第四話
「ところで祐樹はどんな音楽がしたいんだ?」
「まずは何か弾ける様になりたいですね……」
「そうは言っても、ロックだったり弾き語りだったりジャズだったりスタートラインは色々あるんだぜ?」
「バンドでするなら何がいいですかね?」
「まぁ、ロックとかかな? その辺り何本か見ていいと思ったのを相棒に選んだらいいかもな!」
ロックか……世の中のテレビに出ている様なバンドはざっくりとロックに分けられるらしい。一言で、ロックといっても色々なジャンルの要素を取り入れているからよほど振り切らない限りはバンド自体がロックなのだとか。
楽器屋さんに入ると、ヒロさんとはなるべくアイコンタクトでなるべく返事をする事にした。
「俺はレスポールを使ってたんだけど、RISE UPはテレキャスターなんだよね」
僕はその二つを触らせてもらう。思っていたよりも重く重量感を感じる。すると、店員のお兄さんは「音、だしてみる?」と聞いた。
慌てて僕は、ヒロさんに助けを求める様に見つめる。
「祐樹はまだ弾けないだろ? このお兄さんに引いてもらうといいかもな!」
目で合図を送ると僕は言った。
「あの……お兄さんが弾いてくれますか?」
「初めて買うの? なるほど、それじゃそれぞれオススメのセッティングで弾いてみるよ!」
意外にもお兄さんは色々なギターを弾いてくれる。音楽が好きな人だからなのかノリノリでどんどんギターを持ち出した。
「どう? 気になるのがあればもう一度弾くよ?」
見た目と音が気に入った物を選ぶ。赤茶色の少し変わった形のギターを手にとり、ヒロさんの顔を見た。
「くぅー、いきなりギブソンのSGか、11万はちょっと高いけどいいんじゃないか?」
ヒロさんもいい反応をしてくれている。悩んでいるのに気づいたのか、お兄さんはお店の奥からアルミのケースを持ってきた。
「本当は値引き交渉とかなんだけど、初心者だから、これも付けてあげるよ」
「いいんですか?」
「とりあえずは、これがあれば練習できるよ」
僕は迷わず、二つ返事でそのギターを買った。ギブソンの背負えるケースも付いていてお得な気分でお店を出る。
「それ、一生物のギターだぜ?」
「こんなに安いのにですか?」
「SGは比較的安いんだよ、でもプロでも愛用している人は沢山居る。軽いし見た目めもいいし、もう当分は買わなくていいな!」
ヒロさんも絶賛している事もあり、僕はすでにこのギターで、まるでステージに立った様な気分になった。
「くぅー、早く家で弾いてみたいなぁ!」
「懐かしいなぁ、俺はそんなにいいギターじゃなかったけど、小遣い貯めて、エピフォンのレスポールを買った時はなんか無敵にでもなったような気分だったな……」
懐かしそうに語り、ヒロさんは自分の手を見つめた。そうか、彼は……。
「あ……すみません……」
「どうしたんだよ?」
「もう、ギター弾けないんですよね……それなのに僕はその事を考えずに……」
「何言ってんだよ、俺が紹介したバンド見て音楽したいって、それにこんないいギターまで買うなんて音楽好きとしては幸せな事なんだぜ?」
「それならいいんですけど……」
「祐樹の家、盛り塩とかしてないだろうな?」
「してないですけど、家にくるんですか?」
そう言うと、ヒロさんはきょとんとした顔になる。
「俺はギターを教えるんだろ?」
「でも、まさか家に来るとは思ってなかったです」
「まぁ、すぐに一人で練習する事になるさ、ギターは孤独との戦いよ!」
彼はそう言うと、家まで付いてくる事になった。まさか自然に幽霊を家に招く事になるとは思ってもいなかった。
「ほー! 結構いい家だな!」
「いやいや、普通の一戸建てですよ……」
「都会じゃなかなかないんだぜ?」
六畳間のありきたりな部屋。ベッドと勉強机の隣に小さなテーブルを置いている。僕は、部屋に案内するとヒロさんは小さなテーブルの前に座った。
「さぁさぁ、ギター出してみようぜ?」
「急かさないで下さいよ……」
そう言って、買ったばかりのSGを取り出す。綺麗な塗装に、ピカピカの弦が張ってある。おまけで貰ったアルミケースの中からストラップを取り出して付けた。
「ほれほれ、構えてみろよ!」
ギタリストの姿の記憶のままに、肩に掛ける。ぎこちなくなっていないかが気になる。
「お、いい感じじゃん! 鏡見てみろよ!」
部屋にある小さな鏡を覗いてみる。似合っているとかはよくわからないけど、様になっているとは思い嬉しくなった。
「俺も買った時はそれするんだよ。俺の! って感じが凄くいいだろ?」
「……うん」
はしゃぎたい気持ちはあるが、ヒロさんが見ている手前恥ずかしい気持ちもある。多分ニヤケながら返事をしていたのだろう。
「早く弾けるようになりたいだろ? ではでは早速教えましょうか!」
「宜しくお願いします……」
そういうと、座った体勢での持ち方、構え方を教えてくれる。ヒロさん自身が触れない事もあり中々苦戦する。その次にピックの持ち方やざっくりとそれぞれのパーツの呼び名、音を合わせる機械でのチューニングの仕方を教えてくれた。
「まぁ、基礎知識はこんなもんかな。後はやっていれば自然と覚える」
「そしたら……」
「そう、音をだす!」
そう言うと、一番上の六弦の1フレット目を押さえる様に言い同時にピックでその弦を弾くのだと言った。
正直僕はそれまで弦は触れているだけだと思っていただけに改めてギターの難易度を理解する。
「これさ、Fのルート音って言うんだけどさ。ギターを弾く限りずっと弾くんだ……」
「ずっと?」
「そう、音には限りがあるからね。でも抑えて、ピックで弾く以上同じ音は出ない。それこそアンプなんて通したらもっと出ない。同じに聞こえるだけで何かは違うんだ」
ヒロさんは寂しいのか嬉しいのかよくわからない顔で笑う。その姿から本当に何万回も弾いてきたのだろうと思った。
「世の中のロックと言われる曲は大体BPMが120から180速い曲だと240というのも有る」
「なんですかそれ?」
「テンポ……と言えばいいかな? 大体が8ビートと呼ばれるリズムが中心なんだ」
「それは聞いた事あります!」
そう言うと、アルミケースを指差し小さな機械を出す様に言った。その機械の電源を付けると「ピッピ」という音と共に数字が表示される。
「これに合わせて弾いてみるんだ」
そう言われ、弾いてみる。ぎこちない右手が必死で弦を捉えようとしてなんとか合わせる事ができた。
「簡単に言えば、音に合わせて弾くのが4ビート、倍弾くのが8ビート。裏どりとかも教えたいけど今はその認識でいいよ」
「なるほど……」
「コード進行なんかにもよるけど、大体一曲でその音は100回以上は弾く……だから今後何十万、何百万……プロ目指すなら音をだすのは億も行くだろうな……」
「億ですか?」
「うん、それだけ多くても弾ける音は有限なんだ。そのうち来るはずの祐樹の百万一回目の音はどんな音を奏でるんだろうな……」
まるで、その音を聞くまで居ないようなそんな風に言うヒロさんは、その一音がどれだけ重いのかを伝えたかったのだと思った。
お読みいただきありがとうございます。
その時の音を録音するってすごい事ですよね。だけど、実際にはそれですらスピーカーなんかで変わってしまうと言うのは色々と考えてしまいます。
♪♪♪
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