表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/121

第百九話

 完全な固定を施すとその刹那、全てが白紙になるように双方向の砲撃が激突した。

互いの苛烈さを考えれば、その僅かな隙間も許さない挟撃の中心ですり潰されていくしかない万物に対して、その存在が許される事もましてや残るという選択肢もあり得はしなかったが、挟撃の渦中でありながらも狭間から聞こえた言葉によって不可能が許されてしまう。

≪エイストウァリア≫

双極の光の砲撃が激突する刹那に発せられたその言葉によって、それらが止むとそこにはあり得ないはずの闖入者の姿が残されていた。そして、闖入者は段階的ではあるものの、初歩的な光の砲撃を克服した瞬間であった。

確実に触れたであろう双極の光の砲撃をものともしない闖入者。

それを見たアトアイシスは怒りを露わにすると同時に、怒るその矛先の闖入者が何もなかったかのように振る舞う姿を見て術を一つ失った事を自覚した。

双極の光の砲撃から生存した闖入者はその最中に分かり得たことを口にすると平然として納得した様子を見せた。

「なるほど」

あの時だな、と紡がれる言葉に今はない闖入者の焦りが乗るとその口を饒舌にした。

闖入者が意識を奪われたのはソルトゥエルの力によるもので、妖気がせき止められた時であった。その時に闖入者は何も感じ取れていなかったが、匂いを嗅ぐと共に完全に落ちていたのだ。

束の間に見た、アトアイシス含めた三者を圧倒する光景は「夢」であり、実際に闖入者がそれを成し遂げるには遠く及ばないものであった。

再びまみえた三者に対して、装っていた平然が解けた闖入者は感情を漏らした。

一時のものであっても、自身が「夢」に浸っては気分を良くしていた事が馬鹿らしく腹立たしい。闖入者は自身の手に得物を握った。

≪エルシーク≫

禍々しい妖気を収束させて形を成した槍は闖入者の手に握られても尚、その禍々しさを留めはしないが、それ故にアトアイシスはその槍を注視せざるを得なくなった。

それはアトアイシスの先に知り得ていた情報と違い、槍が姿形を成してはっきりとしていたからであった。

それまでに地上で振るわれていた槍は形こそあるものの、姿は定着しておらず曖昧なものであった。しかし、アトアイシスの目に今映るそれははっきりとした槍であり完全に使用者の力を具現化して形を成していた。

槍が本来の姿形を表しているという事は、ひとえに闖入者の左手の指輪によるもので、それを察してはアトアイシスの視線が自然とそこに向かうのも当然の事であり、そして指輪と共にあるその槍はアトアイシスの顔をさらにしかめさせた。

≪アーロ≫

闖入者は槍を振り回すと自身の周りにその禍々しい妖気を添えた穂先で軌跡を描いた。

身体が覚えたその技術に寸分の狂いはなく、その技術に準えて槍の軌跡は非常に流麗で美しい。そしてその軌跡が記し残した妖気は辺りに漂いながらも、紡がれた言葉によってその妖気自体に火を纏った。

妖気の軌跡を加速しては辿る黒い火が、瞬く間に穂先に追いついていく。

すると、黒い火は穂先へと追いつくなり炎へと盛らせて槍そのものに憑依した。

ただでさえ禍々しい妖気を放つ槍が黒い炎を纏う。

すると、はっきりと見えていた槍の姿形が黒い炎によって揺らめいては、見るものすべての認識を惑わせてはゆらりとした見え方が蜃気楼を思わせた。

すると、蜃気楼のように闖入者の姿も揺らめきだした。

闖入者が持つその槍は、その使用者への知覚すらも惑わせるもので揺らめきの見え方から、そこに居る事が不確かなものと相対する者は思わされた。

すると、闖入者の姿が突如として大きく揺らいだ。

直後に感づいたアトアイシスは叫ぶようにして指示を下す。

「セクタリアス!!」

今いる場所の優先権があまりにも闖入者に傾きすぎている、とその事に気が付いたアトアイシスはすぐさまゾルイアスとソルトゥエルの回避に意識を飛ばすとセクタリアスの力をもって二者を安全圏に移しては次の手に変えようとした。

