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第百十二話

 光と黒が駆けては行き交うとそれらは曇天のように或いは快晴として隙間なく空を覆った。

互いの繰り出すそれらは一見した所ではどちらかが優勢であるとはとても思えないように見えて、けれども一方のその身に刻まれる傷を見たならばその答えは一目瞭然であった。

闖入者の放つ槍が無軌道な軌跡を描くと、それらはありとあらゆる角度から直線的にも曲美にもとれてその合間を縫うように夥しくも屈折した軌跡がうごめいた。

闖入者の持てる全てを出し切るかのようなそれらの黒い揺らめきは稲光のように刹那に散見する。しかしそれ程に術を弄したとしても、それらを相手取るタークスライトには一つたりとも掠りはしない。

それどころかそれらはタークスライトの身に辿り着く事さえ叶わず消えていき、加護ありきのその身には下賤な黒が触れる事は許されてはいないようにタークスライトの元へと辿り着きはしなかった。

それはひとえにタークスライトの技量がなせる芸当であり、タークスライトは全ての軌跡をかき消してはそれを阻止していた。そしてそれに加えて自身の術を突き進めては闖入者を貫かんと光の槍を駆けさせた。

攻防一体のタークスライトのそれはまさに槍術の完成形であり、タークスライトが描く軌跡の流麗さに闖入者の目は奪われるばかりであった。

闖入者の内心に巣食う考えがタークスライトの絶技を称賛する。するとどうしたって貶める隙のない技の数々に闖入者の感情は苛立ちへと揺さぶられては、自身の考えであっても相手を褒めるそれを止められはしない。それどころか感心するに至るぐらいであったものの闖入者の思いと考えは一つの人格によるものであり、その側面を認めたとしてもいずれも憎しみにしか変わりはしなかった。

見えているタークスライトの挙動に合せていなすために動かす自らの挙動も、その合間を縫って伸びる見えない刺突と斬撃に闖入者は翻弄されてままならない。

如何に高い水準の熟練者のそれであっても必ず生まれる一動作ごとの隙が、その捉えられない技によって見事に埋まっていて最早隙がないのだ。

それはまるでタークスライトを援護するもう一人のタークスライトがそこに居る様であった。

しかし、それだけに自身の技量が劣る現実をまざまざと見せつけられた闖入者もただ静観するに留まりはしない。

闖入者はより一層に手数を加えて、攻めるその手に加速を添えるとそれらをもってタークスライトのそれに追いつこうとした。

──触れさえすれば。

黒い揺らめきがほんの少しでも触れさえすれば、そこからタークスライトへと侵食する。

この圧倒的に有利な条件を持ちながらも一向に追いつけはしない闖入者。

ほんの少しでも侵食させられたならば勝負も死合も喫するというこれだけの有利な状況ではあるものの、しかしながら目前の相手に対して食らった置いてけぼりを考えればこの状況は闖入者の心の安寧には少しも繋がらない。

すると闖入者は真にタークスライトを穿つ事を絶対としながらも、次第にそれを成し遂げられない現状に突き動かされては他の要因を探りはじめていた。

もしかすればその他の要因が、それこそが追いつけない理由なのではと。

しかし、タークスライトを除いてアトアイシスら四者の介入は認められない事を知り得るには少しの時間も要さず、只々劣る自身の技量を思い知らされると余計な苛立ちを添える事になるだけであった。


 闖入者の心の均衡が苛立ちに傾きかけたその次の瞬間、ただでさえ余計な思慮を挟む隙のないタークスライトの攻防に闖入者は後れを取った。

差し迫る光が眼前に近付くにつれて輝きを一際に強めていく。

闖入者は加速し続けたその時の中でゆったりとした流れに呑まれると、その煌々とした輝きにあてられて呑気にもそして現状にそぐわない思いを馳せては心の中で呟いていた。

(この光はどのような感触だろうか……?)

