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オルベン町②

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。


こんな時間ですが投稿します。もう1話続きます。

 アシュラン王国王室公認のパーティー〈月虹〉は、血の繋がった7体のドラゴンのみで編成されている。

 赤い鱗のリーダー、セキレイと、橙の鱗のダイチと紫の鱗のシキが雄であり、黄色のキイナ、緑のミオリ、青のセイライ、藍のランリが雌である。10才にも満たない年齢でありながら、それぞれが成体のドラゴンよりも強く、各所に張られた縄張りを守りながら、時折人里に下りては狩った魔物をギルドに持ち込んだり、依頼を受けたりしているのだ。

 この7体のドラゴン達の縄張りは、他国との国境に沿うように、まるで七芒星を描くかの如く張られている。ドラゴン達が意図を持ってそのようにしたのか定かではないが、この7体のおかげでアシュラン王国の護りはより強固なものになった。他国の王族達はそれを過剰防衛だと訴えたが、そもそもドラゴンの縄張りを人間が決められるわけもなく、また〈月虹〉のドラゴン達が国籍関係なく人間を守る為に魔物と戦ったことも少なくない為に、そういった声は1年もすれば自然となくなった。

 例えばランリ。広大な森を縄張りにした彼女は、そこを抜けて王国へと出入りする国内外の商人達を自主的に守るだけでなく、危険な魔物を空から見張り、危機に陥った冒険者達に手を貸すことが多々あった。

 例えばセキレイ。彼は海岸を見下ろせる山を縄張りとして、山中だけでなく海で危険な目に遭う人間達を幾度となく救ってきた。それは魔物の襲撃ばかりにとどまらず、嵐に呑まれそうな船であったり、波にさらわれた子どもであったりと様々だ。

 他のドラゴン達も、度々人間を助けていると報告が上がっている。その為〈月虹〉の縄張りに立ち入るアシュラン王国の人間達は、誰からともなく手土産を持っていくようになり、顔を会わせれば挨拶を交わし、縄張りを出る際には手を振って別れを惜しむ者達もいるぐらいに馴染み合っている。商人に関してはわざわざ迂回をしてでも縄張りを通りたがる物好きもいて、運がよければ剥がれた鱗をぽいと寄越されることもあった。ドラゴンに会いに行く度胸のない貴族達にとって、その鱗はどんなに高額でも手に入れたい珍品となっている。そしてそれは、国外の人間達にとっても同じだった。


「前に僕の縄張りを通った異国の商人は本をくれたよ。読める言語で書かれてるやつで、なかなか面白かった。オルベン町にも本屋はあるよね? 報酬から払ってくれていいから、何冊か見繕ってもらえるかな? 今持ってる本は全部読んじゃったんだ」

「ああ、構わない」

「ありがとう。僕が持ってる本の一覧を書いた紙があるから、後で渡すね。そこに名前のない本ならなんでもいいよ。物語でも自伝でも、それこそ絵本でも。とにかく文字を読みたいんだ」

「ああ、わかった」

「ここは漁業の町なんだよね? 魚は久しぶりだし、食べて帰ろうかな。当然お店には入れないから、悪いんだけど持ってきてもらえるかい? 鮮魚でも揚げた物でも、なんでもいいよ」

「ああ、もちろん」


 水に反射する太陽に目を細めたシキは、ムッと顔を歪めた。


「ダリア、僕の話ちゃんと聞いてる?」

「ああ、当然だよ。当然だとも」


 そう返しながらも、ダリアはシキを見ようとしない。そればかりか、必死に自身の存在を消そうとしているようにも見える。

 ダリア達はオルベン町に帰ってきていた。今いる場所は、セイレーンが潜んでいる汽水域を一望できる、オルベン町で最も景観のいいトカナ広場である。

 本来トカナ広場にはたくさんのテーブルが置かれ、軽食をつまんだり休憩を取ったりできるようになっているが、現在は様子が全く違っている。規則正しく配置されているはずのテーブルは大袈裟なまでに退けられ、それを盾にするように町民達が半円を描き、汽水域を覗き込むシキと体を強張らせているダリアを遠巻きに眺めているのだ。当然、汽水域に近づかないようにというギルドからの警告は撤回されていない。しかし人語を話すドラゴンを間近で見られるという好奇心を前にすれば、そんなものはないも同然である。現に、野次馬の中にギルド職員の姿もちらほら見えるのだが、町民達を誘導せずこちらを興味深げに眺めているのだから、ダリアはため息をつくしかなかった。


