにあり、全体が山のように見えた。ファシルはこの国の王に用があるのだ。
ファシル達は城下町につくと御者と別れた。城下町を見て回る途中、ファシル達は用事を済ますため別行動をとることにした。レイリアもファシルも私用を優先した。
ファシルは一人行動に移ってまず、人の多さに驚いていた。ハーフェンも大きな町であったが、人の行き来が盛んな時間に街を見ていなかったのでシュレヒタスの城下町の光景に少し酔った。ファシルは気を持ち直して、人に道を訊きながら目的の場所を目指した。
ファシルは武器や防具が立ち並ぶ鍛冶屋街に来ていた。シュレヒタスには凄腕の鍛冶師が集まっているらしく、ファシルは少し気分が高揚していた。ファシルは湖で折られて以来、剣を持っていなかった。なので思いきって剣を新調しようと考え、御者に勧められた店を探していた。その店は鍛冶屋街でも有名らしく、道を尋ねるとみなそれぞれが行けばわかると教えてくれた。ファシルはその店にたどり着くと、確かに見ればわかるなと思った。店はここ一帯で一番大きく場違いな派手さがあった。一見鍛冶屋ではない、夜の飲み屋街にありそうな外観をしていた。
「ここ……だよな」
ファシルは戸惑いながらも店に入った。
店に入ると、店番をする細身の男がいた。ファシルは不審に思った。その男は道化のような奇抜な色の服を着ていた。争いごとが苦手そうな、武具とは無縁そうな男だった。さらに、ファシルの不審感を煽ったのはその男の行動であった。その男はファシルが店に入ってきたことに気づくまでは静かに書類に目を通していたのだが、ファシルに気づくと人が変わったように素早く動いて接客しだした。ファシルはその男の急激な変わりように少し怖くなった。
「いらっしゃいませ」
どちらにいたしますかと言ってきた。ファシルはまだ要件を伝えていなかったのだが、奇抜な男は武器をいくつか見繕ってくれた。ファシルはさらに怖くなった。この店には多種多様な武具が置いてあり、武器だけに限定しても多岐にわたる。それにもかかわらずその男はファシルが剣を探していると見抜いたのだ。ファシルは恐る恐るいくつかの剣を手に取って、振り回しはしないが試した。しかしどれもファシルには馴染まなかった。
「こちらはいかがでしょうか」
といろいろな剣を経緯つきで説明してくれた。それでもファシルには馴染むものがなく違和感を感じていると奇抜な男が次の品を持ってきた。
「当店最高の品でございます」
と店の奥から一振りの剣を持ってきた。その剣は他とは違い、大げさな入れ物に入れられていた。ファシルは男に確認を取ってからその剣に触れた。その剣は他の者とは明らかに違うところがあった。
まずは装飾である。豪華なつくりをしていた。かといって下品ではなく品のある重厚な装飾を施されていた。
次に剣自体の重さである。見た目で思うほどの重さはなく、丁度いい軽さであった。
最後に剣を持った瞬間の心がざわつく直感であった。これらのことからファシルはこの剣に只ならぬものを感じていた。
「ちなみに」
この剣はいくらするのかとファシルは男に訊くと、先ほどとは違った、心がざわつく感覚を味わった。ファシルはその剣を丁重にお断りすることにした。他の剣の値段も訊いてみたが、ファシルが買うことができる剣はそもそもなかった。ファシルはこの時、商人にもらった宝石の複製をもっとしておけばよかったと考えていた。しかしそれでも買うことができるかわからなかった。
「また今度来ます」
といってファシルは店を出ることにした。
「またのお越し」
お待ちしておりますといって男は丁寧にファシルを見送った。
ファシルが店を出ようとしたその時、入れ代わりに客が入ってきた。
その客は武具の修理を頼んでいた。ファシルはその客の言葉でこの店が修理も請け負っていることを知り、店の鍛冶場を覗くことにした。鍛冶場は店の裏にあった。するとそこには黙々と作業をする人達の姿があった。その人達はファシルを気にすることなく作業に没頭している。ファシルは邪魔にならないように作業を眺め続けた。




