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冒険者と食事処

 私は岡島ありす。

 なんの変哲もない普通の平日。

 幼馴染と一緒に高校への登校中に、パトカーに追われて暴走していた車に轢かれそうになった。

 そして、幼馴染四人と不思議な真っ白な空間へ召喚されたの。

 そこにいたのは全身真っ白の人。

 あの人は自分のことを、この世界の神様って言ってた。

 私たちに世界中を旅して魔素の循環をするようにとお願いしてきたんだけど、普通の高校生に無理言わないで欲しい。

 スキルといくつかのアイテムをくれたけど、使い方も教えて欲しかったです。


 最初に私たちが白い人に降ろされた場所は、人も獣の気配も薄い深い森の中だった。食べ物もない森で途方に暮れたのはしょうがないよね。白い人にもらった栄養食はなんだか寂しかった。

 大きな街と大きな湖を見つけた時、私たちが行き先に選んだのは大きな湖の方だった。いきなり人が大勢いるところへ行くのは怖いものね。


 そこから歩いて歩いて、大きな湖のそばにある一軒の家を見つけた。

 その家の主、上条静流さんは私たちと同じように日本人で、神様に呼ばれた人で、魔王を倒した賢者さんだった。

 もう一人戦士さんがいるそうだけど、いつか会えるといいな。


 一ヶ月上条さんのところでお世話になってレベル上げをしたりこの世界のことを色々教わったりした私たちは旅立ち、初めて四人だけでこの世界の人と対峙しようとしている。

 

「あれ、見ない顔だな。旅人か?」

 私たちが村に入ってすぐに声をかけてきたのは、青い短髪の背が高い筋肉質な男の人だった。

 腰には鞘に入った大きな剣が下げられている。

 獣の皮でできた胸当てと手甲、中の服は厚手の布でズボンはゆったりとした麻っぽい生地。靴は皮で出来ていてすごくゴツゴツしている。

 笑顔の似合う優しいお兄さん。

 男の人の年齢はよくわからないけど、おじさんっていうにはまだ早い感じ。

 でも、上条さんの例があるから、この世界の年齢はよくわからない。

 鑑定をかけることはしない。初対面で鑑定をするのは大変失礼になるらしく、喧嘩を売ることと同じだそうなので。


「この村には初めて来ました。四人で旅をしています。貴方は?」

 夕彦くんが男の人に答える。


 こういう時は夕彦くんに任せることに、四人で相談して決めた。

 ここは日本じゃないから私と光里ちゃんは後ろに下がっていた方がいいと言われているし、圭人くんは一見無愛想なので交渉役には向いていない。

 本当は一番優しくて気遣い屋さんなんだけど。


「俺はこのアイン村に雇われてる用心棒兼冒険者のジェイクだ。怪しいやつはチェックするのが仕事なの。お前らは大丈夫そうだな」


 にかっと笑うお兄さん、目鼻立ちは私たちから見ると欧米人。彫りが深くて野性味がある。

 そして雇われ用心棒さんなら、確かに私たちに声をかけてきてもおかしくない。


「ジェイクさん、この村にご飯を食べるところと宿はありますか?」

「飯か、三件あるからおすすめに連れてってやるよ。ついてきな」

 私たちは村の中を見回しながら、食事処に連れて行ってもらった。


 ジェイクさんの後を着いて村を歩いていると、村の人たちにやたらと見られていることに気がついた。

 私たちの外見や服装は彼らと比べても特に変わったことなんてないはずなんだけど。圭人くんと光里ちゃんはしっかり変装できているし。

 

「ジェイクさん、なんだかすごく見られているみたいなんですが、僕たちはそんなに目立ちますか?」


 ストレートに聞く夕彦くんに、ジェイクさんが苦笑しながら答える。


「この村には、子供が少ないからな。お前たちの年代が歩いてるのは珍しいんだよ」

「子供ですか? 僕たちは16歳と17歳なんですが」

 

 それは子供だなと改めて言われて、私たちは少し驚く。

 だって、異世界ものの定番だと成人年齢って15歳くらいなんだもの。でもこの世界での成人は18歳なんですって。

 そしてそのくらいの年代の子は街にある学校に通うために、村を出て行ってしまうそう。

 なのでこの村には15から18歳くらいの人は一人もいない上に、ほとんどがそのまま街に住んでしまうので若者は少ないとのこと。

 村に帰ってくるのは、よほどこの村が好きか、親から強く引き止められた者くらい。

 

「学校があるんですね」

「ああ、勇者様方が作ったんだ。この国の歴史と算術を教えてもらえる。読み書きができれば証文で騙されることも無くなるし、算術ができれば商人にもなれるからな、みんな勉強は頑張るぞ」


 この国は勇者様がいる分、他の国よりも暮らしやすいらしい。二人の強さや生き様に憧れてこの国に来た冒険者もいっぱいいるとか。

 それでも襲ってくる魔物はたくさんいるし、人を騙すような悪い人もいる。私たちの知ってる上条さんなら、確かに子供達のために学校を作りそう。

 この村は、そんなに裕福でもないけれど生活に厳しいわけでもない、ごく普通の村。

 この国にはこのレベルの村が多いから、楽なんだって、ジェイクさんは教えてくれた。

 私たちが白い人に言われたのは世界を回ること、魔素の循環も大事だけど、人をみることも必要なのかもしれない。私たちに何ができるのかを探しながら。


 村の中ほどにある、広場みたいに四方に道が広がっているところの一角にその店はあった。茶色い土壁のシックな二階建て。雰囲気が素敵。

 

「ここがおすすめの食事処兼宿だ」


 そう言いながらジェイクさんは中に入っていった。

 私たちは入っていいのか少し戸惑う。入り口の外でどうしようか考えていた。


「ほら来いよ、せっかくだし俺のおすすめ食っていけ」

 

 冒険者であるジェイクさんは家を持っていないから、ここに部屋を借りているんだって。契約は一年で、その間はずっとここ。

 契約が切れたらまた違う村に行くか、ギルドでまた違う仕事をするそう。

 この村にはギルドがないからしばらくしたら大きな街に行くと教えてくれた。

 あと何ヶ月かで切れるからその時街に一緒に行くかと言われたけど、私たちは今日ここに泊まったら明日すぐに出発する。

 そう言ったら、残念だって大袈裟に嘆かれた。



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