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結果と疲労

ちょっと残酷かもしれないです。

 大事な幼馴染をここまで酷く傷つけられて、大人しくなんてしてられない。

 それは光里ちゃんも同じ考えだったようで、ぐっと歯を食いしばっているのがわかる。


 どうやら契約には名前が必要らしい。

 奴隷商人に名前を知られないためにお互いを呼ばないように、叫んだり悲鳴をあげて無駄に体力を消耗しないように、耐えている。


 回復に集中するために二人を見ながら。


 みるみるうちに塞がる圭人くんの傷。あんなに酷かったから不安だった。

 軽症だったためにすぐに治療が済んだ夕彦くんが浄化をかけて、床に広がった血液も綺麗に消えた。

 それでも失った血がすぐに戻るとは思えないから、なんとかしなきゃ。


 光里ちゃんが結界の中で圭人くんと夕彦くんを回復させているのを見て、結界を叩く男たちがいやらしい表情をしている。


「こんな薄い結界、そう長くははもたないだろう。おい、こいつら、四人とも捕まえるぞ」


 私が張っている結界をごんごんと叩くだけでゼエゼエと息を切らしているくせに、まだそんなことを言っているサボア。

 男二人がそれに同調する。


「そうですね、こいつらは高く売れそうだ。特にこの女ども、結界に回復とはいいスキルを持っている」

「まだ子供だが、すぐに育つだろうさ。それにこれくらいがいいお方もいるしな」

 下卑た声が気持ち悪い。

 

 もう高校生ですからね、意味ぐらいわかります。

 好き勝手言われてますます怒りが湧く。

 圭人くんは光里ちゃんの回復ですっかり元通りになっている。

 あいつらにどんなことをされたかを物語るボロボロに破れた服は後で着替えてもらうことにして、早くこの村から脱出することだけを考えよう。

 

 私は、気が付かなかった。

 夕彦くんが静かに深く、怒りを溜めていたことを。


「ダメです、こいつらは絶対に許せません」

 

 私だけではない。

 誰も、止めることができなかった。

 無詠唱の魔法はいつ放たれるかわからない。

 夕彦くんが、雷の魔法で男たちを貫いた。それは命を奪うようなものではなく、麻痺させるようなもの。

 力が抜けたのか三人はその場に崩れ落ちた。

 一番魔法耐性がなかったのはサボアらしく、口から泡を吹いてピクピクと痙攣している。


「そうだな、俺も許せない。うちの幼馴染になんてこと言いやがる」


 結界から出た圭人くんが、動けなくなった護衛の二人の右腕を素早く切り落とした。

 ビュンという風を切る音がしてすぐにごとっという重い音。床には二本の人の腕。


「ぎゃぁああ!」

「ヒィいい!」


 吹き出す赤は黒ずんでいて、まるで絵の具が撒き散らされるよう。

 結界の中には外の匂いが入ってこない。

 

「私も許せないわ。……あら、可哀想。痛くないように治療しましょうね」


 光里ちゃんが、右腕を肩から切り落とされたままの男たちを全力を出さないで傷口だけを治療する。

 腕は、床に落ちたまま。

 体力は回復させないように。


「お、おいそれで回復したら腕が! うわ!」

「俺の腕! 傷口にくっつけてくれよ!」


 サボアはまだ気絶している。

 男たちもまだ痺れが続いているらしく、立ち上がることができないみたい。


「お前たち、俺たちを探したりしたら、次は命を奪うからな」


 剣を構えたままの圭人くんに怯えている。蒼白なままコクコクと頷いてそれでもサボアを中心に、守ろうとしていた。

 この人たちは、もう私たちに何もできないだろう。そんな気がする。

 

「みんな、行こう。ここは壁で埋めておこう」

 

