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第百十六話

 闖入者は一先ずに、死を携えた有象無象を視界の端に感じて捉えてはいい加減に煩わしだけに成り果てたそれら光の軍勢へと対処した。

≪ガズネイブ≫

最早一瞥もくべることなく吐き捨てるように、仕方ないといった程度に闖入者は死を遠ざけた。

アトアイシスが余力を残さず闖入者に死を授けようとしたそれも今となっては意味を成しておらず、如何に重ねられた力の滾りが光の軍勢を強固なものと押し上げようとも、闖入者に死は届きそうもなかった。

アトアイシスとその身を貸すタークスライトの放ったそれらは次第に刻まれた刹那を経た事で、闖入者が一言だけ短く言い放ったそれによってあらぬ方向へと飛んでは霧散して消えていき、それらは枯葉のように力なくそして闖入者の纏う気が分からず統率なく各々の余力のみに流れていった。

この時ばかりはその一言による影響はセクタリアスの力を凌駕していると言えた。

 セクタリアスの力が世界の変更を許された者のそれなら、闖入者のそれはその中の一つに過ぎない小さな変革ではあるものの、セクタリアスの力が書き換えた概念を自在に変えられるとあってはその威力は絶大と言えた。

世界の理を変更するという事は創り出した者のみにしか出来ない事であり、規定を設けたセクタリアスのみしか知り得ない世界の在り方を闖入者は当然のように知っており更にはそこに付け込んだのであった。

 セクタリアスの力が闖入者を世界の異物とした事に対して、闖入者はその理へとさらに付け加えると今までにセクタリアスが行ってきたように世界の在り様を自らの手によって次第に変化させていった。

それはまるで世界の支配者であって相違なくあったが、しかしながら闖入者が行ったそれは小さな変革に過ぎずとも指向性を伴うために広範囲には機能しないものであってその時は短かった。

一方向にのみ機能する一時の世界の変革。

それはその狭い境界に伴ってごく僅かな世界であったが、その指向性は如何に狭かろうとも闖入者とっては充分なものであった。

闖入者が書き加えた事とはたった一つであり、闖入者はその指向性による限定的な不便さも意に介さなかった。

それどころかその限定的な不便さは闖入者の望むところに在るかのようで、タークスライトのみに向けられたその小さな変革は、如何ともしがたいと思われたもののアトアイシスのように全力を出した闖入者のそれらによっては、如何にその相手が羽付きのカルネインであろうとも遥かに凌駕してみせた。

 たった一つだけ付け加えた事とは──闖入者が元より存在していなかったというものであった。

セクタリアスが世界の異物として闖入者を外へとはじき出したために、加えてその存在自体が元より無いとなればタークスライトにとっては認識も何もない。

タークスライトは闖入者どころか敵が目の前に存在していたという事すら認識出来なくなってしまうと、更には他者がそこに居る事すら分からない状態に陥った。

そうして迎える結果はタークスライトの完全なる停止。

アトアイシスがセクタリアスの力で認識を明確にしたはずが、それを更新する事で闖入者はタークスライトの攻めから逃れるに至ってしまった。

すると必然的にタークスライトの光の軍勢に下した命令も意味を失ったものとなり、その収束していた力があちこちへと消えていく。そしてその消失に倣うように、光の軍勢は重ねて放たれた事で片割れの消失に引っ張られては残りの意味も失うに至ってしまった。

アトアイシスはタークスライトの浴びた「小さな変革」を自らも浴びるわけにいかず、一時的にタークスライトとの共有を遮断してしまうが、それは闖入者にとってさらに有利な状況へと導いた。


 指向性の焦点がタークスライトのみに向いていただけであるためにアトアイシスら残りの四者には闖入者を「見つけにくい」といった程度の事であって、アトアイシスらはすぐにでも闖入者を見つけられたが、四者が対象を見つけるまでにその誰を屠る事も闖入者には容易い事であった。