「そんなに人間達が気になる?」

「なるさ。またいつセイレーンが現れるとも限らないのに、こんなに汽水域に近づくなんて……。全く、職員達は後で説教だな」

「それなら心配いらないよ」


 ふふ、とシキが笑った。


「特別なレアスキルを持っているとはいえ、セイレーンはセイレーンだ。僕がいるのに海から頭を出すなんて真似はしないよ」

「ではどうやって討伐するんだ? 相手は海中にいるというのに」

「君はおかしなことを言うね」


 ダリアのセリフに、シキは目をぱちくりさせた。


「僕達〈月虹〉が水中戦を得意としてることは王都のギルドから知らされてるはずだよ? まさか、信じてないのかい?」

「いや、そういうわけではないのだが……」


 実際、ダリアは幼いシキ達が水中を泳いでいる写真を見たことがあった。その様に目を見開いて驚いたこともしっかり覚えている。だが、飛竜種である〈月虹〉が泳ぐなどという現実を、どうにも信じられないでいた。


「ダリア! みんな全然言うこと聞いてくれない! 汽水域から離れろってどんなに叫んでも聞きやしないのよ! やんなっちゃう!」


 〈天の光〉のメンバーと一緒に必死に町民達を誘導しようとしていたユーリアが、腹を立てた様子で足音荒く近づいてきた。その後ろからついてくる〈天の光〉のリーダーも、酷く疲れた顔をしている。


「駄目です。動く気配すらありませんよ。早めに終わらせるしかないかと……」

「その方がいいだろうね」


 シキが頷けば、〈天の光〉のリーダーはびくりの肩を震わせた。


「いえ、決して急かしたわけでは……」

「そんなに怖がらなくていいよ。僕達は人間を食べたり襲ったりしないから」


 そう言ったシキは、いたずらっ子のように口角を上げて、〈天の光〉のリーダーの腹を鼻でつついた。よろめいたリーダーだったが、どうにか踏ん張って転けるような不様を晒すことにはならなかった。


「それじゃ、ちゃっちゃと片づけてあげるよ。さっきの話、ちゃんと覚えてる?」

「もちろんさ。読んだことのない本と、魚料理だろう? 終わればすぐに手配しよう」

「聞いてたんだね……」


 苦笑したシキは、さて、と汽水域に向き直って後ろ脚で立ち上がると、翼を大きく広げた。

 ざわついていた野次馬達が、水を打ったように静かになった。シキの体から発せられる魔力を感じ取ったからだ。その静まりようはとても昼間とは思えず、誰かが唾を飲む音さえ聞こえるほどだ。


「このまま汽水域に潜ってもいいけど、特別にいいものを見せてあげる」


 そう言ったシキの魔力が汽水域へと流れ込んだ。水面が紫にきらめく。この場にいる全員の目の前で、ぐわり、と汽水域の水が浮き上がった。

 まるで長大な蛇のように、汽水域は宙で身をくねらせた。水蛇の腹の中で、大量の魚が泳ぐのが見える。呆然と見上げていたダリアは、その只中に魚影ではないモノを見つけた。


「セイレーン……」


 ダリアの呟きに、同じように口をあんぐりと開けていたユーリアと〈天の光〉のリーダーは、水蛇の胴に目を走らせ、その影を認めた。セイレーンは慌てふためいた様子であっちへこっちへと泳いでいる。そんな人間達を置いて、シキは空へと飛び立った。

 水音を立てて、水蛇の腹にシキが突入する。魚が逃げ惑い、セイレーンが威嚇の声を上げた。シキは魚には目もくれず、セイレーンに向かってブレスを放つ。間一髪避けたセイレーンだったが、続け様に放たれた2発目のブレスが直撃し、爪の1枚も残さずに消えた。


「……」

「……」

「……」


 特等席と言える場所にいるダリア達3人は、ただただその様子を眺めていた。シキが水蛇の体内を、端から端まで泳いでいく。一往復したところで、シキは水蛇から抜け出して、ダリア達のところへ戻ってきた。


「ほら、ちゃんと泳げるだろ?」


 どうだい、と言わんばかりに胸を張るシキに、3人はこくこくと何度も頷いた。

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