 厚い壁で囲んでおけば脱出が難しいはず。あとはこの人たちの仲間がいるなら、朝になってからなんとかするだろう。

 その時にもし私たちのことが知られて追いかけてくるなら、その時は圭人くんが言った通りになるだけ。

 私たちは夜が明ける前にオーザ村を出た。


 空はまだ暗いし、風も昼間よりはひんやりしている。

 それよりも私たちには早めの休息が必要。

 それぞれ足取りが重くなってる。

 圭人くんは平気だというけれど、あんなに血が流れてしまったんだから貧血状態だろう。

 回復を続けて使っていた光里ちゃん、攻撃魔法や浄化をしていた夕彦くん、MPが少なくなると体の中からふにゃっと何かが抜けるような感覚があるから、二人はその状態なんだろう。

 壁を作るためにMPを相当使ったからか、それとも長く張っていた結界のせいか、私は少しだけ眠い。


「三十分ほど先に小さな林があるから、そこまで頑張りましょう」

 夕彦くんが声をかけてくれる。


 この道は左右が草原と時々林。

 点々と植っている大きな樹木は、旅人がその下で休むように先人たちが植樹したものと、天然のものとが入り混じっている。

 

 今から休もうとしているのは少しだけ木が密集しているところ。

 道から外れた目立たないところに小屋を出して、しばらく休むつもり。

 それにしても足がうまく動かないな、眠い、でも圭人くんをしっかり休ませてあげたい。

 

 歩かなくちゃ。

 

 杖欲しいなぁ。

 出てこい。

 

 怠くてしょうがなくて、手を伸ばしてつい創造してた。

 おばあちゃんが使ってたような茶色い杖が手に。


「あ、」

「ありす、そんなに辛い? もう休む?」

 光里ちゃんに気を使わせてしまった。

「大丈夫、あともう少しでしょ。そうしたらゆっくりと休めるもの」


 せっかく出したからと、ちょっと杖を使ってみたけど慣れないとダメね、すぐにストレージにしまうことになった。

 あとで素材にしてしまおう。

 

 そういえば、日本ではこんなふうに夜中まで起きていることなんて無かった。

 だってお肌に悪いし、授業中眠くなってしまうから。

 昼間、あの人たちに変な煙で無理矢理眠らされたから少しは起きていられるけど、もしかして眠いのはただの睡眠不足かしら?


「木の影になっている場所を探して小屋を置くスペースを作るぞ」


 そういいながら圭人くんと夕彦くんが地面を均したり、私と光里ちゃんはそれでできた材木や草などを集めてストレージに入れたりする。


 小屋を出して中に入ると、なんだかすごくほっとした。


 入るときには浄化をかけてもらうんだけど、入り口にそういう効果が出るような仕組み作れないかな。

 扉に付与できれば簡単でいいんだけど、魔石でもなんとかなりそうだから後で改良しよう。


「腹へった。何か食おうぜ」

 リビングの椅子に座った途端、圭人くんはテーブルに腕を伸ばしてだらっと懐いた。

 さっきまでのしゃんとした姿は、やっぱりだいぶ無理をしていたみたい。


「そうですね。ありす、光里、すぐ食べられるものありますか? 僕の方は素材ばかりですから」

 夕彦くんがタッチパネルを操作してストレージの中身を確認している。


 圭人くんと夕彦くんのストレージには肉と野菜を多めに入れてもらっていて、私と光里ちゃんは出来上がった料理を鍋やお皿ごと何種類も入れてある。

 今食べるならお腹に優しいものがいいよね。


「シチューとパンでいいかな」

「おお、頼む」


 板を組み合わせた鍋敷きをテーブルに置き、その上にホカホカのクリームシチューが入った鍋を出す。

 この世界ではどちらかというとデミグラスっぽい方がメインでペシャメルソースはあまり使われてない。

 アスパラとマカロニを使ってグラタンを作ったら、上条さんがものすごく喜んで私たちが引いたことを思い出す。


 取り分けて並べて、

「いただきます」

 四人で声を揃えて食事。


 無言のままさっさと食べて、食後は鍋と皿に浄化をかけてもらって片付けて、私たちもさっさと着替えてお風呂も入らず就寝。


 長い長い一日、とても、疲れた。



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