刹那の中でも更に微細な時の中で浮かんだその疑問に闖入者の手は自然と緩んだ。

ともすれば自らその光を受け入れては、自らの首元に誘う様に動くといつしか闖入者は死に突き進んでしまっていた。

一切の感情を捨て置いて一時の疑問に自身を沈める闖入者。

しかし、そんな腑抜けた闖入者は自らの深より鳴らされる警鐘を聞くとすぐさまに我に返ってはゆるんだ手を、延いてはその心を引き締めた。

辛うじて間に合った黒い揺らめきが光の流麗な軌跡を逸らさせると闖入者は死こそ免れたものの、その身にはまたしても捉えた攻めと違ったそれによって傷ついては血を滲ませていた。

闖入者は一度タークスライトから距離を取って仕切りなおす。するとタークスライトはそれを追ってはこず敢えてそこに佇むに留まって見せた。

突如として出来た束の間にて自らの息の上りを気付かされた闖入者。

──タークスライトの相手ではない。

脳裏に過ったそれが幾度となく反芻されるとタークスライトが少しも焦るに至っていない事を理解させられ、それどころか余裕の範疇を抜けてすらいない現状を分からせられた。


 単純な技量もさることながら闖入者が苦戦する大きな要因はそれとは別の所にもあった。それは先刻のタークスライトの攻めを逸らした時の事、視認したそれとは違う攻めが闖入者の身に炸裂していた事である。

闖入者がいくらタークスライトよりも劣るとはいえその攻め手を目で追えない程に闖入者の技量が劣等なものではなかったが、しかしながらその攻めを闖入者は捉えられない。

躱せると判断した範囲からより安全を取っているにもかかわらず、それを優に超えて闖入者を傷つけるその攻め。

これには起点が無く、気付くのはその攻めを受けたという結果ばかり。

しかし、この捉えられない攻めはタークスライトのそれよりも威力が幾分か劣るために幸いにも致命的なものとは成り難いものであり警戒を優先させる程のものではなかったが、その必要性が薄いとは言ってもそれは今までにその場面に直面していないだけであり絶対的な確証は一切なかった。

それ故に場合によってはその攻めも死につながり得るだろうといった見方で闖入者は理解しては優先度を下げていたが、死こそ感じないものの苦戦を強いる大きな要因のそれに気を向けた。

闖入者が苦戦する、タークスライトの攻防に付き従う捉えられない攻め。

タークスライトからもたらされる死の感触に比べて死を感じる程ではないとは言えども、その正体を掴めぬまま死合が長引くとなればいずれ自身にとって致命的なものとなり得ると判断した闖入者は真実の究明を優先させた。

≪アージオ≫

事ここに至って、タークスライトと闖入者では技量の差が著しい事から見える情報がいくら詳細になろうとも些細なものであると思えた。

ひたすらに見極める事に尽力していた闖入者。

しかし流麗なそれの隙を縫う捉えられない攻めの残留した気を見るなり、長らく続いた死合の最中にて闖入者はふと考えを過らせるとその全貌に辿り着いた。

それは闖入者にとって全くに見当違いのものであった。


 タークスライトの技量からのものでも、タークスライト自身の意思によるものでもないその捉えられない攻め。

それはタークスライトの本来の流麗な攻めとは違って全く軌道も何も全くに読めない攻めであり、かといって死を感じる程度にはなく詰めが甘い。しかし、攻めの形はタークスライトのそれに倣っている。

まるでもう一人のタークスライトが援護しているようでそうではないそれ。

そう推察した闖入者は捉えられない攻めの残留した気に触れてようやく気付くと視点を変えるに至り、今までの見解は間違いであったと気付くと真実に目を向けた。

捉えられない攻めの正体──タークスライトの攻防に添って闖入者を攻めるそれはタークスライト越しにのアトアイシスによるものであった。

 偶発的な現象であるアトアイシスの脳裏に起きた歪によって、自律した存在として動く事を許されたタークスライト。

本来ならばアトアイシスの共有下にて動く事を許されるはずが、自ら動く事を許されて尚且つその身はアトアイシスの共有化に置かれる。

タークスライトは現状、半分が自律した存在としてもう半分が共有下の存在としてその身を動かしていた。

これは共有下ではあり得ない言わば「好いとこ取り」の状態であり、この副産物として捉えられない攻めが成り立っていた。

この副産物は端的に言うとタークスライトとアトアイシスの二者間に起きた齟齬であり、タークスライト自身の意思による動きを現実とするならば、アトアイシスの共有下で動かされるそれを理想としたものであった。

