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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奈落の天使 ~エロゲーに転生しても、恋愛は難しい~

作者: なかそう

 深夜0時、とある狭い部屋で、1人の男がパソコンでゲームをしている。

 ”カタカタ”と軽快なリズムキーボードを叩く音と”カチカチカチ”とマウスをクリックする音だけが聞こえるほど、男はパソコンの画面に夢中になっている。

 彼の名前は星水零一。



「あ~、やっとクリアできた~!うお、か、肩が・・・」



 ずっと椅子に前傾姿勢で座っていたせいで、肩の部分が針に刺されたような痛みを訴える。もしかして肩の血管がちぎれてしまったわけではないよな?と思うも、星水には<後悔>というものはなかった。むしろ、これくらい熱中できるゲームを作ってくれた会社に感謝するほどであった。



「いや~、めっちゃ面白かったし・・・めっちゃエロかったな、このエロゲー」



 星水が先ほどまでプレイしていたゲームは・・・・・・Hなゲームだった。

「スリーワールド」という1部のコアなファンがいるゲーム会社がある。その会社のゲームの特徴として、1つの大きな大陸の世界に3つのジャンルのゲームを作っている。

 その内の2つが「RPG」と「シミュレーション」であり、RPGで主人公だったキャラがシミュレーションゲームにお助けキャラとしてきたりするといったことがあり、そのキャラが好きな人は、

「RPGしか買う気なかったのに、主人公が好きになっちゃったからシミュレーションの方も衝動買いしてしまって金がねえW」

 と嘆く人もいた。


 それだけならまだいい。問題は3つ目のジャンル「エロゲー」の方である。これにはネット上でも、



「2次創作で、ゲームのヒロインの同人誌とかは見たことがあるけど、公式がそれをやるのは控えめに言ってイカレてる」

「公式だから流石にパンツが見えるくらいかと思ってたら、ガッツリにエロいやつで、性的興奮より笑いが起こったわ」

「恋愛シミュレーションゲームのヒロインのエロゲーもあって、俺ヒロインのこと健全な目で見れなっちゃたから会社を訴えます」



 というコメントが当たり前のようにあるが、ゲームの平均評価は今のところ全て高評価なので、まあ結局のところみんな楽しんでるんだろう。

 ちなみに星水がやっていたのは、()()()()()はエロゲーだけしか登場してないゲームである。


<奈落の天使>


 これは主人公が2人いるゲームで、プレイヤーは初めに2人のうちのどちらか(ちなみに両方とも女キャラ)を選択する。そして選ばれなかったヒロインはラスボスの催眠によって連れ去られてしまう。それを選択したヒロインをプレイヤーが操作して助けるゲームである。

 そしてこのゲーム、ゲームオーバーした回数でエンディングが変わる。



 Aエンディング:「ルナ!助けにきたよ!」「サクラちゃん!・・・私、わたし!!」「謝らなくていいって!私たち友達でしょ!」「!・・・うん、うん!!」


 2人は笑顔でハグをしてハッピーエンド



 Bエンディング:「ルナ・・・・・・助けにきたよ」「サクラちゃん?」「アハハ・・・わたし、汚れちゃったんだ・・・」「・・・それでも、私はサクラちゃんの友達だから」


 静かに涙を流しながらも、2人は静かにハグをしてビターエンド。



 ちなみに星水はサクラのルートしかやっていない。このエンディングにネット上では、



「俺は百合至上主義だからエロいシーンは一切見ずにクリアしたけど後悔はなかったわ」

「百合が好きだったのに、自分で百合の花を汚す背徳感に目覚めてしまいました。会社は責任をとってください」



 という、性癖のオンパレードなコメントばかりであった。ちなみに星水は「いや女の子同士が仲良かったら百合認定するのおかしいだろ。男同士が肩を組んだらホモになるのかよ?」と、百合否定派である。



「しかしこのゲーム、ストーリーが普通に面白かったな。最終的にはエロシーンとか普通にスキップするくらい熱中したわ・・・なんのためにエロゲー買ったんだよ」



 ゲームをクリアした達成感と虚無感から頭が冷静になった星水である。とりあえず、先ほどまで座ったままの星水は何となく運動したい気分になった。散歩でもしようかと考えた星水は半袖のシャツと短パンに上着を着た服装で家を出る。

 外は真夜中の深夜。冷たい風が吹いているが、興奮で体温が上がっていた星水の体にはちょうどよかった。



「ふあぁ・・・」



 心地よい外の環境に星水は強烈な眠気をおぼえる。脳が睡眠を求めているのか、あくびをしてしまう。ついでに目も一瞬だけ閉じる。





 これがいけなかった。






「ふあぁ・・・・・・は、なんだここ?」



 目の前に広がるのは見たことのない木々だ。ついでにさっきまで空に浮かんでいた月が太陽に変身している。夜だと思ってたら1秒で昼? タイムスリップでもした?

