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怖さを知る

作者: 武田道子

怖さを知る



わたしは時々思い出したように

自分が何も見ていなかったことに気づく

いったい、この歳になるまで

何に関心を持ち、何に怒り

何に喜び、何に泣き

夜な夜な何を考え眠りについたのか

ただただ自分のことだけで

感情を昂らせたり、卑屈になったり

心配したり、怖くなったり

偉そうぶったり、かっこつけたり



波のように押し寄せる居心地の悪さ

自分自身を見つめるたびに

目を逸らしてしまう鏡中で

冷血な心はゆっくりと息を吐く



ネットの新聞を開きっぱなしにしていると

数秒ごとにニュースが新しく更新される

数秒ごとに、いや同時に

今この時、この街に起こっているニュースになる出来事

今この時、この街に起こってニュースにならなかった出来事

世界の動きが手に取るように

嘘が羅列され、衣は剥ぎ取られ

良いことをしても悪いことをしても話題になる

話題にならないニュースは秒読みで消されていく

読者が読みたいと思う記事はいったい何だ

破壊されていく世界、

それに飲み込まれる国々

犠牲になる人々

力には限界があるから

わたしは目を瞑る



1秒のうちに何十件の必読の記事は

どこまでが事実を語り

どこまでが読者の脳を刺激するいっときのドラッグになるのか

何千何万の読者が

「いいね!」のマークをつけたか

こんな時に統計学が必要なのか

グラフは上がったり下がったり

人の気分も同じなのだ

意味など把握することなど面倒だから

スライドして次の話を横目で見ながら

また指を滑らせる

現実は簡単に横流しされ

私の周りの空気は汚染されていく




けれどもわたしは何も見ていない

まるで目を瞑って横になっている人形のように

何も聞こえていない

耳を塞いでいるわけではないのに

無関心でいるのではない

感性が鈍くなっただけ

そんな自分が恐ろしくなる



大気汚染は人が作り上げたと科学者が言えば

それはただの地球に今まで起こってきたような自然現象だと唱える声

自分たちを正当化することで人は

目くらになれるのだ

一番恐ろしいことは

何も見ていなかった自分に気がつきながら

これからも何もしないだろう自分を

知り尽くしていることだ


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