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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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18 母の帰宅

 領地から母が帰って来た。


 迎えに出た私はひと月足らずの間に母がやつれているのに驚いた。


「お母様、ずいぶんお疲れのようですが、それほど領地の流行り病は酷かったのでしょうか」


「それもあるけれど、エレン、戦争が始まるかもしれないの。何度か他国の偵察船が領地の沖合いに来ていたのよ。王家には連絡済みよ。我がボウエン家の領地絡みだからお父様と王家は、今日から話し合いに入るわ」


「戦争って……どこの国とです?」

「船の特徴からすると、おそらくは南の海のガラバレス王国よ」


 ガラバレス王国は我が家の領地の海岸から船で一週間くらいのところにある大きな島国だ。


「ガラバレス王国は強いのですか?」


「国力は我が国の方が上だけれど、近年、ガラバレスは軍備増強に躍起になっていたらしいから油断はできないわ」


 悶々としているうちに夜になった。お父様がげっそりしたお顔で帰宅すると、話し合いの内容を教えてくれた。


「ガラバレス王国は最近代替わりをして若い女王が君臨しているのだが、どうやら戦争はその父親の思惑のようだ。たくさんの軍の船がガラバレスの港に集結しているらしい」


 そこで母が話を継いだ。


「上陸してくるとしたらうちの領地の海岸からだと思うから、我が家の私兵は全面的に戦争に参加するわ。もちろんステファンもね」


「わかりました」


 恐ろしいことだけど最初にうちの領地で叩かないと戦闘がどんどん広がって他の領地まで被害が及ぶ。


 その後、なんて言って自室に引きあげたのかよく覚えていない。私が子供の頃から近くで守ってくれていたステファンが、戦争で、おそらく先頭集団で戦う……そう想像しただけで力が抜けるようだった。


「そうだわ」


 高価な薬はガラス瓶に入れて金属のタグをかけている。それ用の銀の板を引き出し、小さなハンマーと文字棒を使って文字を打ち込んだ。


『ステファン』


 お守りがわりに渡そう。もし怪我をして意識がなくてもステファンとわかるように。


 出来上がったネームタグをステファンの部屋に届けに行ったが、ステファンは留守で、ハンナが代わりに受け取ってくれた。


「兄さんは市中の知り合いに挨拶に行きました。もしかしたらもう最後かもしれないからって」


 泣き腫らした顔のハンナを抱きしめた。


「縁起でもないこと言わないで。ステファンは強いんですもの。必ず無事に帰って来るわよ」


 そして翌朝早く、我が家の私兵たちは領地の海岸へと向かった。私と母と使用人たちは、それから毎日薬を作り続けた。


 傷薬、解熱剤、止血薬、打ち身用の湿布薬。それらに加えて包帯や三角巾も買い集めて荷物を送り続けた。食料も買い集め、保存できるように乾燥させて小分けして送る。


 やがて、戦争が始まり我が領地に敵軍が上陸したと知らせが来た。父も領地に出かけている。私と母がしっかりしなければ。



♦︎



 戦況は一進一退らしく王都の我が家に届く知らせは良いものもあれば悪いものもあった。私も戦地に赴いて看病や怪我の手当てをしたかったが、母は絶対に許さなかった。


「あなたが捕虜になってごらんなさい。どれだけ迷惑をかけることになるか。その気持ちを薬作りに向けなさい」


 私が足手まといになるわけにいかないけれど、居ても立っても居られない。その気持ちを全部ぶつけてひたすら薬を作り続けた。近隣の領地からも領兵が出向いて戦っているらしい。王国軍も戦っている。


 なぜガラバレス王国は……と何十回何百回と考えていたが、母が予想外のことを話してくれた。


「ガラバレス王国は震え熱が風土病でね。エレンのお祖母様が特効薬を作るまでは毎年多くの子供と老人が死んでしまう貧しい国だったわ。でも薬のおかげで人口も増え、農業と漁業が盛んになって暮らしも楽になった。暮らしにゆとりが生まれた結果、もっと広い土地が欲しいと思うようになったのかも知れないわ」


「そんな」


「恩知らずにはそれ相応の報いを受けてもらわないとね」


 私は毎日黙々と大量に薬を作り、荷として送る。その繰り返しだった。戦死の知らせもぽつりぽつりと届いた。我が家はまだ幸にもその知らせは来なかったが、他の領地の兵や王国軍の戦死の知らせを聞くようになった。


 祈りというものを信じていなかった私でも、最近は毎日祈る。皆が無事に帰って来ますように、我が国が勝ちますように。祈らずにはいられなかった。




 そんな精神的にはいっぱいいっぱいの生活のある日、エーリック第二王子から呼び出しがあった。


「こんな忙しい時になんだろう」


 若干ぷりぷりしながら王宮に参上したら、エーリック殿下は戦支度だった。


「殿下、まさか殿下も行かれるのですか?」


「まさかとはなんだ。兄上も戦っておられるのだ。僕だって役に立たねばならん。そこでエレンに頼みがある」


「はい」


「フレイチェを時々見舞ってやってくれないか。たまにフレイチェの話を聞いてやってほしい。そなたのことを頼りにしているようだから」


 くうう。殿下ったら。優しい子だったのね。


「承知いたしました。時々お話相手にお邪魔します」

「頼んだ」


 そう言ってエーリック殿下は第三陣の兵士と共に王都から海辺を目指して旅立った。わがまま王子とか思ってごめんなさい。あなたは立派な王族でしたね。



 私もしょんぼりしてる場合じゃない。今この時も兵士たちは戦っているのだ。薬を作ろう。

 

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