第百四話
そこに至るには避けて通れない運命が交錯すると「天」から見下ろされながらも二者は相対した。先読みによって待ち受けたリュグネロアとその前に立った者も双方に交わされるは運命のみで、少しの言葉も無いままどちらからともなく始めの一手が打たれると、その場は再び激しい戦火に見舞われた。
元々、リュグネロアはその身に奔らせた波動をもって自身の運命を先に進めるつもりであった。それはすなわち「天」へと至る事をある程度想定しての事であり、リュグネロアは最後のその時まで出来る限りファシルを援護すると考えていた。そして、ファシルとの別れ際に投げられた「必ず来い」という言葉に応えるつもりでもあった。
しかし自身の目の前に現れた者の姿を一目見てリュグネロアはそれらの考えを完全に消し去ったが、それはひとえにリュグネロア自身が油断しないためでなく、ただ忘れたわけでもなかった。
主であるピュールと別れてから今に至るまでリュグネロアが生きながらえて来たのはこの時のためであったと、それ程に因縁深い存在を目前にした今、リュグネロアは強い痛みを伴って叩き起こされた時のようにそれを思い出させられた。
リュグネロアの前に現れたその者の立ち居振る舞いは毅然としており青い瞳が印象深い。そしてその青い瞳からは、とてつもない強さの気が凄まじい練度で流れており巻き起こされたその気の流れを汲んだリュグネロアは自身の運命が決めつけられるのを否応なく分からされたが、それに対してリュグネロアは怖気づくどころか頂点を超えてゆく怒りに身を任せた。
青い瞳の者がリュグネロアに分からせた事は、点として散見していた先読みの情報を一繋ぎにさせると、それらからリュグネロアの使命を明確にさせた。そしてリュグネロアはその使命に応えるべく持てる力を発揮すると、その全ての力の解放が必要と考えたリュグネロアの行動は、そうしたならば決めつけられたそれとは違う自らの手で勝ち取った運命がその先に待っている、と信じたからに他ならなかった。
明確な仇を前にして余力を残す程冷静ではいられないリュグネロアであったが、それだけその者の事が憎くてたまらない意を表すとそれと同時に脳裏によぎったもう一つの考えがそうさせたのであった。
仇への憎しみと決めつけられた運命への苛立ち──その先の希望。
リュグネロアは威嚇するように立つとその身の大きな翼を広げては力の限りに咆哮を轟かせた。すると目に見えて空気中を伝わる波動がその者を中心に捉えて辺り全体へと伝播していく。その咆哮の範囲のものは皆一様にその姿を保つ事が出来ずに消えると、絵に描いたようにその景色を一変させたが、その絵の中心に捉えられた被写体は平然とした態度で居座ると、その絵の主題が自身であるかのようにそこから少しも動く事はなかった。
すると、その被写体が気に食わないリュグネロアは、咆哮を終えると元の姿とは全く違う本来の姿をそこに現した。
リュグネロアの纏った波動が黒く変色すると、それは辺りの空気を侵食した。
目に見えて様変わりする景色に、青い瞳の者の纏う気が触れるとそこだけは薄暗く変色する景色を拒み続けるがそれ以外の全ては黒に呑まれていく。
リュグネロアの地面を踏みしめる足はそこからも辺りを侵食していくと徐々にその身も漆黒へと変えては辺りにちりばめた黒も留まる事無く広がり続けた。
青い瞳の者の周りだけを残して全てを黒に変えたリュグネロア。その黒は限りない色調を持って何もかもを呑み込んで、そしてリュグネロア自身の姿すらも把握できない程に色を消し去った。黒に溶け込んだ漆黒のリュグネロアはその境を曖昧なものとすると、それら全てがリュグネロアでありそれら全てが力となった。
そしてそこにポツリと取り残された小島のように浮いた青い瞳の者。
その者は闇に馴染むことなくそこに在ると、それらの景色に目をやっては黒の一帯が持つ特性をある程度察すると足元の小石を自身の領域より蹴り出した。すると、領域の境界を超えた瞬間に音もなく消えていく小石。それは黒の一帯の色が濃いために目視出来なくなったというわけではなく、黒の一帯の領域に踏み込んだ瞬間跡形もなく消え去っているという事であった。