現実と理想が織り成す攻め、それこそが攻防一体のタークスライトの技を強固なものとする捉えられない攻めの正体であり真実であった。

基本的にはタークスライトに任せた戦術が用いられるが、その先々で起きる分岐においてタークスライトが選ぶ選択肢とアトアイシスが選ぶ選択肢が一致しないその時に二つは分岐して片方は本来の攻めとして、片方は捉えられない攻めとして起きていた。

そしてこの分岐した現実と理想の齟齬が起こした捉えられない攻めの仕組みは単運なもので、現実は実態を伴うが理想は実態を伴わないため起点が無く捉えられないという有様でありそういった理由で理想に留まるアトアイシスの攻めは本来のそれに劣り死の感触が薄くなっていた。

しかし、これらは単純に現実が理想に劣るというものではなく、アトアイシスがタークスライトに対して全幅の信頼を置いているが故に現実にタークスライトが繰り出す槍術とアトアイシスが思い描くタークスライトが繰り出す槍術の方向性の違いが乖離を起こしたもので、良くも悪くもその齟齬こそが捉えられない攻めとなって起きていた。

 タークスライトという現実とアトアイシスという理想が織り成す攻勢に対して闖入者が過らせた「タークスライトを援護するもう一人のタークスライト」という考えは真であり、闖入者から見れば二人のタークスを相手していると言っても過言ではなかった。

 理想と現実が生む齟齬という乖離がそのまま幻影となって現れており、それらが一致しないならば闖入者にとって捉えられない攻めとして脅威となり得ていた。

しかしこれらの現実と理想が織りなす技にも諸刃の剣としての欠点が存在する。

それは一度でも乖離が無くなる瞬間。

タークスライトの動きとアトアイシスの思いが完全に重なり齟齬のなくなる瞬間。

その瞬間だけは現実と理想が一致した事で捉えられない攻めは存在しなくなりその瞬間にタークスライトに隙が生じてしまう。そしてその隙を捉えられない程に闖入者は劣等ではない。


 眼前の相手は一人に見えようとも背中合わせの二人によって、ただでさえ劣る自身の技量をより一層に見劣らされると真実に辿り着いても尚、闖入者には苛立ちだけがかなり先行しておりいつしか焦りを募らせていた。

すると、焦りに揺さぶられた闖入者はなかば捨て身の手段を取る。

≪クルエーレ≫

≪ビスキナ≫

≪ドゥールオーラ≫

水面に垂らした色がポタポタと落ちてはそこに薄く少しづつ滲むように闖入者の体は小刻みに揺れると二つに分かれた。

そして駆けるその速度を闖入者が出せる最大限の域にまで高めると二つの身体がそれぞれに駆け出した。

揺らめく黒い穂先が互い違いにその認識を歪めては消えていき、闖入者は疑似的にではあるものの独りだけで自身で自身を援護するという非効率な手段を取った。

単一の戦法の行く末を考えるに至っても、それだけでも限りない広がりを見せる結果。それを考慮しながらに補助するのは自身であるが故その結果は二倍へと増えていく。

闖入者は自身の思考を分けては先行する思考と後衛の思考を交錯させた。

そして元より消費の激しいその黒い揺らめきを無理矢理に分かつことでその効力は幾分か落ちるもののそれと同時にその耐えられる時間にも制限が掛けて、闖入者は短期決戦に持ち込んだのであった。

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