タークスライトを除いた四者は誰もかれも闖入者に追いつけはしない。

するとその矛先は闖入者が最も厄介であると見定めた者に向いた。

黒い揺らめきが真っ先にセクタリアスの元へと向かうと、それは刹那程も長くない時の中でうごめいた。


 完全な捕捉に気付いたアトアイシスはセクタリアスの死を遠ざけ損ねた。

駆ける揺らめきが、水面を波紋でつなぐようにうつろうと点々とした広がりを見せつつもそれはやがて最後にセクタリアスを中心に広がりを見せていた。

黒い揺らめきが一点に集中しては次の時を待たずして薄れていく。

その速さは揺らめく有様にそぐわず嫌に速く、それを止める術を持たないアトアイシスは見つめるばかりであった。


 闖入者がセクタリアスを捉えると無碍にされた光の軍勢がその輝きを散らす中で、次の瞬間にはタークスライトの動きすらも止まり、そしてセクタリアスの輝きが失われてしまう。そうしてタークスライトが立ち止まった次の瞬間に散っていったセクタリアス。

この一連の流れが過ぎ去るまでにアトアイシスが出来たのはそれを口にするだけであった。

アトアイシスにとって甘んじて受けるその痛みに後悔の念は乗り切らない。

それどころか、アトアイシスが受け取った痛みはセクタリアスが受けたそれと比べれば些事に思えて、その身に受ける感触にアトアイシスは愚かさを知ったのであった。

黒い揺らめきに見染められて散っていったセクタリアスの苦しみが想像を絶するものであった事から、アトアイシスは己の過ちに愚かさを知ると目を逸らさずに居る事が最低限の償いに思えてそればかりに集中した。

細切れになって崩れ去ていくセクタリアスの身体一つ一つに乗るのは全神経において最も鋭敏なそれであり、その神経を直に触れられる感触は宿しているわけでは無いにも拘わらずとてつもない激痛を伴ったが、しかし自らの愚かさを身に沁みさせるためにと甘んじて受けるとそれに顔をしかめるアトアイシスがそこに在った。

セクタリアスの受けた痛みのほんの僅かであっても自らに受ける事しかできないアトアイシスは、悔しさに滲んだ涙に生きた血が流れたとしても目を逸らさずに見届けるとセクタリアスの最後に見た景色を心に焼き付けてはそれを口にしたのであった。

この時ばかりは償えないもどかしさがアトアイシスには重くのしかかっていた。


 アトアイシスはセクタリアスを失うと共に世界の均衡を失った。そしてそれと並行するようにこの空間に置ける世界を支配する術を失ってはどれ程に局地的なそれも、以降に起きるあらゆることが優先されるのは闖入者であった。

すると必然的に招かれる事態は忙しなく動いてそれを止める事はアトアイシスには出来なかった。そして次に揺らめく黒が伺うはアトアイシスその者。

波紋がアトアイシスへと伝う。

しかしそこに、まだ新しい激痛の残穢を引き摺ったままのアトアイシスを差し置いて駆ける者が一人。

アトアイシスを支えるのは飄々ともその確固たる意志でもありその者は常、アトアイシスを気にかけ続けた。

浴びた指向性を脱した直後にも拘らずその者はアトアイシスの危機にその身を駆ると、タークスライトは時を置き去りにして闖入者の間合いに飛び込んだ。

闖入者の視界を遮るように立つと、その先に映っていたアトアイシスは隠れてしまう。

するとタークスライトの槍は携えた光すらも遅らせて闖入者の死角を突くに至ろうとした。

突き立てられる槍は轟音を怒号として奔る。

事ここにおいて現された域はどの時に照らし合わせても重なる事無く速い。それは最早触れる事を必要とせず、その速さに乗るあらゆる気だけで何者も穿つ事が出来るほどであった。

迫る間もない時の流れは闖入者に選択の余地を与えず充分に死を予感させると、闖入者の間近の空間が螺旋を描くように歪んだ。

描かれて廻るその刺突は突き立てた切っ先を先頭に更に深く食い込むように前進しては空間を平面のそれになぞらえてより大きくそしてより複雑に円を描いた。

タークスライトの槍が通り抜ける先に在るのは塵にも満たない程に小さな残りかすであり、それは確実に通り抜けたと思えた。


≪アンムローガ≫


しかし、その触れる必要のない間近のそれであっても厭わない姿を映すのは闖入者。

かつてない速さをそこに持ち込んだにもかかわらずタークスライトの行いを置き去りにするように或いは無視するように闖入者は言葉を紡ぐとその姿は半身であり、もうそこにタークスライトを見てはいなかった。