青い瞳の者は自身の察した事を確実な考えとするとその場から身動きが取れなくなってしまった。すると黒の一帯に対照的なそれを覗かせてはそこに浮かぶ二つの眼。
リュグネロアは鋭い眼光をもって少しも逸らさずその者を睨み続けると一方的な攻勢をもって闇を這いずり回った。
リュグネロアには青い瞳の者に対して並々ならぬ私怨があり、それは遥か昔の大戦に遡る。
元来、その気性から他者に従う事が殆どなく孤高の存在としてあったドラゴンはどの種族も支持することはなかった。そして、存在そのものが幻のように思われては長きにわたって伝説が残り続けたが、あらゆる生き物を使役していたピュールを主と置いたのは、そのさらに上に君臨していた者の気まぐれによってリュグネロアの身が尽きかけた所をピュールの温情ですくわれたからであった。
(……バケモノめ)
「ふーん、こんなもんか」
「もう少し楽しめると思ったけど、大した事ないね」
禍々しい気を纏ったその者は自らの剣を消すとリュグネロアのぼろぼろの体の上に座り込んだ。
「これじゃ、物足りないんだよね」
足をバタバタとさせながら、リュグネロアの上でうーんと唸りながら考え事するその者。その姿は嬉々としており童心のようなその様子から、適当な物に腰かけているような振る舞いに思えたが、リュグネロアは折れた牙の隙間から流れる血を食い縛った悔しさによってさらに滲ませた。
「……そうだ!キミの体をいじってもっと強くしてあげるよ!」
「いいよね?弱いから丁度いいと思わない?」
椅子から飛びのくようにリュグネロアの身体を蹴ったその者はリュグネロアの顔の前に降り立った。その所作はリュグネロアの事を適当な物とすら考えていない様でその体の傷が悪化しようとも遠慮が一切見られない。
そして、満面の笑みを浮かべながら何処からともなく一冊の分厚い本を出現させるその者。すると、その本を自らの指でめくるとそこに書かれた文言を確認した。
「あったあった……どれどれ」
嬉々とした表情を覗かせるその者はリュグネロアの目の前で本を読み解くと、視線をそのままに手をリュグネロアにかざした。
「キミはもっと強くなるよ、よかったね!」
然もそれがリュグネロアにとって良い事であるというその物言いは、自身の楽しむといった感覚以外の全てを考慮せず、リュグネロアの意思は勿論に考慮されない。
「アーディ……」「待ってください!!」
その者が力の発現を試みようとしたその時、別の者がそこに割って入った。
「──様、お持ちください!」
リュグネロアの顔の前に立ったその者は両手を大きく広げると力の行使を遮った。
「なんだよ、ピュール」
少し不貞腐れたような口調で不満を表すその者であったが、言葉こそやわらかいものの纏った気が冗談の範疇を超えてピュールの足を震わせた。
「このドラゴンを殺してしまうのは勿体ない事でございます!」
ピュールは足を震わせつつも自身の命を顧みず、滾々とドラゴンが如何なる存在でどれだけ使い道がありどれほど役に立つかを説明した。そしてその忙しない動作をもってピュールの焦りの色を見たリュグネロアは意識を朦朧とさせながらもその意識を途絶えさせないようにしていた。
そしてしばらくの時が流れた。
「わかったよ、仕方ないな」
その者は手に持った本を消すとリュグネロアの処遇をピュールに任せてその場を後に次の楽しみへと向かうと姿を消した。
しばらく続いた説得が実り、安堵の息を漏らしたピュールはその場にへたり込んだ。
「……助かった」
リュグネロアを庇ったそのピュールの行いは咄嗟の事で、一歩間違えればピュール自身もその場で死んでいたかもしれなかった。それは最早生きている間に直面する如何なる時よりも死に直面した瞬間であった。
「大丈夫か?」
ピュールは救いの手を差し伸べたリュグネロアにそう声を掛けた。
(……)
しかし、辛うじて保たれたリュグネロアの息に気が付いたピュールは自身の持ち物を探った。
「待ってろ、今治してやるからな」
しかし、自身の衣服を探る手は一向に目当ての物を見つけられないようで、その手が忙しなく衣服を弄ると次から次へとその個所は移っていった。
「えーっと、ここか?……違うな、どこ行ったかな」
