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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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30 ロイの相談

「痛っ!やはり、肩の高さまで腕を上げられそうにないわ、フランカ」


「左様でございますか。痛くても動かさないとどんどん腕の動く範囲が狭くなってしまいます。毎日少しずつでも動かしてくださいませ」


 フランカ夫人はそう言うと湿布を用意した。熱を持つような痛みはおさまりつつあるから、そろそろ湿布を使わずに運動したほうが良いのだけれど、と思案する。


「ねえ。あなたの娘のエレンは婚約したそうね。いつの話?」


「昨日でございます」


「あらそう。残念だこと。以前から話をしていたロイに一度顔合わせだけでもして欲しかったのに」


「申し訳ございません。この度の戦争で互いに気持ちを確かめ合ったようです。親としても一度不憫な目に遭った娘なので、早く幸せになって欲しくてつい気が急いてしまいました」


「そうだったの。残念だわ」


 ここで話題になっているのは王妃の兄の息子で、侯爵家の次男ロイ・デ・ベルドである。厄介なことに王妃から話が持ち込まれたのだ。


 話が来てどうしたものかと悩んでいるうちにエレンがステファンを助けに出てしまい、事情を話してやんわりお断りしたのだが。


 王妃は諦めずに再び「そのうちお茶でも」と誘われていたのだ。しかしこのロイ青年は二度の婚約解消の経歴があり、流石に大らかなフランカ夫人もためらうものがあった。エレンが留守の間に念のため人を頼んで調べてみたが、ロイ青年との婚約を解消した女性は二人とも理由を秘密にしていた。どうやら秘密を守ることを条件に多額の金銭が動いたらしい、ということまでしかわからなかった。


 二度も多額のお金を払って秘密にするような理由があるということだ。よほどの秘密なのだろう。


 よってフランカ夫人と夫のルドルフは三度目の相手に我が娘が選ばれないようステファンとエレンの婚約を急いだのだ。王妃の甥を断る表向きの理由としては最強の理由だ。


 王妃の治療をし、話の相手をして仕事を終えたフランカ夫人は案内の者に従って王宮内を出口に向かって歩いていた。すると、右手の通路から声がかけられた。


「フランカ夫人。お久しぶりですね」


 顔を向けると、そこにはロイ・デ・ベルド本人がいた。爽やかな笑顔の青年だった。


「まあ、お久しぶりでございます」

「王妃様の肩の具合はどうでしたか」

「順調に回復なさってます」

「帰るところならちょうど良かった。少し相談したい事があるんです」



♦︎



 相談事が立ち話ではできないことだから、とロイはボウエン家にやって来ることになった。フランカ夫人はまことに厄介な予感しかない。


「で、お母様に相談があるのになぜ私も?」


「あなたが幸せそうな顔で座ってることが肝心だからよ」

「ん?意味が……」


 そんなやりとりをしながら応接間に向かった。真面目そうな青年はエレンにも如才なく挨拶をしてお茶を飲んだ。


「早速ですが、お二人に相談したい事があるのです。母のことです。詳しくお話しする前にここで話したことは他言しないと約束してもらえるでしょうか。相談のお願いをしておきながら厚かましいのは承知の上です。申し訳ありません」


「もちろんお約束しますわ。他家のお話をペラペラ喋るようでは薬師は務まりませんもの」


「私も薬師ですので母と同じくお約束します」


 それを聞いてロイは安心したように話を始めた。ロイが悩んでいるのは母親のことだった。母親は酒癖がたいそう悪いという。普段は温厚で人当たりも良いのだが、一度お酒を飲みだすと止まらなくなり、近くにいる人を罵倒し始めるとか。


「ベルデ侯爵夫人はお体が弱いというお話で社交界から遠ざかってらっしゃいますね?」


「ええ。でも本当は体が弱いのではなく、酒のある場所へはとても出せないのです。本人もそこはわかっていて参加していません。家でも母の目につく所には酒類は置いてないのです。しかし、僕の婚約者には隠し通せるはずもなく」


「お食事の席などで夫人が荒れてしまうのですか?」


「はい。最初の婚約者には一回で、二度目の婚約者は三回目で愛想を尽かされました。母の罵倒は相手が一番嫌がることをとことん攻撃するものですから始末が悪くて」


「それはまた……難儀ですわね」


「僕と父は酒のせいだとわかっていますが、婚約者は豹変した母を見て怯えて、暴言を吐かれるともう……」


 エレンは黙って聞いていたが、ロイ青年にも元婚約者の二人にも同情した。ロイ青年の母親ならまだまだ若い。そんな人と親子関係になって長いこと苦しむくらいなら政略結婚を諦めた方がいいと思うのは当然だろう。だがそれではロイ青年があまりに気の毒だ。


「父は何度も母を部屋に閉じ込めたのですが、飲酒していない時の母は穏やかで涙を流して後悔していますし、タチの悪いことに暴言を吐いている時の記憶がほとんど無いのです。母の憔悴した姿を見ると父も苦しみ、部屋から出すとまたいつの間にか酒を見つけて飲んだり一人で出かけて酒を買って飲む、という繰り返しでした」


「難しいわね。お酒を飲むと吐き気がする薬はあるけれど、それでも発作のように先にお酒を飲んでしまうと効果が低いのよね」


「そうなのです。すでにその手の薬は役に立ちません。でもフランカ夫人ならなんとかいい薬を出していただけないかと」


 フランカ夫人はしばらく考えていたが、

「ひとつ考えがあるわ。でも急がないとその手は使えなくなりそう」

と言って、自分の考えを話し始めた。





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