槍の切っ先がどれ程の時を重ねても穿つ事が出来ない。それは狙い定めた地点に辿り着く事が未来永劫にあり得ない事を意味して、タークスライトの光の槍が穿つその未来はもうどこにもなかった。

紡いだその言葉により一瞥もくべる事なく、迫るタークスライトの槍を躱しもしない闖入者。その行いにはタークスライトを眼中に置いていない事で必要性の無さを示しており、二者間に在ったはずの差がそうさせていたからであった。

無くなった技量の差。

槍の切っ先が描き始めた螺旋と闖入者との間には本来幾重かの領域が存在しており段階的に言えば安全域から危険域そして接触域とあって、接触域に至れば二者の技量から考えて死は間違いないものであった。

しかし、タークスライトはそれらを省略するように闖入者の間合いに入っており更にその技量がもたらす絶技によって接触域すら省くものであった。

にもかかわらず光の槍の切っ先が対象を穿つ事が出来ない訳は、それは闖入者が言い捨てたそれに由来した。

膨張を続ける空間に際限は存在しない。

タークスライトの至高の槍術も、闖入者が無造作に言い放ったそれを聞いてはその槍の切っ先と闖入者の間に無限の膨張を許してしまっていた。そしてそれは今も尚流れ続けており最早限界が存在せず、空間も時間も膨らんでは超大な広がりがそこには在り続けている。

すなわち、タークスライトが時間を歩み進むにつれてその距離は離れていくのだ。

動くという当たり前の事をそこに置けば、タークスライトが闖入者へと迫ろうともそこから離れようとも絶え間なく時が進み状況が変わっていく。

それは時間と共に空間にも作用しており、いくらタークスライトが細分化された時の中で如何に速く肉薄するに至ってもその瞬時に詰めた距離もそれに伴った速さも膨張する動きに着いてはいけないという事であった。

死角に突き立てられたはずの切っ先は遥か彼方に永久を見せらていた。

単純な技量を並べた時、タークスライトに及ばない闖入者のそれもセクタリアスの世界を操る力があってこそであり、それによってその条件が確実に満たされる。

しかし槍術のみに留まらない闖入者に対してタークスライトも然りのこととは言え、その世界の優先権を闖入者が手にした今となっては戯れにも程遠くへとタークスライトの力は彼方へと飛ばされていた。

かつて翻弄したはずの相手に為す術が無くなった光の槍はその鳴りを潜めると、轟いていた音すらも消えて全くにそれを立てられないものとなっていた。

時間という本来なら平等のそれも、膨れ上がった事によって等しさを失っている。

タークスライトの至高の槍術が頂くその速さはいずれも置き去りにする事が出来ていたものであったが、現状の闖入者からすれば止まっているかのように見えていた。


 闖入者がもたらした膨れ上がる時間を前にタークスライトの駆ける姿はそこには無く、

空間のあらゆるものが膨張する中で時間すらもその餌食となれば、事ここにおいて速さは機能していなかった。

そうして書き換えられた世界の規定により起き得る事柄は、闖入者を除いた全ての停滞であった。

それらは当たり前に動いている。それも必至に。

しかしながら世界を支配するに至った闖入者からすれば、それらの些末な事には目もくれない。そしてそれらは闖入者からすれば草木の生い茂った森を歩くかの如く、そこかしこに在る遮蔽物を邪魔と思っては避ける程度でありその動作に急を要する事は全く必要ないと言える。

目の間に現れた木の葉が視界を遮るとして、それを手で払いのける際に急ぐものはいない。ましてやそこに危険が及ばないとなれば尚さらにそうと言える。

闖入者の少しの動作によってそれらは力なくその妨げを無きものへとかえしていくと速さという概念が機能しない今となっては、闖入者の一挙手一投足に忙しなさは存在せず、むしろそこに在るのはゆったりとしたもので優雅にすら思えた。

どれだけの研鑽がその技量を高みへ延いては頂へと押し上げていたとしても、時間的有利が存在しないこの世界においてタークスライトの槍が闖入者を捉える事はなかった。

本来ならば世界の均衡を保つ様にセクタリアスの力が「状況」というあらゆる力を相殺してきたが、セクタリアス亡きこの世界においてその「状況」はアトアイシス達にとって不利に働いた。

世界を支配するのは闖入者その者なのだと嫌でも知り得る時が続いた。

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