第三十話
どうして俺たちのライブなんかに……。
その時、妥協はしていない自信はあった。いつも通り練習して来た事をゆび折り数える。
「ヒロタカさん、緊張してます?」
「しない方がおかしいっすよね……」
「なんでかな。俺全然緊張してないんですよね。やっと来たかって感じで」
「雅人……」
「大丈夫ですよ。俺たちは本気でやってきました、誰が来てたってそれを出すだけですよ」
俺はその言葉を聞いて、肩の荷が降りた気がした。自分一人で来たわけじゃないのは理解していたが、同じ気持ちで居るメンバーが心強く感じた。
「よしっ! それじゃ一発かましちゃうっすよ!」
ステージに向かう俺たちは、全力だった。いや、普段以上にステージからはみんなの顔が良く見えた気がして今までで一番のライブになったと思う。
あり得ないくらいの汗をかき、ライブの後着替えているとスタッフが一段落着いてから事務所に来る様に伝言にくる。
俺たちのライブは彼にどう映ったのだろうか。その事が頭から離れず、物販や告知を行いお客さんが居なくなってから事務所に顔を出す。すると店長と談笑する源さんの姿があった。
「本当申し訳ないらね。目立たないように普段着で来たんらけど……」
ライブも何度か見に行った事がある。曲も何度も聞いたし有名な曲は殆ど弾ける。
だが、彼はステージで見るより小柄でなんとも言えない自然体のオーラを放っていた。
「これ差し入れらけど、打ち上げかね?」
そう言って出したビニール袋の中身は出演者とスタッフ全員分より多いハンバーガーとコーラ。お礼を噛みながら言った事で自分が緊張しているのだと気づく。
何故か源さんが自分より緊張している様子で、緊張感が収まっていく。
「今日はなぜ……来られたのですか?」
「えっ……ダメらった?」
「構わないっすけど……」
それから源さんは、頭を掻くと少し恥ずかしそうに言った。
「あのさぁ……スターリンの音楽マジでいいと思うんらけど?」
いきなりの直球。だけどその飾り気の無い言葉が色々な理屈を言われるより嬉しかった。それまでの何処かで自分を卑下するような感情や、一生かかっても勝てないと思っていた才能への嫉妬。自然と涙があふれて叫んだ。
「ざまあみろ! ……すよ」
言った瞬間我に返る。源さんはきょとんとした表情で俺をみて笑った。
「いいね、そのパンクな感じ! なんかロックって言うかパンクらね!」
「あ、いや。もうわけないっす……」
「ヒロタカはさぁ。色々大変だったんらねー。まぁ、バンドマンなんてずっと茨の道らよ」
年季の違いすぎる言葉が重い。その不器用な天才が、時代を作る為にして来た苦労は俺には想像すら出来なかった。
「良かったら、うちのレーベルから出してみないらね?」
「チーズアンドクラッカーですか?」
「みんな好き放題口出しする奴等らから、出すのは大変かも知れないらけど」
こうして、俺たちは初めてレコード会社からCDを出す事になる。直ぐにレコーディングだと思っていたらアレンジの段階からそうそうたるメンバーに見られ、俺だけじゃなく雅人までトイレに篭る程悩まされた。
ただ、そうしてCDが出来る頃には今までに無いくらい音楽が楽しいと感じた。
「ヒロタカ、曲をいじられるって言うのは中々しんどい事だとおもうらね」
「でも、皆さん本気でぶつかってきて……まぁそのまま死んじゃうんですけど……」
「ははっ。でも生き返ってきたら?」
「アンデットになるしか無いっすよ」
CDが発売され、配信も始まった時源さんは言った。
「楽しい。らけど、俺たちはもう過去のコンテンツにしがみついているだけなんら」
「それはなんなんすか?」
「俺が音楽を始めた頃は、ギターヒーローがすべてらった。やれ、カッコいいバンドがいるらの、いい曲があるらのって個性探して走り回っていたんら」
「バンドの全盛期っすからね」
「らけど、今やエンタメは音楽らけじゃ感動できる奴もいなくなってきてら」
「そんな事は!」
「あるんらよ。音楽好きな奴等が集まって騒いで……らから隠れて……」
俺はその言葉に衝撃を受けた。
確かに昔に比べて、音楽は身近な物になった。それと引き換えに一つの曲への重さは俺の時代の時点でも随分と変化している。
「次のパンクを作るのはお前らら? 引き継ぐも良し、離れるもよし。時代やニーズは変わる、自分の生き方は自分で決めなきゃ行けないんら」
それは、音楽を信じていた俺にはとてつもなく重い話だった。このまま続けるのか前に進む為に動くのか……ただ、動くとしてもどうすればいいのか。
そんな中、ライバルだと思っていたハンパテは大きなイベントの後、活動休止になった。理由は、天才と言われたギターボーカルまひるのパニック障害。
無敵だと思っていた彼女はあっさりと周囲の期待に潰れた。何故なのかと考えても到底理解する事は出来ないだろう。
俺は正直、その事実を受け止められ無い中、チャンスが訪れた。本来ハンパテが進む筈だったレーベルを事務所としたメジャーデビューの施策を代わりに俺たちがすると言う物。
勿論、ぼた餅の様な話に抵抗が無かったわけじゃ無い。だけど、俺はメンバーを巻き込んでいる以上チャンスを捨てる程余裕はない。
ミュージシャンは弱くては生きては行けない。
俺たちはそれをチャンスと捉え新しい一歩を歩き出さざる得なかった。
だが、そのレールも長くは続かなかった。
別にメジャーの洗礼に負けた訳じゃない。俺たちライブを活動の軸にしていたアーティストは、日本を、いや世界的に襲ったパンデミックによって選別される事になった……。
お読みいただきありがとうございます。
この作品で一番詰め込みたかった部分です。
♪♪♪
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