第3話
慌てて俺も逃げる。
「ぎゃああ! 助けてくださいいい!」と隣に少女がやってきた。
「ばっ、馬鹿やろー、お前が狙われてるのになんで俺のところにやってきたんだ!」
「お、お前って、私はシエラよ!」
「はいはい、今は自己紹介してる場合じゃない、お前俺から離れてくれ」
全く、めんどくさいことになってしまった。
それにしても、とても綺麗な銀色の髪だ。
あと、顔もなかなか……うむ、美少女という名が似合いそうだ。
「いやに決まってるでしょ!? 私、魔法の杖折れちゃったのよ!?」
「いや、別に魔法の杖を使わなくたって魔法は使えるだろ!」
魔法の杖は魔法の威力をあげる武器なだけであり、魔法が使えなくなるわけではない。
「そうだけど、魔法使いとしてのプライドっていうもんがあるのよ!」
こいつ、なかなかめんどくさいやつだこれ。
くそ、こうなったらだ。
このままこうやってても体力が尽きて終わりなだけだ。
俺は足を止め、後ろを振り向く。
で、でけえ……なんだこのスライムは。
大きいにも程があるだろ。
「な、何してるのよ! やはく逃げなきゃっ」と何故かシエラまで足を止め、こちらを振り向く。
「お前が助けてっつったんだろうが」
とりあえず、大きいだけでスライムであることは変わらないはずだ、それならインフェルノバレット……どんな魔法かはわからないが倒せるであろう。
「そ、そうだけど、さすがに人になすりつけるのは……ね?」
「はいはいわかったよ、じゃあそこで見てやがれ」
どんどんと、ぺちゃんぺちゃん、と跳ねながらスライムがこちらにやってくる。
一体スライム何個分なのだろうか。
ふう、と一度深呼吸した後に。
右手をパーにしてスライムに向ける。
こ、こんな感じでいいんだよな?
あとは念じて叫ぶだけで魔法って使えるもんなんだよな?
わからない、なんせ人生でまだ一度も魔法を使ったことがないのだから。
ええい、やってやる。
そして、スライムが距離にして一メートルを切ったところで叫んだ。
「インフェルノバレット!」と。
突如、俺を中心として周りには無数の数え切れないほどの炎の玉が出現する。
「な、何そのとんでもない魔法!?」
いや、俺が知りたいんだけど。
てかめちゃくちゃ身体が熱いんですけど。
そのまま無数の炎の玉が発射される。
バンバンバンバンと何度も何度もスライム、目掛けて飛んでいく。
ジューっとスライムが蒸発していく。
やばい、とんでもない魔法をコピーしてしまったようだ。
止まれ、スライムのライフはもうゼロよ、これ以上やっても意味がないから!
が、無数の炎の玉は次から次へとスライムに飛んでいく。
どんどんと蒸発して消えていくスライム。
「や、やりすぎよ! どんだけ撃ってるの!? ひ、人じゃないわ……」とドン引きしているシエラ。
「し、仕方ねーだろ、止め方を知らねーんだから。多分あれだろ、炎の玉が全部なくなったら終わるんだろ」
あと少しだ。
着々と炎の玉は発射され、ついにラスト一発が発射され、スライムは元々いなかったかのように消えてしまった。
何このとんでもない魔法……もう二度と使いたくないんですけど。
「と、とんでもない魔力……あの数の炎の玉を撃つなんて……」
まあ、スキルの力で魔力が減らないからな。
「さすがにあれやり過ぎだとは思うけど助かったわ!」
「ああ、そうだよな」
よし決めた、この魔法めちゃくちゃ危ないしとっとと他の魔法で上書きして消すとしよう。
「そうだ!」
バッとシエラは俺の両手を掴み、こちらをキラキラと輝かせた目で見ていった。
「助けてもらったわけだしお礼をさせてちょうだい!」と。