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第六話

 あの日、ヒロさんとセッションをした日から、僕の中で何かが変わり始めた様な気がする。別にギターが劇的に上手くなったわけでも無く、自分自身凄く自信が付いた訳でも無い。


 でも、あの日教えてもらった『スリーコード』という、パワーコードの進化系。実はただ一音増えただけの新たなステップに心を躍らせている。それは、日常生活にも影響が出始めていた。


 普段通りの学校、特にワイワイ騒ぐわけでもなく普段の学校生活でギターの事を考える。なんとなくそれが自分の為になる事を考えている様な気分になるのは家に帰れば実践出来るというのが大きい。


 今までぼうっと過ごしていた教室で、教えてもらった形を覚え直し、頭の中でイメージする。おかげで翌週にはある程度『スリーコード』というものが形になり始めていた。


「ねぇ……何やってるの?」


 昼休み、黙々と指の形を練習していると、すぐ近くで声がした。だけど僕は自分が声をかけられて居るとは思わず、そのまま続けた。


「ねぇ、西村……無視?」

「えっ、市村さん僕に話しかけてるの?」


 振り向くと、目の前には可愛い顔に茶色い髪。美波ちゃんがこっちを見ていた。


「この距離で別の人に話しかけてたらおかしいでしょ。それで、さっきからずっと指を見つめているけど何やってるの?」

「そ、そうだね。えっと、これは……」


 彼女に、ギターの練習と伝えるのかを迷う。まだ上手く弾けないという事もあるのだけど、それ以上にカッコつけてるみたいで恥ずかしい。


「おい、美波〜。何話してんだよ、飯行こうぜ?」

「うん、すぐ行くー!」


 そう言うと、美波ちゃんは軽く手を振り僕の答えを聞かずに狭山の所にかけて行く。


「西村と知り合いなのか?」

「なんかブツブツ言いながら指を動かしてていたから気になってね……」

「そんなのほっとけよー」

「えー、だって呪いとかだったら怖いじゃん」

「呪いって、ねーよ──」


 少しづつ離れて行く話し声に、僕の事が気になったと勘違いしていたという現実を突きつけられた。


 呪い……そう見えるんだな。

 自分の指を見つめ、気をつけようと誓った。



 その日は学校が終わりヒロさんに会う為に公園に向かった。今日の事が悔しかったのもあるけど、それ以上に早く次の練習を聞きたかったからだ。


 会いたい気持ちが強かったせいか、すぐにヒロさんは姿を現した。


「どうしたの? そんな必死な顔して」

「次の……次の練習を教えて下さい!」


 彼は少しなだめる様に手のひらを見せる。


「まあまあ、何があったの? その様子だと何かあったんだろ?」


 そんなに顔に出ていたのだろうか、僕は今日起きた出来事を勢いに任せてヒロさんに吐き出した。


「あはは……ヤケコーラの理由の子かぁ。それにしても呪いってお前学校でどんなキャラなんだよ」

「笑い事じゃ無いっすよ……」


 ヒロさんと言えど、笑いを堪えているのに腹が立つ。そりゃ、学校ではコミュ障なんだけど。


「まぁ、どれだけ可愛いのかはしれないけどさ。所詮は同じ高校生だろ?」

「市村さんは高嶺の花なんですよ……」

「話しかけてくる時点で気軽に話せそうなんだけどなぁ……」


 百戦錬磨のアーティスト様とは恋愛については分かり合えないのだと思う。


「そんな事より、次の練習ですよ!」

「なんか無茶苦茶やる気出してるな……それで、スリーコードはできたのか?」

「5度と3度、7度にオクターブ……はそれなりに弾ける様になりましたけど……」


 そう言うとヒロさんはウンウンと頷く。


「オッケー、本来スリーコードと言うとこないだ歌った様なコード進行を指すのだけど……今回は、パンクロックでよく使われる3音を使う弾き方を伝えた訳だ……」

「次は……4音?」

「いや、コードの仕組みを理解するにはこれが一番わかりやすいんだよ」

「わかりやすい?」


「そう例えば、♯や♭は音楽でも習うとして、マイナーやセブンスは聞き慣れない分頭に入れにくい」

「まぁ、ギターするまでは聞いた事無かったですね……」

「だから、3度が低くなるとか7度を入れるとか、手の形で覚えてしまえば楽だしどうなっているのかが分かる! それに下二本を使わないからいいと言うのはそのうち分かる!」

「それはいいんですけど……」


 すると、ヒロさんはベンチに座ってしまう。


「好きな曲名の後にコードで検索してみろよ? 今出て来たコードだけで出来てる曲があるからそれを探してコードの通り弾けば新しい伴奏者になれるぜ?」

「本当ですか?」

「本当さ! それは祐樹が家で練習するとして……明日俺も学校に付いて行っていいか?」


「……はぁ!?」

「正直結構暇なんだよなぁ……」

「……何しに来るんですか?」

「授業参観?」


 いやいや。なんで僕がボッチなのをヒロさんに見せないといけないんだ。


「あとは……ラブのプロデュースをちょっとね!」

「絶対だめです!」

「いいじゃん、俺と祐樹の仲だろ? 固い事は気にすんなって!」

「来たら塩撒きますからね!」


 いきなりの学校へ行く発言に僕は戸惑った。見られたく無い以上に、今の学校生活をみて彼に幻滅されたらどうしようかと、そんな事ばかりが頭を過ぎった。


 だけどヒロさんが、断った位で諦める様な人では無い事を僕はまだ理解していなかった。

お読みいただきありがとうございます。


スリーコードといえば、コード進行の基本的な部分で昔の洋楽なんかでは多いですね!だけど、ここではパンクロックでよく使われる3音のコードとして登場しています!


♪♪♪


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