ピュールは次第に焦りの色を濃くすると、持ち物を探るその手をさらに忙しなくしていく。
「あれ……あれ?」
刻一刻と、目に見えて疲弊したリュグネロアのその身体から力が抜けていく。
焦るピュールとその様子とは真逆の静かなリュグネロア。するとその瞬間、焦り散らかすピュールをよそにリュグネロアの身体が淡い光に包まれた。
みるみるうちにリュグネロアの身体の傷が癒えていく。
やがてその身体が癒える頃、ピュールはやっと見つけた薬を手にリュグネロア見るとその様子にきょとんとしながらも、リュグネロアの身体を癒した者から叱責を受けた。
「いつも言ってるでしょ、荷物を整理しろって」
「え?……あ、ごめんごめん」「治してくれたのか、ありがとう──セリーネ」
「まったく」
腕を組んで顔を逸らしたのは、ふくれっ面をして見せたセリーネであった。
セリーネはピュールのその大らかさとも鈍感さとも取れる思考に呆れると、いつもながらの態度に思うところがあるようであったが、セリーネはその言葉に続く二の句を諦めた。そして話題を変えるとピュールの傍らで眠り続けるリュグネロアの事について訊いたのであった。
「それで……その子はどうするの?」
「えっと、こいつか?そうだな……こいつは逃がすよ」
「はあっ?!」
いつもながらにおっとりとしながらも、突拍子もない言葉に難色を示すセリーネ。
セリーネはピュールの発言に動揺するとそのままにまくし立ててはその発言の意図を問い詰めた。
「あんたねぇ!」
食って掛かるセリーネの勢いに押されて、ピュールはお手上げのように両手を胸の前に挙げるとセリーネをなだめつつもその意図を説明しだした。
「こいつは」
ピュールは口を開くなり先ず始めに語ったのは生き物の当たり前の特性であった。種の存続であったりそれに伴う行動から何からと得意な事とあって滑らかに滑るその口は、いつものゆったりとしたピュールからは想像できない程に饒舌で、出てくる言葉からは余念がない様が伺えた。
「……という事であって、それらにはまだ解明されていない事が山ほどあって……」
口を衝いて出る言葉は留まる事を知らずそれらから語られた「如何に生き物は素晴らしいか」という事に息巻くと、ピュールが流れのまま次に話し始めた事は「生き物への敬意」についてであった。これまた自分自身の事とあって饒舌さに拍車がかかるピュール。するとそこから話はまだまだ続くと思えたがセリーネはそれを最後まで聞き続けた。
やがて話の終わりが見えてくるとセリーネは少しため息を漏らしたが、ピュールの長い話の後に付け加えられた言葉がセリーネの心へと妙に響いた。
「だから……」
「だから、俺はこいつらが自然の中で静かに暮らせるようにしたい」
「そのために、戦いに参加しているんだ」
「俺は争いが好きじゃない」
「でも、この戦いを早く終わらせられるなら」
「俺は自分の出来る事に全力であたるだけだ」
ピュールは生き物と通じ合える力がもっとも秀でている。そして、その力があらゆる生き物の命を尊重するための近道ならとその力を行使していたのであった。
ピュールはセリーネに多くを語ると優しい眼差しをリュグネロアに向けてそのまま自身の手を、目をつむって眠るリュグネロアの頭に乗せた。そしてピュールは優しく頭を撫でると、その眼差しに強い意志を内包しつつも穏やかな優しさを向け続けた。
セリーネはピュールの仕草から、どれほど生き物に対して愛を注ぎその思いを向けているかが伺えると、心がざわつき始めては頭が沸騰する感覚に駆られると、顔を赤らめた。
そしてそれを悟られまいと顔をピュールから逸らすと、心を大いにざわめかせつつも納得して引き下がる他なかった。
ピュールは本心を一通り告げると、セリーネに向き直った。すると、真剣な面持ちが一転して穏やかないつもの顔へと変わる。
「だから……」
「あの御方には内緒にしてくれ、頼む!」
そう言うとピュールはリュグネロアを撫でていた手ともう片方の手を合せてセリーネに懇願して見せた。するとセリーネは、ピュールのその対照的な様子に呆れると先程までの心のざわつきを隠すように口を紡いだ。
「わかった、わかったからっ!」
(もう……ばかっ!)
