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出発と冒険者ジェイクの回想

 爽快な目覚めだった。スッキリ!

 私が朝の空気を吸い込みながら大きく伸びをしていると、隣のベッドの光里ちゃんがもぞもぞと動いた。


「え、もう朝? ありす、おはよう」

 寝ぼけ眼の光里ちゃんが、ふわっと微笑む。


 いつもクールでキリッとしているのにこうしているとなんだか可愛い。どうやら光里ちゃんもぐっすりと眠れたみたい。

 そういえば、お互いがいつ寝たのかもわからなかった。


「おはよう、光里ちゃん。いっぱい寝ちゃったね」


 今何時くらいだろう、タッチパネルを表示して時間を見る。タッチパネルの機能も色々覚えて、すっかり使いこなせるようになっていた。

 もう七時半。

 剣道の朝練があったりしたおかげで起きるのが早い圭人くんのことだから、七時にはもうバッチリ起きてるはず。

 夕彦くんは圭人くんに叩き起こされてるだろうな。

 慌てて光里ちゃんに朝の浄化をかけてもらって、動ける服に着替えてから朝食をとりに食堂へ降りる。


「もっとゆっくりしてても良かったんだぞ」


 やっぱり先に来ていた圭人くんに頭をわしゃわしゃと撫でられた。

 頭の大きさがね、ちょうどいいらしいんです。

 小さい頃から圭人くんに撫でられるのは良くされていたし気持ちいいのでいいのですが、少し恥ずかしくなってきた今日この頃。

 人前だし。


 なぜか圭人くんたちと一緒にジェイクさんも昨日の席についていた。

 私たちと一緒に朝ごはんを食べようと待っていてくれたそうです。

 村の用心棒はいいのかな?

 それとも出勤時間にはまだ早いのかしら。


「おはよう、ありす、光里」

「おはようございますジェイクさん。昨日はあの後怪しい人いました?」


 私が少しだけ揶揄うように言うと、ニカッと笑って教えてくれた。


「怪しいのはいなかったが、喧嘩を二件止めたのとひったくりを一人捕まえた」


 ええ、そんなことがあったなんてちっとも気が付かなかった。

 いつそんな事件があったんだろう?

 圭人くんに聞いたら喧嘩は怒鳴り声で気がついたけど、ひったくりはわからなかったそうです。

 結構遅い時間だったみたい。


 朝食は甘いパンと、琥珀色に透き通ったコンソメスープに野菜がいっぱい入ったもの。シープハムとチーズはパンに挟んでもいいしそのままでも美味しい。

 野菜はスープに煮溶けてトロトロだった。

 根菜がいっぱいで優しい味。

 圭人くんと夕彦くんがパンとスープをおかわりしていた。

 ジェイクさんはなんと二杯も。


「いつ出発するんだ?」


 パンを大きな口で噛みちぎりながら、ジェイクさんが聞いてくる。

 圭人くんがスプーンを止めて答えた。


「昼前には出ます」


 昨日のうちに出かける時間やルートなんかを話し合っていた。

 安全な時間、休める場所、持っている装備に足りないものを作ったり。

 夕食の時にジェイクさんがくれた情報はとても参考になった。

 ストレージのおかげで、備えあれば憂いなし。無駄だと思えても作ろうということで、色々と用意した。


 十時少し過ぎ。頼んであったパンをオリガさんから買い、チェックアウトをして夕彦くんがまとめて代金を支払う。

 小銭はそれぞれ持っているけれど、大きいお金は夕彦くんが管理してくれている。

 四人とも無駄遣いする方ではないんだけど、圭人くんは剣や装備が危ない。

 私は小物、光里ちゃんは服にフラフラと吸い寄せられてしまう危険がある。

 一番きっちりしているのが夕彦くん。この世界ではまだ本を見てないからね。


 わざわざ村の入り口まで送ってくれたジェイクさん。


「昨日は言わなかったが一応教えておく。お前らは東のイプスに向かっているんだろ? 途中いくつか村があるんだがオーザ村ってとこには寄らない方がいい。入っても食事をせずにすぐに出ろ」


