金持ちと言いなり②
「えっと…、どちらさん…?」
倫也は目の前の彼女の容姿端麗さに一瞬目を奪われた。
彼女は冷静な、抑揚があまりない声色で告げる。
「西園寺倫也さんですね。瀬名明日香と申します。あなたのお父様からのご依頼で参りました。本日からよろしくお願い致します」
明日香は一礼すると、家の中に上がろうとする。
それを倫也は慌てて止めに入った。
「いやいや意味わからないから」
明日香は少し不思議そうな表情を浮かべて、倫也を見た。
数秒何かを考えたあと、口を開いた。
「お父様から何も聞いていない?」
「聞いてるも何も俺は父さんと連絡をとってもいないし、とりたくもない」
「そうですか」
と、明日香は家に入ろうとする。
「だからなんなんだよ。ここは俺の家だ」
「違います。こちらの家を契約しているのはあなた、倫也さんのお父様、西園寺源三様です。あなたに断る権利はありません」
「だからって勝手に――」
彼女が家に上がり込もうとしているのを必死に止めるが、表情を変えず明日香は倫也を綺麗な瞳でまっすぐ見つめた。
「あなたに拒否権はありません」
口調こそ変わらないのに何故かとても力強く感じた言葉に倫也はその場で立ち尽くす。
明日香は自身の鞄からスリッパを取り出し、失礼しますと告げて家に上がった。