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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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13 母、領地へ

 夜、騒がしい音と声がした。


 もう真夜中だ。何があったのかと夜着の上からガウンを羽織り寝室を出た。


「お嬢様」

「ステファン。何があったの」

「領地で問題が起きました。小規模の山崩れのあと、嘔吐下痢の病が多発したそうです」

「大変。水かしら。誰が向かうの?」

「奥様と使用人が八名。全員研修済みの者です」

「そう、なら安心ね」


 私とステファンが会話しながらホールに向かうと、汗と泥にまみれた男が一人、水をもらって飲んでいた。隣ではお母様が使用人たちに指示を出している。


「エレン、ちょうど良かったわ。私はこれからリウス村に向かいます。これからも被害が広がるかもしれないの」


「わかりました。お気をつけて。家のことはお任せください」


「ひとり大切な患者さんがいるから、代診をお願い。詳しいことはお父様に聞いて。じゃ、行ってくるわ」






 と、いう経緯があって私は今、王宮の第二王子、エーリック殿下の部屋にいてご本人をお待ちしている。たしかエーリック様は最近ご婚約したばかりだったはず。


 ステファンは弟子という建前で白衣を着て丸腰で後ろに控えている。父がそうしろとこだわった。王宮に護衛は必要ないのに心配症だわ。


 お父様によると十四歳になられる第二王子は繰り返す頭痛と腹痛でお悩みとのこと。王宮の医師が色々と手を打ったが症状が改善せず、王妃様の信頼厚い我が家にお鉢が回ってきたらしい。


 しばらく待たされていると、やっとその第二王子のエーリック様がお出ましになった。


 十四歳の殿下は銀色の髪に灰色の瞳の、線の細い少年で、神経質そうな印象だ。その殿下は私を見るなり鼻に皺を寄せてお付きの老人に文句を言い始めた。


「なんだロンダル、フランカ夫人ではないのか」

「はい。フランカ夫人は流行り病の治療に向かったとのことです。そうでしたな?エレン様」


「はい。領地に嘔吐下痢の病が多数出ておりまして、母はそちらに行かねばなりませんでした」


「へえ。第二王子の命より平民の命の方が大切だということか」


「殿下、恐れながら、放置すれば死んでしまう人か、すぐには命の危険がない人か、という判断でございます」


「ふん。生意気だな。もういい!帰れ!」


「……承知いたしました。それではこれで失礼いたします」


 お辞儀をして帰るか、と思っていたらお付きの老人が慌てた。


「いやいや、エレン様、帰ってもらっては困ります。私が王妃様に叱られます。どうか殿下のご病気を診てくだされ」


「ロンダル!余計なことを言うな。こんな小娘では僕の病気がわかるはずがないのだ!」


 あぁ。思春期独特の面倒くささに権力が加わってとっても厄介な。だいたい私を小娘って、殿下の方がずっと年下でしょうに。


「ロンダル様に申し上げます」

「どうぞ、エレン様」


「頭痛腹痛の薬の効き目は心の有り方に影響されます。殿下のご信頼無くして薬による治療の効果は万全とは言えません。どうぞ他の薬師をお探しくださいませ」


「エレン様、そうおっしゃらずに。王妃様のご指名なのですから。殿下はここひと月あまり、頭痛と腹痛でずいぶん苦しんでおられるのです」


 仕方ない……。


「では殿下のお許しが出ましたら」

「殿下、わがままはなりませんぞ」

「ふん。仕方ないな。ロンダルに免じてお前で我慢してやる」


 お前って。我慢て。悔しいが王族だものね。我慢だわ。


 ひと通りの問診を終え、食事記録を見せてもらう。しかし腑に落ちないことがあった。


「殿下、お口にされた物は飲み物も含めてこれで全てでしょうか」

「これで全てだ」

「左様でございますか」


 仕方ない。絶対に違うはずだけど、ここで言い争うのは無駄。まずは無難な胃腸薬を渡して今日は帰ることにした。ステファンは帰りの馬車で心配していた。


「よろしいのですか、王子様にあのような……」


「あのような強気な振る舞い?いいのよ。お祖母様の薬のレシピを王家に渡した時から、褒美として王家は我が家に対しては無礼討ちは無しということになっているの」


 要は遠慮せずに発言することを許す、て感じね。


「そういうことでしたか」


「特効薬は国家間の取り引きに使われたし、利益の八割は王家が手にしているのよ。お祖母様は我が家の利益より震え熱の患者が減ることを望んだの。おかげで南の国では震え熱で死ぬ人が減ったわ。そして王家は濡れ手に粟よ」


「なるほど」


「にしても厄介な患者だわ。食事記録に抜けてる物があったのよ。多分厨房が把握してない物だわ。ちゃんと申告しないなんて。本当に頭痛と腹痛を治す気があるのかしら」


「いつも温厚なエレン様なのに、王子様には厳しいんですね」


「私、末っ子ですからね。お姉さま達にとても厳しく鍛えられてきたのよ。そりゃもう、涙なくしては語れないほどにね。だから甘やかされ放題の人を見てると腹が立ってくるわ。あら?どうして笑うの?ステファン」


「いえ、私も次男ですので上の兄の理不尽さは身をもって知っているものですから」


「あの王子様、コーヒーの匂いがしたのよ。コーヒーは最近広まったけど、それとは違う甘ったるいコーヒーの匂い。飴みたいな。コーヒー味の飴って街で出回ってる?飲食物のリストにはコーヒーは書いてなかった。コーヒー味の飴もね」


「平民達はコーヒーを気楽に買うお金はありませんが、コーヒーを煮出した汁で香り付けした飴が人気ですよ」


「ふうん。やはりコーヒー味の飴か。明日はその辺を聞いてみる。ありがとう。助かったわ」


 てことで王子様に明日は飴のことを聞いてみよう。嘘ついても駄目だと学んでいただかなくては。思春期反抗期の王子に薬師の鼻はごまかせないことを教えて差し上げねば。


 その夜は遅くまで殿下の体調不良の日時と食事内容を照らし合わせた。やはり不調の日と一致する食べ物は見当たらなかった。時間の幅を広くして調べても該当する物がない。


 やはり書いてない食べ物が原因の可能性が高い。


 でも、コーヒー味の飴だとしたら、平民が好んで口にする飴を、王子様がどうやって食べたのかしら。毒殺を恐れてそんな物は許可されるはずがないのに。


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