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短編

タイムリープマン

作者: ぼく。


過去に戻れるならいつに戻るだろう。


誰もが一度は考えることだと思う。


高校生に戻り、体育祭や文化祭で告白大会でもする?

イヤホンで音楽を聴いてる時に女子に話しかけられて半分渡すやつやってみたい。


中学生に戻り、部活に励み、汗を流すか?寝てるふりをして、、隣の席の女子に起こされる瞬間をもう一度体験する?


小学生に戻り、馬鹿みたいに騒いで、帰りの駄菓子屋でお菓子買って友達の家でスマブラでもしようか。


それとも生まれる前に戻って人生を一から始めようか。



僕は別にどこにも戻りたくない。

どうせまた運命は今の時間に戻るだけだ。

人生の節目節目っていうのはどう抗っても同じ結末になる。


ただ、一つだけ言わせてもらうとしたら。

人生の中で一つだけ変えれることがあるのなら。



彼女が生きていた時間を生きたい。



そんなことを寝る前に目を瞑りながら考える。



意識を覚ませば、そこは中学生の頃。


僕は目立つ生徒ではなかった。


勉強なんてできない。

数字を見ると目が痛くなるし、理科なんて巨大な氷の塊を食べたようにキンキンに頭が痛い。


スポーツもできない。

部活には一応所属していた。

それなりにモテたし、友達もいて楽しかった。


それでいて派手な生徒でもない。

学校には8時に登校し、机に突っ伏して夢の世界に戻る。

30分ほど経って登校してきた隣の女子におはようと声をかけられる。

少し明るくなった窓の外を見て、目を細める。

今思うと、女子に起こされるって体験は滅多にない。

青春の2文字にぴったりなことだとは思う。


僕が救いたいのは彼女だ。

彼女はこの世界から姿を消す。


今でも彼女の最後の場所には花束が飾られている。

彼女の好きだったリプトンのアイスティーも。


今でも脳の裏に染みつく彼女の笑顔。

別に付き合っていたわけではないけれど。

忘れられない笑顔ってのは誰の心にもあると思う。


悲しくなるから何度も忘れようとしても忘れられない。セミの鳴き声とともに、頭にしがみついて離れない。

頑固なシミはいくら頑張ってもとれない。

時間が取り払ってくれるわけでもない。

一生付き合っていかないといけないものだ。


彼女にある質問をされたことがある。

髪型の話だ。

長い方が好きか、短い方が好きか、そう聞かれた。

僕は当時、短い方が好きだったけど、その子は長い髪の毛だったし。

吹き込んだ風に揺れる髪。

授業中にふと横を見ると、指先が髪をなぞり、彼女の耳が露わになる。

そんな瞬間が僕は好きだった。


君に似合う髪型がいいんじゃないかな。

今思い返せば自分の気持ちに素直に答えるよりも恥ずかしい答えだったのではないかと思ってしまう。

随分と思い切った回答なんじゃないかと思ってしまう。

今思い返すと、彼女は固まっていたような気もする。


その週が明けた時、彼女の髪の毛は肩より上になっていた。

なんだか心が見透かされたような気がして少し恥ずかしかった。



ある日の帰りの会。

席替えがあった。

僕は彼女の隣の席では無くなった。

彼女と僕は教室の対角線上になった。

視界には映るけど、遠い。

寂しい気持ちもあった。


でもそれ以上に視界に入る彼女の顔はいつもの笑顔のままでなんだか僕も笑顔になった。


多分僕は彼女が好きなんだ。

あの笑顔の虜になってしまっているだろう。


一斉にガタガタと椅子を動かす。

立ち上がり後ろの扉にフライング気味に足を進めながら挨拶をし、出て行く。


隣のクラスのやつらからのもう帰ってるじゃんという、熱い視線を感じながら少し早歩きで下駄箱へ。

時間が経ってしまうと駐輪場が混んでしまうので何としても早く帰りたかったのだ。


下駄箱で後ろから声をかけられる。


席離れちゃったね。

そうだね。


あの子だった。

