34 叙爵式
今日はいよいよステファンの叙爵式。我が家からは父と母と私の三人が関係者として王城に向かった。
父と母が贈った青年男爵にふさわしい衣類一式、私が贈ったロングブーツ。背が高く肩幅の広いステファンは、金髪に青い瞳と相まって惚れ惚れするほど美しかった。
王城に向かう馬車の中、私とステファン、両親がそれぞれ向かい合わせに座った。ステファンは顔が硬い。
「大丈夫だぞステファン。今後もエレンの婚約者として我が家に住むのだから、たいして変わりはない」
「旦那様、しかし今朝から使うように言われたあのお部屋は、いくらなんでも私には贅沢すぎます」
「あらステファン、エレンの夫になる人ですもの、あれでも足りないくらいよ」
ステファンの部屋は三階の私の部屋の向かい側になった。それが広すぎると遠慮しているらしい。
「ステファン、そのうち山のようにお父様から仕事が回ってくるのだから、遠慮なんていらないのよ」
「はぁ」
見栄えのするステファンは王城に着いてからは注目の的だった。誰かの身内であろう貴族令嬢たちがステファンの方を見ながらヒソヒソと話をしている。
危なかった。婚約してなかったら波が打ち寄せるように縁談が降ってきたに違いない。父と母が婚約を急いだのはこういうことを見越してのことだろうか。
やがて叙爵される人と参列する重鎮たちも整列し、あとは王家の人々を待つだけになった。
「国王陛下が入室されます」
かけ声を聞いて皆がビシッと背筋を伸ばした。陛下、王妃様、王太子様、第二王子様が入室されて式が始まった。
まずは王都軍の方々、次が上位貴族の方々で功績を挙げた方々が勲章や褒美として領地を授かり、最後の方でステファンの叙爵となった。
ステファンの名前が呼ばれて一歩前に出たステファンに陛下が自らお声がけしてくださる。
「エーリックの命を救ってくれたこと、礼を言う」
「身に余る光栄でございます」
するとエーリック殿下も声をかけてくださった。
「私を助けてくれたこと、心より感謝する」
「もったいなきお言葉、しかと心に刻みます」
このやり取りでステファンがエーリック第二王子を救った功績で叙爵されたことが会場にいた一同に知らしめられた。
帰りの馬車にたどり着くまで、ステファンは一体何人の貴族に声をかけられたことだろうか。特に若い女性たちが頬を染めて近寄り自己紹介などをするものだから、なかなか前に進まない。
やっと馬車にたどり着いた時には、ステファンはまるでたくさんの敵を倒したかのように疲れた顔をしていた。
「お疲れ様、ステファン。男爵になったのね」
「実感が湧きませんが」
「ステファン、我々は少し他の貴族と話をしてから帰る。エレンと二人で帰るといい」
多分、気を利かせてくれたであろう父が私に向かってウインクをした。父と娘の間で色々と恥ずかしいからやめてほしい。
私もステファンも正装なので行き先は限られる。
「ステファン、どこか行きたい場所はある?」
「いえ、このような服装で行ける所は思いつきません」
「じゃ、私に任せて!」
御者に行き先を告げて馬車に乗った。しばらくして着いたのは王都の外れ、丘の上の花畑だった。
「懐かしいですね」
「覚えていたの?てっきり忘れてると思ったわ」
「よく覚えてますよ。エレン様がずっと泣いてらっしゃって、私はどうお慰めしたものかと途方に暮れましたから」
それは幼なじみのフェリクスが手紙の返事もくれず、会いにも来てくれず、私が会いたいと言っても断るようになった頃のことだ。
「当時の私は十二歳の女の子の慰め方がわからず、そんな己の役立たずぶりに腹が立ったものです」
「ステファンは何も言わずに、私が泣き止むまでずっとそばにいてくれたわね。嬉しかった」
「お嬢様……」
「エレンと呼んで。あなたはもう使用人ではないのですもの。私の婚約者で男爵様だわ」
ステファンが何度か深呼吸してから私の名前を呼んでくれた。
「エレン」
「はい」
「ずっとお守りしていた方が私のものになるなんて。一生分の運を使い果たしてしまったのではないかと恐ろしくなります」
「大げさね。あなたはいずれ領地の管理や税の管理、領民の要望に応えたりの仕事がお父様から回ってくるわ。ほんとに山のように仕事が来るわよ。それも含めて二人で頑張りましょう」
「ええ。あなたと共に歩くためならどんなこともこなしてみせます」
「ステファン。私を受け入れてくれてありがとう」
「それは私のセリフですよ。私はあなたを泣かせたりしません」
「私もあなたを困らせたりしないよう気をつけるわ。どうかいつでも本音で私と向き合ってください。我慢しないで。遠慮もしないで」
「ええ。では、遠慮なく」
そう言ってステファンは私を後ろからそっと抱きしめてくれた。ステファンは背が高く、私はすっぽり包まれてしまう。二人で同じ方向を眺めながら長い時間そうしていた。
「生きていてくれてありがとうステファン」
「助けてくれてありがとう。エレン、結婚しても時々は二人でここに来ましょう」
「ええ、約束よ」
帰りの馬車の中で、ずっと手をつないでいた。どんな宝石を贈られるよりも幸せな気持ちになった。