 明らかに常識にない現象だが、不思議と焦る気持ちがなかった。



「あー・・・・・・異世界転生か」



 ラノベの見過ぎか? 小説の見過ぎか? とにかく星水は異次元の出来事に汗1つ流さなかった。むしろ、2次元も役にたつもんなだなあ、と感心するくらいの余裕があった。



「でも、この光景どっかで見たようって、うわ?!」



 慌てない余裕はあった。だが興奮はしていたのだろうか、足元の石につまづいてしまう。



「あ、ああぁああああああ!?」



 しかも不運なことに、そのまま”ごろごろごろ”と転げ落ちていく。どうやら自分は山の斜面を転げ回っているようだと悟る。世界が回る。脳と思考も回るが、回りすぎて頭の整理ができない。

 だけど、そんな時間も終わりを告げる。少し転がり続けていると平らな地面が見えてくる。どうやら終点らしい。星水は山に追い出されるかのように山の木々を駆け抜けると、広い広場に弾き飛ばされた。



「・・・」

「ん? 誰だキサマは」


「ハァ、ハァ・・・え?」



 どこかで聞いたことのある声が聞こえる。星水は全身が痺れるような痛みを抱えながら起き上がる。

 そこには、顔はイケメンで甘いルックスだが痩せこけている色気のある白髪の男と、呆然と立ち尽くして目に生気が見られないピンク髪の少女、そして5頭のオオカミに囲まれている巨乳の青髪の少女がいた。



「・・・・・・は?」



 初対面である。少女たちと星水は初対面である。()()()()()()()()()()()()()()()()


<奈落の天使>


 それは星水が異世界に来る前にクリアしたHなゲームだった。そして目の前にいる人物全員が、そのゲームに出ていた登場人物であったからだ。


 どうやら自分は異世界・・・と言っても、正しくはゲームの世界に転移してしまったようだが。



 ♢ ♢ ♢



 青髪の少女、本名をルナ。


 ルナは今、大切な人が白髪の男に催眠をかけられて連れ去られようとしているのを止めようとするが、5頭のオオカミに囲まれて動けない状態だった。

 しかし、いきなり後ろから現れた変な服装の青年が現れたことで状況が変わる。



「「グルルルル・・・」」

「ひっ・・・!」



 ルナを囲んでいた5頭のうちの2頭が狙いを青年に変更する。



「なっ!おい、よせ! そんな奴より悪魔の女の方を狙え!!」



 オオカミの予定外な行動に白髪の男は慌てる。一方でルナは自分を取り巻く不利な状況が好転したことを見逃さない。今なら、目の前のオオカミを蹴散らしてサクラちゃんを助けにいける!・・・・・・行けるはずなのに、



「くっ、くるな・・・」



 それは、自分の後ろにいる青年を見捨てるに等しい行為だ。



「・・・」



 目の前にいる大切な人を救うか、



「ハッ・・・ハッ・・・」



 後ろにいる見ず知らずの青年を助けるか。2つの選択肢を天秤にかけて、ルナが選んだ答えは・・・



「ハァアアア!!」


「「ギャウ!!」」



 反射的だった。一瞬だけ青年の顔を見た。恐怖に支配され、腰を抜かしている表情に彼女は思わず青年を襲うつもりのオオカミを軽く蹴り飛ばした。



「!? 後ろ・・・!」



 しかし、それはルナにとって自殺行為であった。それに気付いたのは星水であった。だが、それでは1手だけ遅かった。



「「「グルルぅアア!」」」



 ルナと対峙していた3頭のオオカミは、彼女が星水を助けるために背を向けたのを見逃さない。オオカミ達はルナの背中に爪で引っ掻いたり噛みついたりと連携した奇襲攻撃をした。



