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第百話

 燃え盛る大地に降り注ぐ雨は、それを生み出した者によって雷に彩られると通り抜ける風に乗ってそこに結晶を成した。

リュグネロアの及ぼす力の全ては四つの属性に帰属して、それらの全ては相対する羽付きの使用できる上級のそれを遥かに凌いだ。

轟音を携えた雷、大地を濡らす雨、駆け抜ける疾風、燃え盛る業火。

それ故に衝突するお互いのそれが相殺に至る事はなく、陽の前の火花の如く散ってはリュグネロアの圧倒的な優勢にあった。

元より低く下に見えるそれも、怒るリュグネロアの制御を無視した今に至っては、最小にして最大の天災であった。

「始末に悪いな」

気まぐれに思える空模様を正面から相手する羽付きは、その天候に向けて無い顔を上げると降り注ぐ雷を見たその時には、それを凌ぐ速さで一歩二歩と後退していた。しかし、天災はそれ自体も動き及ぶ。

雷光を凌ぐ速さをもって躱す羽付きであってもそれは想定超えた事であって、見てくれを無視した速さで振るわれるその大きな尻尾の先の大剣を躱しそびれた。

殻の中で浮く目玉はその衝撃に震盪を引き起こすと、羽付きはその視界が歪に流れるのを見て衝撃の意図を知る。

宛がわれた大剣が、高速の最中で殻にみしみしと食い込む音を引き起こしたものの、それが聞こえてきたのは後の事で、景色に追いつかないその音もそれを超えた衝撃と音にかき消された。

 横薙ぎに振り回された尻尾を受け止めた羽付きは荒れ果てて大地に隆起した氷柱に激突した。絶対零度下において堅牢に築かれたその大きな氷柱ですらも、天災自らの力の前に砕けて消える。怒りをもろに受け止める羽付きであっても無事には済まないその衝撃。

羽付きは自身の意識下で状況の把握を図るが、その少しの間を持つことはすら許されず勿論に無いその一呼吸を吞んだ。そして、更なる攻勢が引っ切り無しに続いていく。

 吹き飛んだ羽付きを追って、奔る眩い光が氷柱を引き裂いて生えると間髪入れずに突き刺さった。大地から幾重にも伸びる光の木は羽付きの体を打ち上げるように持ち上げるとその身を空に晒させた。

 空には無防備な羽付きの姿。

空へと磔にされた羽付きを照らす陽の光はその大きな身を熱く赤く燃え上がらせて照り付ける。しかし、羽付きの真上に出来た太陽は地表に近すぎる。

辺りの大気が異様な照り付けに添って明らかに温度を上昇させている事が分かる。しかし、太陽はさらに羽付きへと近付いていく。

眼前の眩しさに呆れた表情を覗かせる羽付きは、あまりの大きさに対して遅く近付いてくるそれをどうする事も出来ず甘んじて受け止めた。

殻の中で血走る目玉。

触れる事自体が大きな痛手のそれは、その大きな質量を持って羽付きを地に叩き落とし圧し潰す勢いであり、太陽を受け止めて落ちる羽付きの背にはそこに向けて伸びる鋭利な結晶塔が地表より太陽に向けてそびえ立っては差し迫る。

間もなくして、それらの挟撃をもって天災に圧し潰されていく羽付き。

二つの境界としてそれを一身に背負った羽付きはそれら相対的な温度差がもたらす異常な領域に到達したその中心地でその身を崩していった。

景色の認識が甘くなっていく。すると、羽付きが見届けるそれは一色に染まって他を全くの無へと変えていく。

その色は一言に、白。

そこにうっすらと在り続けた羽付きも、瞬く間に呑み込む白に対して自身のみが影を落としていたが、やがてはその濁流に呑まれて同じに塗り替えられた。


 空から見下ろす天災は黒煙が残り続けるそこを見ると嵐を巻き起こした。

爆心地から流れて去る鬱陶しい黒煙の姿。それらが消えていく時間は少しも要さない最中、天災は自身の口を開いた。その様子はとても大きく、鋭い顎がはっきりと伺える。すると、そこに吸い込まれていく辺りの気。それは、次第に周りへと波及するとそこに莫大な力を生み出した。

 開かれた口の前に集まった気は光となって形を成していくと、そこに留まり続けてその量を増していく。

天災が及ぼす青天井の力の中でも計り知れないそれは、今に解き放たれようとしている。

肥大化する光の集合体は、その体を成すために寸前のところで力を保ちながらもバチバチと漏らしつつ破裂を逃れていると、光の集合体は天災自体を超えてそれそのものが本体であるように大きくなり、その身が崩れる寸前の所を辛うじて耐えると、やがて空を離れた。

