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拘束と救出

 「サボア様、あの二人をここに連れてきますか」


 嗄れた男の声。

 あの時いた護衛の一人だわ。

 護衛は何人いたんだろう、そこまで見ていなかった。もっとしっかりと警戒しておけばよかったなんて後悔してももう遅い。

 あの二人って私たちのことだろうな。


「子供でも女なら高く売れるだろうが、魔法使いの方が価値は上だな。よし、連れてこい」

「はっ」


 痩せぎすの男が家から出てきたのを見て、光里ちゃんとこっそり跡をつけると、やはり私たちがいた廃家の方向に向かっている。

 廃屋までの道に人影はない。

 民家が密集しているところから少し外れているから、あの家の元の持ち主は何か訳ありだったのかもしれない。

 男は迷うことなく、月明かりの下真っ直ぐ前だけを見て少し早足で歩く。

 まさか、こうして後ろをつけられているなんて思ってもいないんだろうな。

 男が着ている服は私たちとそう変わらない。昼間の村の中では一般人と区別がつかないくらい普通の人間。

 ただし、鑑定すると剣士って出るけど、備考みたいな感じで殺人八人ってある。


「ありす、行くわよ」

「うん、いつでもいいよ」


 男が廃屋に入ったところを後ろから光里ちゃんがすっと近寄り、意識を刈り取る。

 首の後ろトンっていうのは漫画の世界らしい。後ろから首に腕を回して締めるように気絶させていた。

 完全に落ちたのを確認してから二人がかりで、丈夫なロープでぎゅっと縛って、起きてすぐ大声を出されると困るからしっかりと猿轡もして。

 人が探しにきてもすぐに見つからないように、私たちがいた部屋の窓や扉に、さらに壁を増やして閉じ込めておく。

 いくらそれほど大柄ではないとはいえ、成人男性を運ぶのは大変だった。

 それに、あまり触りたくないし。

 玄関に扉がないのを知ってる人は多いだろうから、そこは何もしないでおく。

 中まで入るのはこの人の仲間だろうから、救出に時間がかかる方がいい。

 こうしておけば万が一、ロープが外れてもすぐに外に出ることはできないだろう。


 私たちは圭人くんたちが捕まっている家に急いで引き返した。


「光里ちゃん、圭人くんと夕彦くんを助けなきゃ」


 あの様子だと圭人くんは大怪我をしているはずだから早く助けないといけない。

 あの人たちにとって、圭人くんは夕彦くんを操るための道具に過ぎないのだろう。


「そうね、私が圭人を回復させるから、ありすは夕彦と一緒に私のところへ来て。揃ったらすぐに転移するわ」

「足止めすることが大事だね。何か、何かないかな」


 考えよう、どうすれば足止めができる?

 武器を持った戦闘に慣れている大人。

 それも何人いるかわからない。

 盾につけた結界は使ってしまった。

 今から作る?

 ううん、時間がない急がないと。

 私たちが捕まえた人を探しに来るかもしれない。いや、きっと来るだろう。

 光里ちゃんも私も武器はある。

 あとはロープくらい。

 他に使えるものはないかな。

 

「光里ちゃん、夕彦くんと合流したらすぐに結界を使いながらそばに行くから。圭人くんをお願い」

「ええ、私はとにかく圭人の回復第一で。あの盾はもうないんでしょう? ありすの結界はそれほど長く使えなかったわよね」

 30分も使っていると疲れてしまうから、実戦で使ったことはあまりない。

 それでも、やらなきゃ。

 

 この村に二階建ての建物はない。

 きっとそれはこの村の経済状態を表しているのだと思うけど、今の私たちにとって、それはとても都合の良いことだった。

 目の前にあるこの家も周りに比べて少し広い平家。二階がないだけで人の気配は探りやすい。


 窓の外から圭人くんのいる場所を予想する。

 夕彦くんがここにいたら探索を使ってもらえるのにと、どうしようもないことを考えてしまい少し自己嫌悪。

 壁の隙間から灯りが漏れているのは、一番奥の部屋だと思う。

 さっき圭人くんの声が聞こえたのもその辺。


「ありす、壁を破りたいわ」

「それはダメ、最終手段にしておいて」


 壁から漏れる灯りをじっと見つめている光里ちゃんの拳がぎゅっと握られて、ふるふるしてる。

 焦ってるんだ、私と同じ。

 そうだよね私たち四人ずっと一緒にいたから。こんなところで理不尽に傷つけられるなんて絶対に許したくない。

 確かに壁を破って突入もありかなと思うけどダメダメ。

 とにかく二人を無事に助け出さなきゃ。

 

「ぐぅ……、う」

「チッ、根性だけはあるな。おい、魔法使い、これが最後だ。名前をこの紙に書け。でないとこの男を殺す」


 さっきより弱くなってる圭人くんの声。早くしなきゃ。


「サボア様、ボイドが戻ってこねぇ、様子を見に行っても良いですか?」

「ほっとけ、女どもを連れてくるんだから抵抗でもされて手間取っているんだろう。それよりこっちだ」


 もしかして、二人は私たちを気にして抵抗しないのかな?

 そうだよね、だったら、こっちが無事なことを教えるついでに制圧してしまおう!

 光里ちゃんも怒りで目尻がキッとしてる。

 よし、やろう!


「光里ちゃん、壁破って。すぐに結界で圭人くんと夕彦くん包むから」

「了解! 行くわよ!」


 光里ちゃんが自分に強化魔法をかけて壁を蹴破ると、バリバリバリと派手な音を立てて土壁が壊れた。

 お見事!


「な、なんだ! てめえらどうしてここに!」


 護衛の男が叫ぶ。

 仕事熱心だね、しっかりとサボアを守りながら。

 すかさず床に蹲る圭人くんと、椅子に座っている夕彦くんを見つけて光里ちゃんも一緒に、結界。


 結界は透明な膜で、他の人には見えないらしいけれど、私にはガラスのドームみたいに見える。

 中にいれば外部からの攻撃を物理、魔法ともに防げるから回復できる。


 ガンガンと結界を叩く三人の男。

 サボアと護衛二人。これ以上増えないと良いけど。


 光里ちゃんが無言のまま圭人くんを治療する。

 圭人くんは、ひどい状態だった。

 思わず目を背けたくなるような。

 顔は左頬がひどく腫れていて、目の下に傷ができている。右手が、潰されていた。

 隠蔽で職業を戦士にしてあるから剣を使えないようにだろう。勇者のままだと何をされていたのか、想像もできない。

 このまま、あともう少し遅れていたらとゾッとする。それは圭人くんの足元の血溜まりを見てもわかる。

 きっと今見えないところにも細かい傷があるんだろう、お腹のあたりにも服が破れて赤いシミが広がっている。


 夕彦くんは唇を強く噛み締めていたのか、血が滲んでいた。

 何も話さないように、頑張っていたんだね。夕彦くんらしい。

 大事な幼馴染を傷つけたこの人たちを、許せない。


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