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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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25 褒美

 何日も前からボウエン家は忙しかった。王妃様と王子様をお迎えするからである。


「お気持ちはありがたいけれど、大げさじゃありませんか?ステファンだって困るでしょうに」


「エレン、不敬なことを言うものじゃないわよ。ステファンにとっては大変な名誉なんだから」


「ステファンはやっと杖を使わずに歩けるようになったばかりなのに。姿勢を正してお見舞いを受けるのだってつらいでしょうに。なんで今かしら。もっと待ってくれてもいいのに」


「あなたって娘は」


 ノーラはエレンの後ろでドキドキしていた。本物の王妃様と王子様がこのお屋敷にいらっしゃるなんて、夢のようだ。


 ノーラを従えてエレンは動物用の小部屋に向かう。今日も今日とて猫が二匹診察を受けに来ているのだ。


「今日の猫は白い方が腎臓に石があるの。たくさん水を飲んでたくさん尿を出せるように、白ヨモギの煮出し汁を作らなくては」


「それを煮詰めて丸薬にするんですよね?」


「そうよ。飲ませるのはノーラに頼むわ。私より飲ませるのが上手だから。本当は飼い主が飲ませるものだけど、どうしても暴れて無理だと言うのよ」


「私、猫に薬を飲ませるのは得意です」


「助かるわ。それと、黒い長い毛の猫は歯茎が腫れてるの。一度薬で眠らせて歯石を削ることになるわ」


「はい。わかりました。薬を飲ませて口を開けたまま抑えるのはお任せください」


 廊下を進みながら二人は段取りを話し合う。もうノーラ無しでは立ち行かなくなると思うほどノーラは有能だった。


 簡単な風邪の薬や腹下しの薬なら短期間のうちに一人で作れるようになっている。エレンはそんなノーラが歳の離れた妹のようで可愛くてたまらなかった。



♦︎



 エレンたちが部屋から出ると、フランカ夫人は机の引き出しから分厚い記録簿を取り出して眺めた。


 それは二冊あって、三百年も前から記入され続けている。薬の効能、配合、使用法が書かれているものと、国内の貴族が求めた薬の記録が記されているものに分かれている。


 昔は羊皮紙だったが途中で紙に書き写されて、今は本のように綴じられている。


 もっと良い薬が作られたり、効果が望めない薬については除外して、新しい記録と差し替える。薬の使い方も日進月歩だから常に最新の情報を記録するのが特級薬師を引き継いだ者の役割だ。


 フランカ夫人の作る薬の効果が高いのは、この経験値の集積である記録簿を元に絶妙な配合で微量の毒や薬草を混ぜ合わせているからだ。


 購入者別に記録されている記録簿の方も分厚い。薬の購入履歴を読んでいると、まれにだがその貴族の血統に起因する病気が見えてくることがある。これは薬のレシピ同様に極秘扱いだ。


「いずれこれもエレンに引き継がないとならないのだけど」


 エレンが自分で見つけると宣言した結婚相手はまだ見つからないようだ。フランカ夫人は遠い目になる。


 フランカ夫人の場合は同じ侯爵家同士のルドルフのところに嫁いで来るのにそれほど支障はなかった。ルドルフは自分に誠心誠意尽くしてくれる人で、薬師としての活動も娘に薬師を受け継がせることにも同意してくれた。


 夫のルドルフは夫人が受け継ぐ財産を気にしないで済むくらいの領地からの収入があったし、大らかな性格で夫人の活躍を妬むこともない。


 エレンは先日、護衛のステファンを助けるために命がけで出かけて行った。

 

「ステファンね。どうしたものかしらねぇ」


 再び夫人は考え込んだ。



 その翌日。たくさんの護衛に守られてクレイベル王妃とエーリック第二王子がボウエン家の屋敷を訪問した。


 応接室でかしこまるステファン。微笑んで立ち会う侯爵夫妻。エレンも控えていた。



 クレイベル王妃は優雅な微笑みを浮かべてステファンに向かい合っていた。ステファンは下を向いたまま途方に暮れている。


(当然のことをしたまでなのに、なぜこんなことに)


 ステファンはそれをずっと繰り返していた。


「ステファン。あの時、そなたが腕を引いて走ってくれなければ僕は今頃死んでいた。そしてあの時、そなたが敵の前に飛び出して敵を誘導してくれなければ、やはり死んでいた。心からそなたの行動に感謝する」


「殿下。あれは当たり前のことです。どうぞお忘れください」


「忘れることなどできない。死ぬと言うことがあれほど身近にあったのに、そなたが全て防いでくれた。僕は一生忘れない」


「殿下、そのお言葉はあの時、命を賭して戦った騎士様たちにこそ手向けてくださいませ」


 そこにクレイベル王妃が会話に参加した。


「エーリックを守って命を落とした者たちには勲章と名誉と家族の生涯の生活の保護が与えられます。あなたは私兵でありながら騎士たちに勝るとも劣らない働きをしてくれました」


(いえ、ですから、俺は当たり前のことを!)


 冷や汗をかいて心の中で叫ぶステファンの前に、クレイベル王妃が優雅な所作で一枚の書類を差し出した。


「陛下からです」


 緊張でほんの少しだけ震えるステファンの手に渡された書類には美しい飾り文字で


『戦時下における汝の功績を鑑み、一代貴族として男爵位を授ける』と記されていた。


 

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