「アアッ!・・・ぐっ。はな、れて!」

「「「ガウっ!」」」



 ルナはオオカミに嚙みつかれながらも必死に振りほどいたが、満身創痍になってしまう。


 どうしよう、このままじゃ魔力がなくなって・・・どうして、こんなことになってしまったんだろう。この人(星水)が現れなければ・・・ううん、違う。私のせいで・・・


 星水の場違いな乱入によって絶体絶命のルナ。



「クっ、ハハハハハ! おいおい見たか?!お前の友人は人間の真似事なんかしたせいで大ピンチだ!」

「・・・・・・」

「ハハハ! そういえばオマエは僕の催眠にかかっているんだったね。コイツは傑作だ!」



 勝利を確信して高笑いする白髪のイケメン。催眠にかかってしまい何もすることができないサクラ。



「「「「「グルルルル!」」」」」



 ルナに今にも飛びついて、彼女の肉を嚙みちぎろうとするオオカミ達。



「あ・・・イヤ・・・・・・」



 そして、何も成せぬまま<死ぬ>という事実に耐え切れず、涙がこぼれてしまうルナ





「なあ、俺の血を飲めばなんとかできる?」





 そんな状況を変えたのは、いきなり奈落の天使(彼女たちの舞台)の世界に現れた星水だった。



「え?」



 耳を疑った。今、この人はなんて・・・


 そう思いながらルナは青年の体をよく見てみると、彼の体のいろんなところに切り傷やすり傷があり、傷口からは綺麗に真っ赤な血が溢れている。

 ”どくん”と、心臓の鼓動が高鳴る。いつの間にか、口からは<よだれ>が出ている。



「できない? てか、できなかった場合、お互い死んじゃうから困るんだけど・・・」



 星水は傷口から出てくる血をルナに捧げるように、腕を彼女の口に近づける。



「で、でも・・・」



 駄目!ダメ! そんなことしたら私、は、



「大丈夫だ!たかが血を吸われた程度で嫌いにならねえ! むしろルナほどの美少女に吸われるなら光栄だ!」



 キライに、ならない・・・だったら、うん・・・・・・しょうがないよね♪ これは、必要なことなんだから♪



「何をしようと・・・ま、まさか!?正気か?!クソ! オオカミども!さっさとソイツらを殺せ!!」

「「「「グるるぅぁア!!」」」」



 この後、星水がなにをするかを察した白髪のイケメンは、あまりにも彼の異常な行動に顔を歪ませる。


 バカな!?あり得ん! だが、もしそうであるならば!!


 この一瞬の迷いが、白髪の彼にとっては致命的だった。1手、遅れたのだ。



「あ~・・・んっ」



 ルナが星水の腕を優しく噛んだ。



 ♢ ♢ ♢



 血とは、人間にとって<命>とも呼べるものである。であるならば、血を捧げるということは命を捧げるということなんじゃないだろうか。



「んっ・・・んっ♪」

「・・・っ!」



 太い針で傷口をえぐられている痛みと共に、すごい速さで血を吸われている。全身から血の気が引いていくのを肌で感じる。たしか人は20%の血を失うと死ぬとかなんとか。頭が回らなくなってくる、視界もチカチカとお星さまが見える。

 もしかしなくても、今の自分ってマズイ状態なのでは?・・・・・・だけど、



「んっ♪ んっ♪」



 とろん、とした目で頬に熱を帯びせながら一心不乱に吸血するルナの表情に、「あ、いかん。なんかエロすぎる。もうちょっとあげちゃお」と命の危機に瀕してるのに性的な興奮状態の自分に笑えて来る。



「「「「ガアアアアっ!!」」」」



 あ、マズイ。オオカミが襲ってきてる。あ、でもオオカミの動きがスローモーションに見える。これなら大丈夫か・・・いや走馬灯じゃないこれ!?


 オオカミの牙と爪が2人に襲い掛かる。





 その直前だった。





「ガウっ!」「ギャッ!!」「・・・ッ」「グワンっ!」



 4体のオオカミは何かに貫かれた。



「ブリザード、アロー」



 ルナが口周りを赤く染めあげながら、ゆっくりと立ち上がる。オオカミを攻撃したのは、<氷の矢>だった。気づけば、ルナの体からは凍ってしまうような冷気が溢れている。

 そして冷気は次第に凝縮されて1本の氷の矢ができる。それが何十本と空中に浮かんでいる。

 その光景を星水は美しいと思った。1本1本の透明な氷の矢は鏡のようにルナの顔を映し出す。そこが彼女の顔のよさも相まって、とても幻想的に見えた。



「グルルルル・・・!」



 5頭のうち4頭のオオカミが倒れ、残ったオオカミがルナと1対1で向かい合う。



「チッ!こんなの想定外だ。ここは撤退するしかないのか・・・!!」



 今の状況を不利だと捉えた白髪のイケメンはピンク髪の少女、サクラを連れて森の中に消えて行く。



「! 待って!!」

「グるるぅぁア!!」



 2人を追いかけようとするルナだったが、それを防ぐかのようにオオカミが襲いかかってくる。



「邪魔、しないで!!」

「ギャッ・・・!!」



 1秒でも時間が惜しいルナは、強烈なキックでオオカミを蹴り飛ばした。



「ハァ、ハァ、急がない、と・・・!?」



 だけど、彼女の気力よりも先に魔力の方が尽きてしまう。



(うそ、こんな、時、に・・・)



 最後までルナは手をサクラが連れ去られた方に伸ばすが、段々と意識を手放していった。



 ♢ ♢ ♢



 俺の名前は星水ゼロイチ。ちょっと変な名前が特徴的な普通の大学生だ!そんな俺は今日、なんと異世界転移エロゲーしてしまった!しかも俺の目の前には、見た目が清楚のような青髪の美少女が倒れている!これはもう、やるっきゃないのか~?!

 ・・・・・・うん、現実逃避はこのくらいにしとこう。そもそも意識を失ってるからって、女の子に手を出したら犯罪なんだよ。まあ、ここ異世界だから法律あるのかは知らん。



「あのー、だ、大丈夫ですか?」

「・・・すぅ~・・・すぅ~」



 寝ている。とりあえず命に別状はなさそうだ。



「はぁ・・・ゲームでいうなら、チュートリアルってことか」



 とりあえず、彼女が起きるまで休憩するか。

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