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幼なじみを応援する。

作者: JOSE9512

「ゲームの練習に付き合ってほしい。」


 と僕が幼なじみからそんな頼みを受けたのは、夏休みも近いある金曜日の学校からの帰り道のことだ。


「どうした、急に。ゲームなんて練習するものか?」


 最近すっかりやってないな。と思いながら僕は浮かんだ疑問をそのまま口にする。

 ログイン特典をもらうために毎朝起動するぐらいだ。


「この夏休みにこれの大会があるんだよ。」


 と幼なじみはスマホの画面を見せてくる。

 画面には、見覚えのあるゲームのオープニング画面だった。


「あれ、まだこれやってたの?」


 と思わず、声が出た。

 それはサービス開始から2年ほどたったスマホゲームだった。


「おにぃが最初に勧めてきたんでしょ!」


 僕が放った言葉に憤慨した幼なじみをなだめているうちにお互いの住むマンションが見えてくる。

 おにぃと呼ばれるのは、僕は彼女より一つ年上(僕が高校2年生で彼女が1年生)というのと、あとは小さい舌足らずだったころの呼び名の名残りだ。


「じゃ、後でね。おにぃ。」


 と言って隣の部屋に入る幼なじみ。

 準備するので30分後くらいに来て。と言われた。


 自宅に入り、カバンをつくえに置き、制服から着替える。

 何を着ていこうかと一瞬悩んだが、不自然に気負うのはやめ普段着にした。


 幼なじみの家に行くのはかれこれ2年ぶりになる。

 その前までは結構行き来していたのだが、

 おととし、去年とどちらかが受験生だったので、お互い気を使った結果そうなった。


 特に去年は僕も高校になり、通う場所も変わってしまったため、ほとんど交流はなかった。

 高校も僕が通っている共学校でなく、よりマンションに近い女子校に行くものだと思っていたので、

 「お、おにぃ、2年間だけど、また一緒に通おうね。」

 と入学手続きを終えた足でうちに伝えに来た幼なじみにおどろいた。

 久しぶりで照れ臭かったのか、真っ赤になっていた幼なじみになんと声をかけてよいかわからず、

 「お、おう。わかった。よろしくな。」

 としか返せなかったのを思い出す。

 気の利いた返しができなかったのをそれぞれの親たちに生暖かい目で見られたのは今でも苦い思い出だ。


 この4月から再び一緒に登下校するようになったのだが、

 思春期のうち2年間を接点が少ないまま過ごしてしまったためか、お互い距離感がつかみきれていないのがこの春先から夏休み前までの状況だ。

 学校への行きも帰りも一緒だし、会話もそれなりに途切れず続くのだが、学校の周りのお店の話とか、教師の噂とか当たり障りのない話ばかりで今いち踏み込んだ会話ができていない。そう思っているのは僕だけかもしれないが、それを確認することすらためらってしまうのが正直なところだ。


 今回ゲームの話をきっかけに昔みたいに気兼ねなく話せるようになれば良いんだけど。

 そう思いながら、幼なじみ宅のインターホンを鳴らす。


 「どうぞ。」


 と声がし、開錠される。 


 扉を開けると幼なじみがたたきを上がったところに立っていた。

 大きめのTシャツに、柄入りのGパンと言う格好だ。

 