いつもは教室で友達と会話し、少し遅れて教室を出るはずなのに。

今日は一人で僕の後ろにいる。


切ったばかりの髪の毛を恥ずかしそうに触りながら。

いつもの笑顔とは少し違い影があるような気がした。

でも僕はその足を止めることはなかった。

踵を踏んだ後の型はなかなか治らない。

同じように彼女の笑顔も僕の前から消えない。


最後の寂しそうな笑顔さえも。


次の日に彼女の姿を見ることはなかった。


もしあの日に戻れたなら。


彼女の手を取り、救うことができただろうか。


線路の高架下。

暗く狭い。

手を伸ばせば天井にも左右にも手が届く。

人がすれ違うギリギリの空間だ。



抜けた先の光に向かい、歩を進める彼女。


信号はないが車の一時停止標識がある。


赤は危険な色だって誰もが知ってる。


教えられたからなのか、自分で気づいたからなのか。


いつからかはわからないけど誰もが知っているその色を無視した奴がいた。



僕は宙を待っていた。

後ろから突き飛ばされたせいか、横たわり、状況を理解していない目でこちらを見つめているのがわかった。


何度繰り返しても君を救えないんだ。


たとえ生まれる前に戻ろうが、小学生に戻ろうが、入学式に戻ろうが。

このタイミングで必ずいなくなる。


君と二人で帰っていようと、違う道を帰ろうと君は一人いなくなってしまう。


誰かがここでいなくならなければいけない運命ならば代わりに僕がいなくなろう。


もう何度繰り返したかもわからない。

何度見たかもわからない彼女の笑顔。

頭から離れるはずがないだろう。

それを救うために生きていたのだから。


諦めて自分の人生を歩んだとしてもその後悔の念だけがずっと残っている。

やり直さことのできる後悔をやり直さない人間はいない。

めんどくさいという理由だろうが何だろうが、その過去を変えてしまえば、今の自分とは大きく違う別の人生が動き出す気がするから。


一瞬だが気の遠くなるような時間が経過する。


僕は強く地面に打ち付けられる。




やっぱり君は笑っていた方がいいよ。




彼にそう言われた気がした。

やっぱり救えなかった。

私が代わりにいなくなればと思ったけど。

彼が私を救ってしまうんだ。


何度も何度も繰り返したって。

何度も何度も。

その日の彼は絶対死ぬんだ。


いつものように早く帰ろうとする彼を追いかける。

適当な会話で彼が帰るのを引き止めようとしても彼はそのまま早歩きで帰ってしまう。


車に電車に殺人鬼。

そんな日々はもう懲り懲りだ。

彼を助けようとしても、逆に私が助けられてしまう。


こんな変な話を彼に打ち明けることもできない。

二人付き合っているわけでもないのに。

お互いに好きかどうかもわからないのに打ち明けて変な人扱いされて学校で言いふらされたいでもしたら?


何年も人生を生きているはずなのにその辺の考えだけは中学生の時間で時が止まってしまっているみたいだ。


二人で一緒に笑っていたいだけなのに。

突如として終わりを迎える。

諦めて人生ゲームのコマを薦めたとしても、最初からやり直しって文字のマスを踏んでしまう。

刺さっているピンも二人から一人に。

運転できないはずの車のエンジンをまたかける。

終わりが来ない盤面を進む。

ルーレットが止まらなければこの連鎖は終わるのだろうか。


どうにか助けるんだ。

彼の死の連鎖から。

お互いの未来のために。



どうにか助けるんだ。

彼女の死の連鎖から。

彼女の未来のために。




ルーレットは同じ数字を出し同じマスを踏ませる。

どれだけ回数を重ねたところで最初からやり直し。

一つだけ対処法があるなら。


ルーレットを回さないことだろう。

回して仕舞えばどっちかが終わってしまう。


ならば。


多分終わるにはそれしかないんだろう。



終われない二人の話。



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