「え?なんて?」
「なんでもない!先に行ってるからっ!」「早く来なさいよ!」
そう言うとセリーネはその場を後にしてそそくさと消えた。
「ありがとう」
ピュールはそう呟くとセリーネを見送った。そして再び独りになったピュールはリュグネロアに向き直った。その時であった。
鋭い眼光が一か所に集中してピュールの体にずしりとした感覚がのしかかる。そして、体の自由が利かなくなったピュールを黒い気がたちまちに覆った。
気の潮流はピュールに辛うじて触れはしないが、ピュールの衣服の端は微かにそれに触れたらしく消え失せて無くなった。
全てを呑み込んで荒れ狂う黒い景色はピュールを中心に置くと、いつでもその体を食らう事が出来ると圧しては動揺を誘った。
身動きの取れないピュールの足元が少しずつその領域を狭めていく。
差し迫る死がピュールに近付くとそこに在るのは矮小さのみであると黒いそれは考えていた。
先刻の底知れない強さの者とは違い「貴様はいつでも殺せるのだぞ」と言わんばかりのその考え。
しかし、黒いそれが捉えた先に在ったのは、それらに全く動じないピュールの姿であった。それどころか心無しかピュールの面持ちは明るい。
自身に迫った死よりも黒いそれの元気な姿に喜んでいるようにすら見えた。
すると、黒いそれは少しの沈黙に身を置くとピュールの体に少しの自由を与えては疑問を投げつけた。
──なぜ庇い、なぜ逃がす?
ピュールの行動の全てが理解できない様子の黒いそれは素直な疑問を抱くと、不器用なままに言葉を投げてはピュールの返事を待った。すると、ピュールは首から上だけの自由をもってその下手な質問に誠意をもって応えた。
──俺は生き物を使役して戦うのだが、それがとても酷い方法だと自覚している。それは自分の手を汚す事無く、生き物の生死を道具として扱う事だ。そしてその結果次第では悲しみが付きまとう。それはお前だけに限った話ではなく、俺が使役する全ての生き物に通ずる事だ。それをお前に強いる事が俺には出来ない。
──詭弁だな、それであってもお前は生き物の生死を御してはそれを強いているではないか。
──確かにそうかもしれない……。
ピュールは自身の誠意をもってしても逃れられないその所業がついて回ると、黒いそれの指摘をあっさりと肯定しては押し黙ってしまった。
喉元に感じられる圧迫感が殊更に強くなる感触を感じ取るとピュールは死を受け入れては仕方ないと考えていた。
しかしその瞬間、何処からともなく現れた一匹の生き物。それは自身の身を顧みず黒の景色に飛び込むと言葉無くして黒いそれに訴えかけた。
すると、ピュールの首にゆとりが取られていく。
黒いそれは自身の作り出した景色の中で、自身にとって矮小に思えるその生き物の滞在を許可するとその真意に興味を持った。
到底勝てない相手に立ち向かうその姿。ましてや自身を使役しては無理強いするその者を庇うその姿。
身動きの取れないピュールの命を奪うなら絶好の機会にそれとは反対の助けるその行為。
矮小な生き物の真意が黒のそれの気を引くと、再び口を紡ぐ機会に恵まれたピュールは沈黙したその先の自身の思いを語りなおした。
──実際の所、俺はこいつらを使役できてはいない。こいつらの自由は常に各々の手に在って、俺は強制を図った事はない。
──どういうことだ?