 「お邪魔します。」


 と告げると、にこりともせず、


 「おにぃ、私の部屋に来て。」

 とさっさと右奥の部屋に入っていくので、慌てて靴を脱ぎ、後に続く。


 中に入ると小さなテーブル、学習机、ベッドと以前と変わらぬ構成だった。

 カラフルだったタンスが、木目調のものにかわったぐらいだろうか。


 「座って。」

 と幼なじみはベッドとテーブルの間のクッションに陣取り隣のクッションを軽くたたく。

 ここに座れと言うことだろう。

 示された通り座る。


 「まずは私の操作を見てほしいの。」

 「わかった。」

 あら、この()、結構やりこんでる。プレイヤーランクは僕より上になってるじゃないか。


 しばらく、操作を横で見る。

 何戦かのネット対戦を終えると、僕の方を向き、

 「何か気づいたことがある?結構強くなったと思うのだけど、おにぃのアドバイスが欲しい。」

 「僕、最近やれてないんだけどなぁ。」

 と言うと

 「ほかのゲームやってるの?」

 と寂しそうに言う。

 「いや、そういうわけじゃない。ゲーム以外のことでなかなか時間が取れないんだよ。」

 「でも、始めた時のおにぃのアドバイスは的確だったと思う。」

 懐かしい。幼なじみにこのゲームを勧めた時もデッキの構成は俺が考えてあげたっけ。

 その時から半分ほどキャラは変わっているが、基本スタイルは変わってなさそうだ。


 「このキャラなんだけど。」

 と言って、デッキの中のとあるキャラを指す。

 「どうしてもこのキャラ使いたい?」

 と幼なじみの顔を見ながら言う。

 そのキャラはサービス開始の時から出ていたレアキャラだったが、

 最近出たキャンペーンガチャにこのキャラの上位互換レアが出てしまったため、最近の攻略サイトではデッキからの入れ替えを推奨されている。

 さっきの対戦でもこのキャラを狙われてピンチになることが何度かあった。


 幼なじみは俺の顔を見て少し悲しそうな顔をしたが、そのあと

 「使いたい。使って勝ちたい。」

 と言う。だがそんな彼女に、

 「申し訳ないけど、僕にはここ以外アドバイスができそうなところがない。」

 としか言えなかった。勝負は残酷だ。ウィークポイントを晒せば誰もがそこを狙うだろう。

 今回のキャンペーンが終わればゲームバランスに調整が入るだろうが、公式大会中に運営がそれをするとは思えなかった。この世界は課金で支えられている。


 「どうして、そんなこと言うの。このキャラはおにぃが私と最初にトレードしてくれたキャラなのに。」

 「うん、覚えてるよ。もともと僕が使ってたキャラだからね。」

 忘れるはずがない。チュートリアル終了時の初心者支援ガチャで使い勝手の悪いネタキャラを引いてしまって困ってたから僕のとトレードしたんだもの。

 「覚えててくれたのに、入れ替えろって言うんだね。」

 半分泣きそうな顔をしながら睨みつけられる。

 「まあ、勝ち方を聞かれている以上は。」

 とひるむことなく、幼なじみの顔を見る。

 僕があげたキャラを大事にしてくれるのはうれしいが、僕にも引き下がれない事情があるのだ。

 「おにぃがいじっぱりなところは変わらないね。」

 しばらく顔を見合わせていると、幼なじみは突然笑いだしそう言った。

 「そうだな、いじっぱりなところはお互い様だけど。」

 と僕も笑顔を見せながら言い返す。


 「わかった。おにぃの言うこと聞くから、勝たせて。」

 「了解。」

 「でも言うことを聞く代わりに私のお願いも一つ聞いてほしい。」

 「いいよ。何すればいいの?」

 「応援に来てほしい。」

 「了解。」

 「ありがとう。じゃあデッキはどう変えたらいいの?」

 「それなんだけど・・・このキャラと入れ替えるのはどう?」


 と僕のスマホ画面を見た幼なじみは驚いた顔で僕を見た。



  ◇◇◇◇



 「おにぃ、そういえば、準決勝の相手から、対戦終わった後に”ずるい”って言われたんだけど。」

 夏休みのある日、大事そうに優勝トロフィーを抱えながら幼なじみが聞いてきた。

 僕は約束通り大会に応援に行き、授賞式まで見届けて一緒に帰っているところだ。


 「僕も運営の人から嫌味を言われた。」

 「えっ、なんでおにぃが?それもなんで運営の人に?」

 「そりゃ、攻略サイト運営している人間が1プレイヤーに肩入れしたら文句も言いたくなるさ。」

 「えっ、おにぃ攻略サイト運営していたの?」

 「言っただろ、最近ゲームできてないって。」

 「ゲームできないぐらい忙しいとしか聞いてないよ。攻略サイト運営してるなんてわかるはずない。」

 と足をとめ、こちらを睨む。そうだったっけ?

 「えっ、でも練習してる時に横で動画サイトの検証動画とか確認したりしてただろ?」

 「私のために確認してくれたと思ってたんだけど。」

 「そりゃ、メインの目的はそうだけど。サイトの作業も兼ねてる。」

 「ふーん。まあ、私の応援がメインだったんならいいけど。」

 と再び歩き始める。がすぐに振り返り、

 「そうだ。おにぃから借りたあのキャラどうしたらいい?」

 と聞いてきた。

 「そのまま使っててもいいぞ。もともとお前が引いたキャラだし。でも公式大会でバランスブレイカーだってばれちゃったからすぐに補正入ると思う。」


 そう、彼女のデッキで入れ替えたのは最初にトレードしたネタキャラだ。

 日替わりでもらえるログインボーナスを毎日食わせているうちに、

 固定ダメージ値と技のインターバルタイムがちょうどキャンペーンで出た新レアキャラを組み込んだデッキをハメ殺しできるようになってしまった。

 すぐにサイトに掲載しようと思ったが、課金が鈍るかと思い二の足を踏んでいたのだ。

 キャンペーンは昨日の大会当日までだったし、調整&追加の補正も入るし大丈夫だろう。

 このゲーム自体が廃れてほしいわけではないのだ。


 「うーん、このまま使うことにする。」

 どうするか悩んでいたらしい幼なじみが結論を出す。


 「おにぃの思い入れのあるキャラみたいだし。」

 と僕の顔を見ながらニヤニヤする幼なじみ。


 そんな幼なじみの頭をポンと片手でたたき、

 「暑いし荷物もあるから早く帰ろう。」

 と言い、歩き始める。

 幼なじみは一瞬何か言いたそうな顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべ僕についてきた。


 そんなに急がないでほしい。

 僕は2年間のブランクが解消されたこの距離感をもう少しだけ味わいたいんだ。

誤字脱字見つけたら随時修正します。

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