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監禁とサイン

 ペチペチ ペチペチ


「ん、おもち?」


 暖かくて、柔らかい。

 すごく、いい匂いだけど、お餅の匂いとは違うなぁ。

 ふわふわと柔らかいものが優しく頬に当たる感触でぼんやりと意識が戻ってきた。


 でもなかなか瞼が開かない。

 きっとあの煙のせいだろう、今は頭がズキズキと割れるように痛い。ついでに、お尻の下が冷たくて固い。


「ありす、大丈夫?」

「ひかりちゃ、ん……! ここは?」


 朦朧としている私に回復をかけながら心配そうに覗き込む優しい瞳。

 起きたら目の前に光里ちゃんのアップだったというのは結構幸せなんだけど、そういう状況ではないね。

 すぐにスッキリと目が覚めたけど、手足が、麻のような紐でぐるぐると縛られている。

 かなりきついから動かすと擦れて痛い。

 光里ちゃんも同じだけど、スキルは触れなくても使えるし、ってあれ? 

 さっき頬に当たっていた柔らかいもの、あれって光里ちゃんの頬だったのかな。

 聞いてみたら、


「先に回復しちゃうと、ありすが大きな声出しちゃうかもでしょ」

「それでお顔が近かったのね」


 確かに、元気だったら普通に大きな声で話していたかもしれない。性格がわかってるってこう言う時に楽? かな。


 周りを見渡す余裕ができてからしたことは、自分たちがいる場所の確認。

 ここは今にも崩れ落ちそうな廃屋の一室で、いつか見た捨てられた木こり小屋のようなぼろぼろ具合。

 私と光里ちゃんは、朽ちかけた柱の立つ部屋の真ん中に並んで転がされていた。

 体の下は冷たいボロボロの床板、所々表皮が剥がれて無惨なまだら模様のようになっている。

 灯りに消えかけた蝋燭ひとつと月明かりしかない部屋はかなり暗い。

 あれから一晩は経っていないみたい。


「ありす、しっかりして。ここは私たちだけしかいないみたいなの」

「圭人くんと夕彦くんはどうしたの?」


 部屋の前に見張りはいない。それでも誰かが来るかもしれないから、できるだけ声は押さえる。

 私たち二人とも手足は縛られているけど、こんなのは拘束にすらならない。早くなんとかしよう。


「二人は護衛の男たちに外に連れて行かれたわ。私はすぐ回復したんだけど、そのまま寝たふりをしていたの」

 スキルで超回復をする光里ちゃんには、状態異常の類は効かない。そこで動かなくてよかった。


「二人を探さないとね。とりあえずこの紐を材料にして何か作ろう」


 創造で二人を縛っている紐と、ストレージの中の材料を使って体をすっぽり覆うローブを作る。これで光学迷彩とか透明化とかできたらバッチリだったんだけど、そういう器用なことはまだできない。


 それにしても、ここはどこ? 


 あの、戦闘のあった場所から次の村までは徒歩で後数時間程度だったことは覚えている。夜はまた宿か、それとも村から進んだところでテントを出して野宿をしようかなどと話していた。


「光里ちゃんはここがどこか聞いた? 誰かが話をしてたとか」

「いいえ、ただあの後馬車で運ばれてここにきたのよ。結構長い時間かかってた」


 試しにこの部屋を鑑定してみる。

 

 元民家・材料、木、藁、土。人が住まなくなって12年。倉庫として使用されている。錬金材料として使える。

  

「ありす、ここオーザ村だわ。ジェイクさんに立ち寄るなって言われたところ」

「え、なんでわかったの?」

「地面を鑑定してみたの」

 

 光里ちゃんがここなの、と教えてくれた。

 部屋の隅にある床板が朽ちて剥がれた下に、剥き出しの黒っぽい土。

 そこを鑑定すると確かにあった、

 

 オーザ村・人口58人。

 

 村の名前と人口だけしか見えない。

 こんなに情報量の少ない鑑定は初めて。どうしてだろう、レベルのせいなのかな。


 他にも何か情報がわかるものはないかしら。そう思ってあたりを見渡しても、この部屋には蝋燭とぼろぼろの布や枯れた葉ばかり。

 それより、どこにも見張りがいないということは、今なら圭人くんたちを探せるかな?


 焦りが、何かをしなければという気持ちに変わる。

 こういう時こそ本当は落ち着かないといけないんだろうけど、二人がいないだけで不安で押しつぶされそう。


「光里ちゃん、行こう。二人を助けなきゃ」

「そうね、まだ暗い方が動きやすいかしら」


 私がさっき作ったローブを頭からばさっと羽織ると、光里ちゃんも同じようにした。

 二人ともこれで顔は隠せる。

 ローブをかぶっている人は村の中でも街道でもよく見たから、それほど珍しい格好ではないはず。


「誰かに見つかりそうになったら、私はありすを連れて転移するわよ。それでもいい?」

「もちろん、その時はお願いね。私たちまで捕まったら、あの二人は絶対無茶しちゃうもの」


 ボロボロの床板は、一歩踏み出すごとにギィと嫌な音を立てる。

 この音で誰かを呼び寄せてしまうのではないかと不安になるけれど、それよりも二人を助けたい。

 部屋を出るとすぐに土間。隅にある水瓶はひび割れて使い物にならない。

 玄関には扉はなく、蝋燭がなくても月明かりで充分見える。

 というより、さっきの部屋の中よりも外の方が明るいくらい。


 魔法使いとバレてしまった夕彦くんはわかるけど、どうして圭人くんまで連れて行かれたんだろう。


 嫌な予感がする。


 もう真夜中に近い時間なんだろう、村の中に出歩く人影はなく、明かりがついている家もまばら。それでも警戒をしながら、なるべく影になっているところを探して歩く。


 村の端にある家の窓から漏れる明かりが、チラチラと動いているのが気になった。

 光里ちゃんと目配せをしてその家の近くまで行く。周囲に人の気配はない。

 中の物音でも聞こえないだろうか、そう思っていたら突然、男の人の呻き声が聞こえた。


「ぐ……ぁ、ああ」

 

 !

 この声、圭人くん?


「ほら、さっさとこれにサインしな。次はこいつの右腕いくぜ。仲間なんだろう?」

 

 圭人くんを人質に夕彦くんがサインを強要されている? 

 どうしよう、早く助けたい。

 光里ちゃんを見ると、ゆっくりと首を横に振られた。

 今はまだ我慢しないとダメ。

 

「絶対にサインするんじゃないぞ。俺は痛くねえからお前も耐えろ」

 痛みに耐えながらも叫ぶように吐き出す圭人くんの声。夕彦くんの声は聞こえないけど近くにいるみたい。


「くそ、さっさと名前を言え。強情も過ぎると命を落とすことになるぞ。それとも、あの嬢ちゃんたちにも痛い目を見てもらうか」


 この声は聞いたことがあるわ。あの時助けたサボアっていう奴隷商人だ!

 今、あの時助けたことをとても後悔している。

 でも、見捨てることができなかったのは私たちだ。

 

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