プロローグ
スローライフを目指して書き始めました。
駅から商業施設を通り抜け、ひたすら真っ直ぐ20分。
その先に、彼らが通学する県立高校はあった。
自転車通学と徒歩通学が半々の、田んぼの真ん中に佇む歴史の浅い進学校。
朝の登校時間には四方八方から制服姿の学生ばかりになる風景は、常に変わらず、平和な一日の始まりになるはずだった。
早朝の登校風景に全く似合わないけたたましい爆音が響き渡る。
通学中の生徒たちは異変を感じ、足早に校舎に向かう者、友人を見つけ集団で移動する者、それぞれが自分の考えでそれなりに行動し始めた。
周囲が田んぼに囲まれた国道という名の農道を暴走する乗用車と、それを追うパトカー。
サイレンを鳴らされながら猛スピードで追われることに焦ったのか、乗用車は赤信号を無視して速度を上げた。
その先で何が起きるのかも知らずに。
その四人は校舎に急ぐべく信号を渡っていた。
校内でも目立つ幼馴染集団。
それまでのスピードなら彼らのところまではまだ猶予があったはず。
だが、直前にあげた速度が、悲劇を呼び込もうとしていた。
「きゃ――――――!」
女子生徒の甲高い悲鳴が響き渡る。
横断歩道を渡る四人に迫り来る暴走車。
誰が見ても彼らにもたらされるのは絶望。
目を背けるもの、その場にしゃがみ込むもの、何かできたのは反射神経のいい一握りで、ほとんどの者はその場にただ立ちすくむだけだった。
しかし、悲鳴をあげた女子生徒が見たのは想像していた惨劇ではなく、電信柱にバンパーからぶつかり、ボンネットをだらしなく開いた哀れな一台の車だけだった。
暴走運転手の男はのちに語った。
「絶対跳ねたと思ったんだ。制服姿が四人確かに横断歩道を歩いていた。急ブレーキが間に合わずやっちまったと思ったら、俺の車だけが電信柱にぶつかって止まってた。人を殺してなかったのは良かったが、あれは、夢だったんだろうか」
男にとって幸いだったのは、彼らがいたことを誰も覚えていなかったため単独事故として扱われた分、事件としての扱いが軽くなったこと。
男にとって不幸だったのは、妄想が酷いと心配した家族によりこの後数年、ある程度の自由を奪われることになったこと。
その日、四人の高校生がこの世界からいなくなった。
確かに存在していたはずの彼らの痕跡、家族や周囲の人間からの記憶を綺麗に消し去って。
覚えていたのはきっかけとなった暴走車を運転していた男だけ。
と同時に、別次元、別の世界で彼らはとある場所に降り立っていた。
白い、ただひたすら白い、理解の範疇から超えた場所で、四人はただ戸惑っていた。
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