──こいつらが賛同してくれるから、その厚意に甘えている。しかし、俺の主はそれを見逃してくれているのだろうが、俺が主の思惑に従う限りそれすらも見逃されている。俺は主にもこいつらにも甘えて今ここにいる。だが本心は決して狡猾のそこには無くて、俺はそれを最も嫌う。これだけははっきりと断言できる。
ピュールもまた、不器用なまでの実直さを黒いそれに向けてぶつけると、自身と生き物の協力関係を殊更に強調してはそれを訴えた。すると、景色に再び彩がもたらされるとピュールの体は自由を取り戻し、そしてピュールは真っ先に自身を助けてくれたその生き物の心配をしたのであった。
ピュールは解放されると自身の仲間に礼をしつつも踵を返して、リュグネロアに背を向けた。すると、リュグネロアはその様子にモヤっとした感情を抱くと黙って見過ごしはしなかった。
「ありがとうな、助かったよラティフ」
(待て!)
リュグネロアの咄嗟のそれにビクッとさせて立ち止まるピュールとどこかへ消えたラティフ。
「な……何?」
独り取り残されて恐る恐る振り向くピュール。その姿は先程までの雄弁さが欠片もないいつものピュールのものであったが、それに構うことなくリュグネロアは言葉を紡いだ。
(お前には助けられた恩がある)
「え……いや、大丈夫だよ」
戸惑いながらもリュグネロアの感情を逆撫でしないように取り繕うピュール。しかし、その咄嗟の返事がリュグネロアにとってはすぐさまの拒否と取れてしまった。リュグネロアの眉間にしわが寄る。
(なんだと……?)
「いやっ……えっと……」
自覚なく窮地へと自身から飛び込んだピュールは言葉につまると沈黙しか残されていなかった。
(フンっ、まあいい)
(お前には助けられた恩がある。だから貴様を手伝ってやる……)
「……」
咄嗟に出そうになった言葉を飲み込んで沈黙を続けるピュールではあるものの、それをよそにリュグネロアはとんでもない事を申し出た。
(そのかわり、貴様は俺と眷属の誓いを立てろ)
「え……ええぇ!!」
怖気づいた事すら忘れて声を上げるピュールであったが、その申し出を断れるはずもなく驚いたまま固まっているとリュグネロアはさらに言葉を紡いだ。
(そうすれば貴様が何処に居ようとすぐに駆け付けられるからな)
(それに貴様は後先を考えず危なっかしい)
(先程のバケモノがいなくなった所で貴様は死んでいたかもしれんぞ)
(その点、誓いを立てれば俺の能力で先が見通せるぞ!)
意気揚々と楽し気に眷属の誓いを立てる事の利点を話すリュグネロア。すると、驚愕という硬直が解けたピュールは、それをしどろもどろになりながらもやんわりと断ろうしたが、すぐに飛んできた鋭い眼光に圧されて返事をした。
「……はい、よろしくお願いします……」
ピュールはリュグネロアの申し出を受け入れると、眷属の誓いを立てた。そしてお互いの名を誓いによって通じ合うとリュグネロアの更なる申し出に再び驚愕しては、ピュールはこの世界において唯一無二の存在となった。
(ピュールか、これからは主と呼ばせてもらおう)
他の種族の者がドラゴンと眷属になった瞬間、その者はドラゴンを配下に置いた。
そして時が大きく流れて世界全体を巻き込んだ大戦が勃発すると、ピュールは青い瞳の者と対峙したその時、運命を受け入れてその生涯を終えた。
ピュールは、自身の思いに応えるために賛同した仲間が散っていくその最中で悲しみに暮れると、自身のその優しさという弱さからリュグネロアを戦場から遠ざけてはその戦いには参加させる事はなかった。
そして、ピュールの死をセリーネから聞いたリュグネロアは怒りに荒れ狂うと大戦末期の世界を端から端へと翔けてはその怒りを撒き散らしたのであった。そしてその時の事が言い伝えとして今に至るとそのドラゴンの姿に恐れをなした人々によって、今も伝説として幻のように扱われている。