しかし、闖入者の揺らめきはアトアイシスの手の先を行った。

≪ドゥールオーラ≫

ふと大きく揺らめいたそれはぐるりと回転するなり揺らめいて行く先を分けると、分裂した直後に二か所を同時に襲った。

禍々しいそれら二つは狙ったものの目の前に禍々しい揺らめき起こすと、そのままに穂先を歪めた。

一つはゾルイアスを狙い、それは少しの間も置かずに攻め立てる。

対象の前に立ちながら突き出す槍の軌道はどうしても単調なものとなりがちだが、闖入者のそれは違う。

槍の丈を無視して放つ無数の突きは縦横無尽で、二者間に隔たりを設けたとしてもそれを優に超えて突き進んだ。

獲物の死角を手数で探るように繰り出された無数の突撃。

しかし、それらをゾルイアスは己が拳で叩き起こした地殻によって防ぎ奔った。

無理矢理に叩き起こされたそれらは薄く瞬く間に用をなさなくなっていくが、ゾルイアスは突撃の数だけそれを繰り返すと、予断を許さない現状において凌ぐためにはそうするしかなかった。そしてこれにより辛うじて防ぐゾルイアスはアトアイシスの下へと移動できなくなってしまった。

ゾルイアス自身のありとあらゆる角度から攻めてくるそれらは、あまりにも多い。

それ故に防戦一方の展開に移動の余地は無かった。

そして、それらには少したりとも触れられない理由が目の前ではっきりと確認できると、その理由がさらに移動を妨げた。

禍々しい槍の突きを少しでも触れたその瞬間、薄い地殻は黒い炎が侵食してぼろぼろに崩れ去っていく。

まるで内部から虫に食い荒らされた柱のように、外見こそ変わらないもののその侵食を受けたものは赤子にすら負けるほどに脆く成り果てた。

触れた瞬間から寄生するように黒い炎は侵食する。

その事をゾルイアスの目越しに見たアトアイシスは、ゾルイアスに意識を注ぎつつも急ぎソルトゥエルにも意識を注いだ。

ゾルイアスと違い、ソルトゥエルにはそれらを凌ぐ術があまりない。

アトアイシスは闖入者が二つに分かれたことから二つ目は勿論にソルトゥエルを狙うと考えると、そうした考えの下アトアイシスは当然にソルトゥエルに意識を注いだ。

しかし、次の瞬間であった。

ソルトゥエル越しの視界に映る自身の目の前に揺らめきの起点が出現する。

その事に気が付くや否やアトアイシスは意識を自身の目に戻した。

闖入者の策はアトアイシスの考えた通りにはならず、アトアイシスの考えは大きく外れていた。

ほとんど直感のような、自身の意識を無視して動かされた身体が寸前で槍を躱す。

もう一つの狙いはソルトゥエルではなく、アトアイシスであった。

闖入者が二手に分かれたのは完全な勘違いを誘うもので、アトアイシスは見事にそれに嵌ってしまったのだ。

見事に闖入者の手に嵌ったアトアイシスを無数の突撃が攻め立てる。

初手こそ躱せたアトアイシスも、二つ目の狙いが自身であった事の間違いに動揺を隠せずいると、更なる穂先の突撃が迫っては即自的に数多の手数をもって襲来する最中、意識が混濁した。

自身の剣をもってそれにあたるアトアイシスも、その意識は未だ続くゾルイアスへの攻めとソルトゥエルに向けられるかもしれない攻めに傾倒しては自身の危険をないがしろにしてしまう。

アトアイシスの気持ちを逆手に汲んだ闖入者の攻めが見事にはまった瞬間であった。

すると、アトアイシスは自身の鋭い直感とその手の剣をもっていなし続けたが「天」の加護ありきのその身であっても徐々に死へと詰められていく。

見るに堪えない程にぼろぼろと崩れてはそこかしこに綻びを作った剣が遂には悲鳴を上げて、アトアイシスは為す術がなく躱す事だけに専念するが、それも程なくして潰えてしまうといった明確な結果があるように思えた。

