閑話 勇者・圭人
秋川圭人の独白。
高校への登校中、暴走する車に轢かれそうになった時。
俺は無意識の中で幼馴染三人の盾になるように守ろうと腕を伸ばしていた。衝撃がこなかったため、夢かと思ったらそうではなくて。
真っ白な世界でカミサマに大層なお願いをされ、そこまで無茶なことでもないのか、いやどの世界でもカミサマはあまり信用しない方がいいのではと思考を巡らせ。
そして、幼馴染と共に連れてこられた世界は、平和とは名ばかりの荒んだ場所だった。
家が近所で、親たちが学生時代からの友人で歳も同じ。
幼馴染として育った俺たち四人。
それぞれ兄弟がいたりしたけれど、高校まで同じところに通うほど俺たちはこの歳になっても仲が良かった。
その理由の一つにありすの存在がある。
小さな頃からずば抜けて可愛かったありすは、よく変なものに好かれた。
それは学校生活の中だけではなく、街中でも、さらには動物までも。
ちょっと行動するだけでストーカーまがいのものを引っ掛けてくるありす。
俺と光里は守るための力が欲しくて俺は剣道、光里は空手を始めた。
夕彦は頭の良さを生かして搦め手から、学校の中で色々やっていたみたいだ。
異世界に連れてこられたのは偶然だろうが、あの真っ白なカミサマがありすに何かを期待するような言い方をしたのがどうにも気に入らない。
偶然でないとしたらどういうことなのか、それを知りたい。
最初に落とされた場所も、あんなに深い森の中。
しかも食えるものがほとんどない場所。獣がいなかったのはよかったが、もしかして食い物がないということはどういうことなのだろうか。
ただ、あの時は本当に俺たちに行動させる気あるのかと少し疑った。
歩いて歩いて見つけた、湖の畔に居を構えていた賢者の上条さんには本当に助けてもらった。魔王を倒してこの世界に平和をもたらしたという、不老不死の人。
なんならあの人の方が俺たちにはカミサマみたいだ。
一ヶ月の修行と称した生活は正直、楽しかったし、俺たちに必要な情報や行動などを丁寧に教えてもらえたのは助かった。
魔物との戦闘ではスパルタ入ったこともあったが、あれも今考えると必要なこと。
レベル上げをしておいて良かったと、本当に思う。
魔物を倒すことに躊躇なくなったことは大事だった。
最初に立ち寄った村で、初めてまともに話したこの世界人第一号でもある、冒険者のジェイクはいいやつで、泊まる宿や細かいルールなんかを教えてくれた。
学校の存在を知ったのもこの時だ。
この世界は平和だななんて思ってた。
だが、それで少し気が緩んでいたのかもしれない。
次の村までの道。
人間同士の戦闘を初めて見た俺たちは鑑定で奴隷商人とわかっていたのに、盗賊に襲われて命を落としそうだからという理由だけで助けてしまい、恩を仇で返された。
油断をしていた、そのせいで。
四人して眠らされ、魔法を使うところを見られた夕彦を奴隷にするために俺は奴らに甚振られることになった。
奴隷にするためには名前が必要らしい。
俺は無駄口を叩かないようにぐっと噤み、夕彦は唇を噛み締めていた。
剣を使うから戦士だろうと言われ、右手をハンマーで潰された。
自分の骨がぐしゃりという音は、初めて聞いたがあまり気持ちの良いものではない。
痛みで気絶できるならしたかったが、あいにくそれほど柔でもなかった。
夕彦に視線だけで絶対に喋るなよと伝える。青白い顔をしながらコクリと頷かれ、俺の言いたいことを正確に読み取ってくれる奴にホッとする。
一人が、ありすと光里を連れてくると言った時、ああ、これでこいつら終わると思った。
俺の幼馴染舐めるな。
俺たちは四人でいたら最強だ。
あの二人なら絶対になんとかしてくれる。俺と夕彦のやることはそれまで黙っていることだけだ。
焦れた男に腹を短剣で刺され、床に血が広がる。
熱い。でも致命傷ではない。
しばらくして、腹の痛みが消えて、あたりが騒がしいなと思った時、目の前に幼馴染が揃っていた。
さて、反撃開始だ。