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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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24 お見舞い

 私は「しばらくゆっくりしてから」と言ったが、ノーラは「忙しい方が何も考えずに済むから」と翌日から私の手伝いを始めた。ハンナがステファンの世話をしていたので、私もその方が何かと便利だった。


 ノーラはとても頭の良い気働きのできる子だった。


 屋敷の中での立場は「薬師見習い」と言うことで簡素なワンピースを支給され、髪をキリリと後ろでひとつに縛ったノーラは一日中エレンの後に付いて動いていた。


「覚えるべきことはたくさんあるから、ゆっくりいきましょう」


 私はそう言ったが、ノーラは使用人に貰った紙を糸で器用に綴じてひたすらメモを取りながら動いた。


 屋敷の使用人たちは私とボルダーの話を聞いて「目の前で父親を斬り殺されたらしい」「あの大男のステファンに肩を貸して助けてくれた上に、一人で看病していたらしい」と涙ぐみながら話をしていた。


 「なんて健気な」「ステファンの恩人は私たちの恩人も同然」


 使用人たちは皆、ノーラを守ろう、皆で育てようと彼女を大切に扱い可愛がってくれた。ノーラもまた誠実に働いていた。


 

♦︎



 王宮では若い二人がヒソヒソ話をしていた。


「なんと。エレンが護衛を『大切な人』と言ったのか。本当に?」


「本当ですわ。本人から聞きましたもの」


 エーリック第二王子は驚いていた。侯爵家の跡取りが平民の護衛に好意を持っているなど自分には考えられなかった。


「昨日、エレン様がわたくしの様子を見に来てくれたのですけれど、エレン様は自ら護衛を助けに海の近くまで馬で行って、敵と戦って護衛を連れ帰って来たそうです」


「なんと豪胆な。だがフレイチェ。その話、僕は聞いていないぞ。ステファンが生きていたのなら、なぜエレンは僕に知らせてくれないのだろう」


「遠慮したのではないでしょうか。その者は敗残兵に斬りつけられて相当な大怪我をしていたらしく、まだ伏せっているそうですから」


「あの者が大怪我を……」


 そのあと二人はしばらく声をひそめて話し合った。エーリックはフレイチェを見送った後、真っ直ぐに王妃である母の元へと向かった。


 

「母上!」

「なんです、エーリック。元気になったとたんにそのような大声を」

「お願いがございます」


 王妃クレイベルはこの無邪気な次男を愛していた。先日、戦地で行方知れずとなった時は文字通り目の前が暗くなり、崩れ落ちた。なので王宮に無事帰ってきた時はエーリックが困惑するほど抱きしめて嬉し泣きしたものだった。


「お願い?なにかしら」


 いっときは死んだと思った息子の願いなら、なんでも叶えてやろうと微笑んだ。


「私が敵に殺されそうになった時、手を引いて逃してくれた者がおりました」


「ええ、聞いてます。ボウエン家の私兵でしょう?」


「はい。そのステファンという者が、見つかったらしいのです。しかし、大怪我をしていて未だ伏せっているそうです」


 我が息子の手を引いて山中を走り、息子が力尽きたら隠してくれて、自ら十名以上の敵の前に躍り出たという話は聞いている。なかなかできることではないと感謝していた。


 王宮の兵ももちろん王子を守ってくれていたし、戦死した者、怪我を負った者もいた。だが彼らは手厚く看病され、弔われ、身内は一生暮らしに困らないよう配慮されている。しかし私兵においてはその限りではなかった。


「その者にはいくら感謝しても足りないと思っていました。その者が伏せっているのなら、僕は一度見舞いに行きたいのです」


「そうね。フランカ夫人の家なら私も一緒に行きましょう。私からもその者に礼を伝えましょう」


「本当ですか?ありがとうございます!母上が一緒なら、その者も喜ぶでしょう」




 その日の夕方、ボウエン家に王宮から使者が来て大騒ぎになった。なんと王妃様、第二王子様が近いうちにステファンの見舞いに来るというのである。


「私を?王妃様が?いえ、とんでもありません。私は当たり前のことをしたまでです。そんな、王妃様と王子様がお見舞いなど恐れ多すぎますので、どうぞ、お気持ちだけありがたく頂きますとお伝えください!」


 ステファンは話を聞いて本気で困っていた。しかしフランカ夫人は苦笑してお見舞いを受けるようにと言うのだった。


「もちろん私もそうお伝えしたいけれどね。王妃様は特にエーリック様を可愛がっていらっしゃるから譲らないと思うわ。私のことも気に入ってくださってるし。そういうことだから、エーリック様の命の恩人として、諦めてお見舞いを受けてね」


「そうですか……」


 フランカ夫人が部屋から出て行くなり天を仰いで目をつぶるステファンだった。



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