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第三話

 幽霊のヒロさんに会って、二日が過ぎた。

 僕は、あの日見た『RISE UP』の演奏が忘れられず、YouTubeで動画を何度も見ていた。


 数はすくないがしっかりと作られたPV、再生数は1万にも満たなかった。


「何でこのバンドが売れてないのだろう……」


 自分が好きになったバンドが売れていない事にもどかしさを感じる。それと同時に今まで聞いて来た好きな音楽は、売れていたから好きだったのかとさえ思うようになる。


 ふと、考えているとヒロさんの事が気になる。


 バンド ヒロ 死亡……。


 僕はなんとなく検索を叩く。だけどヒロというアーティストは思ったより沢山居て彼を見つける事が出来なかった。


「平凡だからなれたんだ」


 才能や得意な事の無い僕には、彼が言ったその言葉が大きく突き刺さって、もう一度会う事が、言い訳ばかりしていた自分と向き合う様な怖さを感じた。


 音楽……か……。


 そんなのは小さい頃からやっていたり、同級生や先輩に影響を与える様な人だから出来るんだ。だから僕には……。


 ちょっとまてよ。幽霊とは言え、プロのミュージシャンと話せる人なんているのか?


 いや、もしかしたら幽霊の分知り合いに居る人より教えて貰えたりするかもしれない。もしかしたら僕はとんでもないチャンスを捨てようとしているんじゃないだろうか。


 そう思い、ネットでギターの店を探す。

 学校の近くにある楽器屋さんのホームページをみると、ギターの値段が書いてあった。


オススメ 38万……高すぎる。だけど、安い物だと2枚位の物もあるのか……。僕は自分の通帳を見た。


 12万……一カ月分のバイト代をほとんど使っていないとはいえ高校一年生にしてはまだある方だと思う。月末には次の給料も入り15万位は使えるだろう。そう考えるとヒロさんに一度聞いてみようと思った。



 翌日、学校が終わり、お金を下ろすと彼に会った公園に向かう。まだ成仏していないかとか、もういないんじゃ無いかとか少し心配だった。


 公園に着いたものの誰かが居る様子は無く、僕は周りを見渡した。


 どこかに行ってしまったのだろうか……心配になり小声で呟いた。


「ヒロさん……いますか?」


 まるで心霊スポットだ。まぁ、霊に会うという事には間違いはないのだけど……。


 すると、背後から声が響く。僕はその声を待っていた。


「祐樹じゃん?」

「ヒロさん!」

「なんだよ、久しぶりじゃないか? 俺は毎日でも来てくれると思ってたんだけどな……」

「すみません、バイトとかあって」


 そう言うと彼は別に怒っている様子は無く、ニッコリと笑って見せると、公園のベンチに腰を掛けた。


「それで、今日はなんの話する?」

「もしかしてヒロさん寂しかったんですか?」

「いやいや違うし……と言いたい所なんだけど、誰とも話せないって結構辛くてさ、悪霊になりそうだよ……」

「粗塩とかお札買っといた方がいいですかね……」


 そう言うとヒロさんはツボに入ったのか爆笑している。


「あはは、もし悪霊になったら除霊頼むわ。祐樹は俺が見える訳だし、そっちの才能あるかもな!」


 確かに、幽霊がみえる才能はあるのかもしれない。だけどヒロさん以外は今のところ見たことは無かった。


「今日はヒロさんに相談、と言うかお願いが有るんです」

「なんだよ畏っちゃって、気軽に言ってくれていいっすよ!」


 ニッコリと笑いかけてくれるヒロさんに僕は安心感の様な物を感じ、勇気をだした。


「ギターを教えて下さい!」

「ギター? あれ、俺ギターボーカルだったの言ったっけかな?」


 確かに聞いた覚えは無い。だけど、ヒロさんの雰囲気的に僕は全くその事を疑ってはいなかった。


「それで、どうしてギターがしたいと思ったの?」

「それは……」

「RISE UPを見たから?」

「そうですね……あの時の音が忘れられなくって、今でも頭の中に流れているんです……」


 ヒロさんは、何故か空を見上げだ。


「それならRISE UPのギターに教えて貰った方がいいんじゃないかな?」

「え……それは……そうですけど」


 意外だった。ヒロさんはきっと二つ返事でOKをしてくれると思っていた。意地悪な気もするが、彼の言う通りRISE UPのギターが好きならその方がいい。


 僕は、自分のなかで何故ヒロさんに頼んだのかを考える。可能性があるから? プロだと知っているから? 多分違う……RISE UPを超えている人だと思ったからなのだと思う。


「でも……ヒロさんはもっと上手いんですよね?」

「それはどうかな?」

「もっと、沢山の音楽を知ってるんですよね?」

「本当に、俺がいいの?」

「……はい」


 すると、立ち上がり僕の方に振り向く。


「わかった、まだ言いたい事はあるけど、祐樹の熱意は伝わったよ」

「それじゃ……」


 腰を曲げ、僕の目を見る。真っ直ぐな目に視線を逸らす事ができない。


「祐樹は、ギターが上手くなりたい?」

「はい……」

「これから、音楽をしていきたいって事でいいのかな?」

「はい、やりたいです」

「別にプロは目指す必要は無いけど、俺は楽しいって思える所までは祐樹を連れていきたいと思っている。それでもいいかな?」

「はいっ!」


 その言葉に嬉しくなって、勢いよく返事をするとまるでその勢いに応える様に彼は言った。


「それなら俺がプロデュースするっすよ!」


「プロデュース……?」

「そう、今の時代様々なコンテンツが生まれて気軽にハイクオリティの動画も見れるから、本当に音楽は必要とされているのかわからない。だけど、俺はそれでも音楽の楽しさを知って欲しいと思うんだ」


「意味がよくわからないんですけど……」

「そのためには……まぁ、俺にも目的があるって事で! 別に成功へのレールを引く訳じゃ無い、色々相談しながら一緒にやってみようぜ?」


 目的がある。

 ヒロさんははっきりと、そう言った。


 本当にそうなのかも知れないけれども、僕には無理矢理付き合ってもらっている訳じゃ無いと思えたことがなによりも大きく感じた。


 それから僕は、ヒロさんにギターを買いに行きたいと伝えると、やる気満々の彼とお店に向かう事になった。

お読みいただきありがとうございます。


俺音から一年、色々と書きたいテーマが出来たので、マイペースに書いていきたいと思っています。


これから読み進めて面白いと思っていただけましたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】評価ボタンでお気軽に応援していただければ幸いです!


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