第三十一話
ヒロさんの過去には特別な事は感じなかった。人が増えた事にもレーベルの社長が見にきた事さえ、結果からの必然。そう感じさせる様な積み重ねが、言葉の中から感じずにはいられなかった。
そして僕は、彼の話を聞いて言葉に詰まってしまう。
「ヒロさん……今までみたいにバンドで食べていけないんですか?」
重い口を開き、僕は尋ねた。
「俺はそうは思わないよ。厳しくはなると思うけど今までだって時代に合わせる必要はあったし」
「今までも?」
「今回がわかりやすいだけで、生音からエレキ、レコードからCD、配信。変化が無かったわけじゃない」
「進化し続ける必要があるって事ですかね?」
「いつだって変化する為にはエネルギーがいるさ。そこでどれだけ考えるかが必要だと思う」
「なるほど……それからヒロさんはどうしたんですか?」
「動画や配信ベースで色々考えたりした。ライブがどうやったら出来るかとかも含めてね」
彼は、落ち込んだ様に暗い顔をすると震える様な声を出した。
「それからは、覚えていないんだ」
どのタイミングで死んだのか、またいつから幽霊になったのかをか彼は知らなかった。
「そうなんですね……」
僕は相槌を打つように返すと、不安気に見つめる。
「これで信じて貰えないなら、俺は仕方ないと思う。正直俺だってわからないんだよね」
「あの……メンバーには……」
そこまで言うとヒロさんは首を振る。
「会うのが怖いんだ」
僕は、その言葉で色々と気づいた。多分彼はいや、彼らは想像出来ない位の物を犠牲にして来ている。ヒロさんを信じて沢山の時間を、いや学校だって辞めたり休学したりしたのかも知れない。
そんな中、死因も分からず会いにいくのはとても勇気のいる事なのだと思った。
「いきましょう! 会いに!」
「へっ? だけど俺は……」
「多分僕はその為にヒロさんと話す事が出来るのだと思います」
「祐樹……」
「ヒロさんと会ってから短い期間かも知れないですけど、これだけは分かります」
僕はヒロさんの目をジッと見つめ、優しく問いかけるように声に出した。
「あなたは立ち止まっている様な人じゃ無い」
彼は驚いた様に目を見開き、そしてゆっくりと笑った。
「……そうだな……だけど、祐樹のライブが終わってからにしよう。気になって逝けねぇよ」
薄々と僕は気付いていた。多分、メンバーに会って話したら彼とはもう二度と会えないのだろう。彼が……ヒロさんがこの世界に残っている理由はメンバーへの気持ちからなのだと分かった。
「そうっすね。今は……」
僕自身、早く会わせてあげたい気持ちと、ヒロさんと一緒にいられなくなるのが嫌な気持ちで、それ以上強く言う事は出来なかった。
その日の晩。なんとなく後ろめたい気持ちのせいか、彼が消えてから美波ちゃんにメールを返しながら、ヒロさんの事をネットで調べた。
一部では人気があったものの活動期間が短いせいか、SNSでは憶測が立っているものの人気バンドのギターボーカルが死亡したとだけ書いたニュースが幾つか出てきただけで、詳しい理由はわからなかった。
「ごめん、連絡遅くなって」
「こっちこそごめんね」
「あの後、彼と話したんだ……」
彼女は気にしていたのだろう。メールの内容からその事が感じ取れる。僕は、ヒロさんと話した事を美波ちゃんに伝えた。
「それじゃ、ハンパテとも関係あるバンドの……本物だったんだ……」
「出会った時期も数ヶ月後だし、間違いないと思う」
「そっか……」
少し暗い雰囲気の中、僕は彼女にライブが終わったら一緒に会いに行かないかと聞いた。
「大丈夫なの?」
「わからない……けど、行ってみるしかないかな」
「それ、ライブ終わったら狭山や奏にもはなそ?」
「うん。僕もそのつもりだよ」
落ち着いたら話そう。そう約束した。
必死になっているバンドの事を考えて二人の意見は一致した。
♦︎
次の日の昼休み。いつも通りメンバーが集まって昼ごはんを机に置いた。すると、狭山が気合の入った口調で切り出した。
「俺、色々考えたんだけど聞いてくれないか?」
勢いのいい彼に、僕たちは頷いた。
「こないだ祐樹とは話したんだけどさ、配信するステージ見てきたんだよ」
「狭山、見に行ったのか?」
「ああ、まず何が出来るか知りたかったからな」
「それで……?」
狭山は深く息を吸うと、
「再来月、三曲で出よう!」
そう言った狭山には何か考えがあるのだろうと思い聞いた。
「三曲……時間は25分あるんだよ?」
「ああ。それは分かっている。正直、今のペースでこれ以上するには完成させる事は出来ないと思う」
「それは……」
狭山の言っている事は分かる。一曲出来ているとはいえ、まだアレンジが詰めきれていない。
「だから、音楽以外でも魅せてやろうと思ってな!」
「音楽以外って……そんな事ができるのか?」
「まぁ、見てなって……」
狭山はそう言うとスマートフォンを取り出す。開いたのは意外にも太田の作ったゲームの画面。
「これ、太田のゲームだよねぇ?」
「ああ。これが鍵を握る」
「どう言う事だよ?」
狭山はニヤリと笑い、スマートフォンの画面を切り替えると鉛筆で書いた様な四人の高校生の絵を見せた。
「俺たちはゲームの中から出るんだよ」
彼がそう言ったと同時に、僕の腕に鳥肌が立つのが分かった。
お読みいただきありがとうございます。
ヒロさんのレールから外れていきます!
♪♪♪
これから読み進めて面白いと思っていただけましたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】評価ボタンでお気軽に応援していただければ幸いです!
また、ブックマーク登録や感想もとても励みになります。




