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第七話

「よっ! 曲は弾けた?」


 朝。学校へ向かう為に家を出ると見覚えのある黄色いパーカーの男が笑顔で出迎える。その瞬間、僕は開いたばかりのドアを閉めた。


「いやいや、待ち伏せとかないだろ。それに幽霊の癖になんで寝癖がついてるんだよ……」

「それは俺もわからん!」

「ちょっと、なんで入って来てるんですか!」


 そう、彼は幽霊。実体を持たないヒロさんには堅牢なドアも何の意味なも成さない。


「学校に付いて行くって言っただろ?」

「付いてくるなって言いましたよね?」


 ミュージシャンと言うのは自分勝手なのだろうか。まぁ、その道を選ぶくらいの行動力だから予想は出来なくはない。無駄に争っても学校には遅刻がある以上勝てる見込みは無い。


「わかりました、わかりました。ただ、大人しくしていて下さいね……」

「俺をなんだと思っているんだよっ!」

「自分勝手な幽霊ですっ!」

「クソっ! 反論出来ないぜ!」


 とりあえず自覚はあるのか、『大人しくする』という条件だけは飲んでくれた。


 だけど、正直不安しかない。


「学校とか久しぶりだなぁ!」

「本当に、他に見える人居たらどうするんですか?」

「そりゃもちろん、友達になるさ!」


 だめだ、この人に何を言っても止められる気はしない。僕はヒロさんの大人しくに賭けるしかないのだと半ば諦める事にした。


 学校に着くと多少は気にしてくれているのか、何も言わず周りをキョロキョロと見ている。ふと口を開いても「学校だねぇ〜」と懐かしんでいるだけの様に見える。


 この調子なら思っていたよりは大人しくしてくれそうだなと安心し、教室のドアを開けた。


「おはようございますっ!」

「おはようございま…………す……」


 その瞬間、クラス中が僕を見た。

 ヒロさんの声の張った挨拶につられ僕も慌てて声を張り挨拶してしまった。


 気まずい雰囲気の中、ヒロさんを少し睨む。

 すると狭山が僕の肩をたたき「おはよう」と言って廊下に消えて行った。


「なあなあ、あいつが友達か?」


 僕は無視して教科書を机の中にぶち込んだ。

 正直、悪びれる様子のない彼に少し怒っている。それと同時に慌ててつられてしまう小心者の自分にも腹が立った。


「なんで怒ってんだよぉー」


 話しかけてくる彼に返事をしてしまったらそれこそ僕は変人の電波野郎になってしまう。


 だが、気にせず話しかけてくるヒロさんに一言言ってやろうと、始業までの時間を確認しスマートフォンを持って人気のないトイレに向かった。


「あのさ、幽霊なんだから話しかけないでくれます?」

「ああ、そうか!」

「そうか! じゃないですよ」

「悪い悪い、聞く時は近くによるわ!」


「それにあいつは友達じゃないです、面白がって冷やかして来ただけですよ」

「そうかな、別に悪い奴には見えないけどなぁ」

「なんであいつの肩もつんですか……」


 多分ヒロさんも、僕とは違うクラスでね中心人物だった人なのだろう。だから、冷やかす側には冷やかされる側の気持ちは分からないのだ。


 一通り八つ当たりの様な文句をいい終えトイレを出ると、飲み物を持った狭山が歩いてくるのが見える。彼が気づくと慌てて僕は目線を逸らした。


「おっ? 西村じゃん」


 普段言葉を交わす事の無い彼は、軽い雰囲気で話しかけて来る。教室での事を弄ろうとしているのだろうと僕は下を向いた。


「おまえさ、バイトしてんだろ?」

「えっ、何でそれを……」


 意外な言葉に動揺する。僕は学校に許可を申請しているし後ろめたい事はない。別に狭山にバレた所で問題はない筈だ。


「俺もさ、飯食ってる時とかやっちゃうんだよな。『いらっしゃいませー』ってさ職業病だよな!」

「ああ……そういうこと?」

「なんだと思ったんだよ……」

「いや……うん。あるね」


 意外にも狭山はラフに話しかけてくる。もしかして僕は話す事が無かっただけなのかと彼の印象が少し変わった。


「なんか欲しい物でもあるのか? 遊びに行ってるようには見えないし、バイクとか?」

「いや……ギターは買ったけど……」

「マジかよ、西村ギター弾けんのか?」

「ちょっとね……」

「面白れぇじゃん。あ……もう教室もどらねぇとな……また聞かせてくれよ!」


 そう言って彼は走り去っていく。


「おまえも急いだ方がいいぞ!」


 一瞬振り返り声を掛けた狭山がどこかいい奴の様な気がした。ヒロさんはニヤニヤしながら僕を見ると何も言わずに教室の方に目を向けた。


 席に着くと、まるで独り言の様にヒロさんは外を見ながら呟く。


「見ようとしないと見えない物はいっぱいあるよなぁ……」


 それが、トイレ前の出来事なのかヒロさん自身の事なのかはよくわからないけど、狭山の事に関してはヒロさんの方がよく見えていたのかもしれない。


 ふと視線を戻すと、美波ちゃんと目が合いまたすぐに逸らす。ヒロさんには彼女がどの様に見えているのだろうかと気になった。


 僕は「そうかもしれない」と、ヒロさんに聞こえるかどうか分からない位の声で小さく呟いた。

お読みいただきありがとうございます。


先入観とか、そう言った物は日常に溢れています。

なるべく意識していきたいと思う今日この頃です。


♪♪♪


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