地に降り注ぐように飛来する波動の塊となった光の集合体。その落ちていく軌跡は通過したもの全てを塵すらも残さず消していく。

爆心地に向かう波動の塊はやがてその身を地につけると大きく破裂した。

それまでの全てが茶番に思える程の力の炸裂は地表の様を変えていき、それはまるで空気を押した手にそれが殆ど無いように全くに抵抗が伺えない。

それ程に強い意志が込められて波動の塊をなしたそれはそれだけに天災の意を示すと、それが及ぼした衝撃は地を大きく平らげた。


 元の姿が想像できない程に様変わりした地表はその新しい表情を覗かせていた。

リュグネロアは空に舞いながらも羽付きがいたであろう場所を眺め続けて、大きく変わったその景観にリュグネロアの感情は少しばかり落ち着きをみせる。

 煙が上がる中心地に小さいがとても強い光の一点をみるリュグネロア。すると、それは素早く飛んではリュグネロアの目の前へとやって来た。リュグネロアは視界のそれに唖然とした。

「騒がしい畜生だな、放牧の気が抜けておらんのか?」

リュグネロアの持てる力の殆どをぶつけたにもかかわらず、爆心地に「敢えて」留まり続けた羽付きは軽い物言いで言葉を紡ぐとその身の安否を明確にしてはリュグネロアの奔走を徒労にさせた。どうしたって隠せないその感情が面に出たリュグネロアを見て羽付きは更に言葉を続ける。

「どうした、あの程度で死に辿り着くと思ったのか?」

「驕るなよ……躾が必要か」

羽付きは言葉を尽くすと、自身の前に球体を現し、それをもって地表に未だ漂うその余韻を吸い上げた。

瞬く間に収束していく波動の痕跡。そして、出来上がったその球体をいくつにも増やす羽付き。すると、次の瞬間には羽付きはリュグネロアの前から消えた。

リュグネロアが、見失った羽付きを追うために動かそうとした視線ではあったものの、それは微動にすら至らず肉薄した羽付きを捉えた。そして渡された球体。

リュグネロアが起こした数多の天災を刹那にして返す羽付き。

この時、リュグネロアは自身の感覚が異常な程に鋭くなるのを感じ取ると、刹那に後れを取ったものの瞬息にして作りえた障壁によって辛うじて致命傷を免れたが、目の前に現れた羽付きを捉えた時には躱す事が間に合わず、それをもろに受け取った。

空に波及する衝撃の波。

それだけに凄まじいものを受けたリュグネロアは大きく吹き飛ばされた。

その巨体からは想像しにくい程の速度で飛ばされるリュグネロア。しかし、それだけに終わらない羽付きの攻勢は空に現した球体の数だけリュグネロアに渡される。

巨体の行く末に置かれた球体。

リュグネロアは吹き飛んだ矢先に再び大きな衝撃をもって別の方向へと吹き飛ばされるとそれを何度も何度も繰り返しては、空にて跳弾した。

リュグネロア自身が起こした天災を何倍もの数にして返す羽付き。その邀撃の数々はそれ自体を圧縮した事によりさらに威力を増しており、天災を超えた天災がリュグネロアに降り注いだ。


 空に幾重にも咲き誇る大輪の華はそれぞれが大きな音を轟かせて弾けると地表からは眩しく映った。

リュグネロアは作り出した障壁によってその衝撃を堪えるとそれが早々に去る事を待ち続けていたが、心許ない障壁が予想よりも早く音を上げると降り注ぐ天災を直接にその身に受けた。

繰り返された跳弾の嵐の末に墜落するリュグネロア。それは、地表に新たな痕跡を作り出すと落雷の如く轟音を響かせて地を均した。

羽付きが授けた大輪の華の顛末に、ぼろぼろになって立ち上がる事すらままならないリュグネロアの姿。その身からはあちこちに出来た傷から鮮血が垂れ流れている。

生き物ならば致死量であろうそれも、地に散見する破片と同じく散っていくとやがてそれは溶け込むように消えていく。

辿り着く先に死を目の当たりにしながらも、どうにかして立ち上がろうとしてもそれが出来ないリュグネロア。しかし、それを見下ろす羽付きは空に舞い、佇む。

「大人しくなったな」

やれやれと言った雰囲気をありありと表す羽付きは「だが」となおも言葉を紡ぐ。

「寝そべれとは言っていないが……?」

たっぷりと取ったその間に窘めの意を込めると羽付きは地表にて、大輪の華を咲かそうと再び球体をそこに現した。そして、リュグネロアの姿勢を正そうとそれを渡した。


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