 朝食を食べていた時とは打って変わって真剣な顔。

 真面目なジェイクさんはなんだか迫力がある。


「どうして、そんな」

「理由は言えない。だがそういう村もあるんだよ」


 圭人くんが、それはフラグってやつなんだけどな、なんて呟いたのは放っておこう。私も少し嫌な予感がしたけれど、それも気のせい気のせい。

 

 ジェイクさんがどうしてあんなによくしてくれたのかはわからない。

 それでも私たちは助かったわけだから、感謝しつつ旅を続けよう。



 ――――――――――――――――

 

 アイン村の用心棒、冒険者・ジェイクの回想。


 あの奇妙な子供たちは、あの日この村にやってきた。

 この国なら街にある学校に通っているはずの年代の四人組。

 旅をしているといっていたが、その割には常識的なことを何も知らないらしく、会話をしながら色々なことを探らせてもらった。


 あまりにも素直にペラペラ話すもんだから探り合いが馬鹿馬鹿しくなって、途中で警戒をするのはやめちまった。

 いきなり鑑定を仕掛けてこなかったのも好感が持てた一つだ。見られてもいいように隠蔽はしておいたのだが意味はなかった。

 こちらはしっかりと鑑定をかけさせてもらったがな。

 驚いた。

 四人ともとんでもないレアスキルと職業持ち。しかも、『落とし子』だと。

 これは、下手に突かない方がいいと判断した。

 どこからきたのか、どこにいくのか、世界中を見て回るといっていたが、あまりにも広い目標に少し笑っちまったのは悪かった。


 俺が警備を依頼されているこの村は、可もなく不可もない極々普通の村だ。

 だから村に不利になるような人間はすぐに排除させてもらうが、彼らは迎え入れても大丈夫だ。


 俺は、生まれつきレアスキルを持っている。人の悪意を見抜く『眼』だ。

 これのおかげで俺はいくつものPTを渡り歩くことになり、ついにはこうしてソロとなった。

 最初はどんなにいいメンバーでも、深く付き合い、長くいたら少々の悪意は芽生える。

 それは嫉妬だったり僻みだったり。


 強敵に剣でトドメを刺した後に起きた、魔導士や盗賊からの強い嫉妬の目。

 PTの女魔導士から向けられる好意を断った翌日から起きた、昨日まで仲が良かったメンバーからの強い悪意。

 俺はそれらに耐えることができなかった。

 小さい悪意なんて誰にでもある。

 だが、それが強くなった時は人を蝕む呪いになるんだ。


 あいつら四人は奇跡のようだった。全くの悪意なし。

 いや、ありすという少女を中心とした繋がりは純粋で、俺にはひどく羨ましく眩しく映った。

 もう少し一緒にいたい、それだけで俺の常宿を紹介した。

 飯もうまいし宿も綺麗だから彼らのお眼鏡に叶うだろう。


 彼らなら、変わらないだろう。

 そうやって長くPTでいても一人一人の心は腐らないといい。

 そう思いながら色々な村の情報を教えた。


 あいつらの旅を追ってみようか、そう思ったけれどあの強い絆を持つ四人の中に入れるとは思わない。

 そうだな、いつか再び出会った時にあいつらの力になれるよう、もう少し鍛えるために俺も旅に出るか。

 幸いこの村との契約ももうすぐ切れる。

 路銀はたっぷりあるし俺もまだ成長途中だ。


 目的もなくだらだら過ごしていた生活を変えるきっかけをくれたあいつらに感謝だな。

 

 ジェイク 28才 男 

 職業/剣士 レベル 63

 STR 523

 VIT 530

 INT 201

 MID 130

 DEX 109

 AGI 122

 LUK 18

 固有スキル/慧眼、回復、鑑定、ストレージ、探索、交渉、隠蔽。


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