やがて、その時が訪れる。

殊更に加速した穂先が躱す隙を与えずアトアイシスを完全に貫く瞬間、微かにではあったが闖入者は違和感を覚えさせられた。

それはアトアイシスの焦りの消失。

表面上は何も変わらないその瞬間も、相手の感情の機微など些細な事と考えた闖入者はその僅かな違和感に気付きつつもそのまま握った槍を突き出した。

真っすぐとした軌跡が綺麗にアトアイシスを貫く光景が繰り広げられると、固い感触を貫いた事だけが闖入者の手に伝わった。

感触からこの後の展開が見えた闖入者はそれを静観するつもりであったが、穂先伝いに黒い炎が侵食を始めるそれを見る事が出来なかった。

確実に貫いたアトアイシスの身体を蝕む光景が一向に始まらないまま、違和感の意味を強制的に理解させられる闖入者。

闖入者がそうであるように、アトアイシスの身体が煙のように揺らめいては目の前から消えた。

闖入者は握った槍から伝わる感触が偽りでアトアイシスを捉え損ねたことを自覚すると突き出した槍を構えなおすなり辺りに視線を移した。

そこには先程までの三者を攻め立てる光景が一つも見られない。

景色の様変わりは殆どしていないものの、明らかに何かが違うという違和感だけが警鐘を鳴らす。

闖入者は視界の端に捉えていた自身と目くばせをすると、片方が消えて一つに戻った。

嫌な静けさに気持ち悪さを覚える闖入者は、辺りを探るように一払いにて槍を振るう。

すると、その違和感が目に見えずとも闖入者は知覚した。

──ガン。

何もないはずの景色の最中にて振るわれた槍が行く手を阻まれると、固い岩盤でもあるかのように闖入者の振り回した槍が穂先に程近い所で衝撃を受けて弾かれた。

思いもよらない唐突の衝撃にしばし身体を膠着させる闖入者。

すると、その事から闖入者は何かを察しては衝撃の度合いをもって槍を引くなりそれへと突き立てにかかった。

視認できない何かが確かにそこには在る、そう考えた闖入者は鋭い刺突を繰り出した。

──ヒュン。

しかし、次にそこを通った穂先は何も捉えられずに終わり、風を切る音のみを残してそこを過ぎ去ってしまった。

「なるほど」

またしても同音に納得すると、闖入者はすぐさまそこから飛翔した。

闖入者の飛翔は移動というよりも回避そのもので、次の瞬間には闖入者が先程までいた場所に空間の歪が生まれており、それを闖入者は辛うじて捉えられていた。

見えない激突が作り出したその歪。

それは先程闖入者の槍を阻んだもので、それらが辺り一面に不規則に配置されている証拠であり、それらは音もなく移動しては闖入者の周りを囲んでいた。

見えない物体が激突する光景──それこそが先程見えた歪でありそれらは至る所で起こり得る。

その事に気が付いたために闖入者はすぐさま飛翔したのであったが、その飛翔した先でまたしても見えない物体によって自身の身体が行き場を失った。

見えない物体に制限される自身の行動に、闖入者の脳裏に浮かぶのは先程の歪。

直後、闖入者は次に起きる展開に思いを馳せるよりも先に身体を無意識下にて動かした。

空中で不自然な姿勢を取る闖入者も、その行動は正しかった事が眼前で知らされると目鼻先に出来た歪に少しの焦りを覚える闖入者。

しかしその焦りをよそに次なる展開が闖入者を襲った。

空中で不自然な姿勢のまま居ると眼前から圧される感触を受けて、闖入者は後方へと引き摺られた。

見えない物体が身体を圧すと激突がすぐには起きるものと考えて身構えた闖入者ではあったが、それはあまりにも長く次第に加速していくばかりで一向に起きない。

圧される感触が長引く最中にて焦り募らせた闖入者は、その次第に加速していく先に待つ激突の大きさに慌ててどうにか姿勢を正した。

するとそれを躱す事が出来た矢先に間髪入れずに起きる歪。

そうして辛うじて激突を躱した闖入者は留まる事が危険であると理解するなり、飛び続けては予測できない次のそれに備えた。

音も無く見えもしないが故に触れて始めて気付くため、激突がいつ起きるか分からない。

それが瞬時に起きる場合もあれば、今のように長く焦らされる事もあって、その時間の違いに激突の威力は依存しない。

それは最初に見た歪をもって闖入者は知っていて、標的にされた闖入者は肥大化する自身の焦りを無視できなくなっていった。

闖入者の至る所で起きる歪は止むことが無く、それらは次第に寸前へと迫ってくる。

それは見えない物体が闖入者を狙う精度を上げ続けている事の現われで、闖入者はこの時より一か所に留まる事を許されなくなった瞬間であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