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第二十六話

 家に帰るとインターネットで、BOOM HALLのサイトを開く。ライブ配信と、過去に配信されているアーカイブ動画があった。


「これがヒロさんの言っていたサイト?」

「そう、このハコはキャパ200人位。キャパって言うのはどのくらい入るのかって事な」

「でも、ほとんど人が居る様子ないですね……」


 LIVEの配信はまだ始まっておらず、告知画面が流れている。アーカイブ動画は広告が入り見れる様になっていた。


「ここは、帰り道に言ったように配信をメインにしているライブハウス。仕組みとしては、見れるために会員登録が有料で出来る」

「有料なんですか?」

「チケットを買えば、その日のライブは全部見れるのだけど、アーカイブは広告も入りアーティストの最初の1曲だけが無料で見れる様になっている」

「なるほど……それで配信がメイン」


 ライブハウスが淘汰されていく中で生き残る為の術なのか……。


「でも、ヒロさんが経験ないって意外ですよね」

「この一年で世界は変わってしまったからなぁ。バンドもメディアもそれに合わせて変わっていく。憧れた形ではやって行けないのだろう」


 悲しい顔をしてそう言うヒロさんに、今まで気にしなかった。いや、正確には気になっていても触れない様にしていた事がある。


「ヒロさんは、何があって死んだんですか?」


 関係が出来ているから聞ける事。ヒロさんは困った様に笑うと、


「前後の事はあまりよく覚えていないんだ」


 そう、言うとすぐに話を変えた。


「とりあえず、一曲見てみた感じだと定点のカメラを場面に合わせて切り替えている感じだな」

「確かに、PVみたいに切り替わりますね」

「編集でそうしているのか、リアルタイムで切り替えているのか……そこは、LIVE配信を見てみない事にはなんとも言えないな……」

「でも、アーカイブって事はリアルタイムのをそのまま上げてそうですよね?」


 基本的にアーカイブとは、一度流したものを残しているという物。僕はその事に気づいた。


「そうなんだけど、動画データがあるのに編集しないのか? それより切り替わりがリアルタイムにしては綺麗すぎるんだよな……」

「なるほど……」


「だけど、切り替わりがわかるならある意味対策も練れるかも知れない。まぁ、やってみない事には付け焼き刃には変わりないのだけど」


 ヒロさんはそう言うと、何かを考えている。


「SINTの売り、使えそうだな!」

「売り? 何か使えそうです?」

「いるだろ? ルックスのいい奴」

「ああ、美波ちゃんですか?」

「いや、気持ちはわかるが狭山の方だよ。ボーカルでイケメンなんて売り出せって言ってる様な物だろ?」


 確かに。あくまで僕らは男性ボーカルのバンドだ。狭山のルックスなら見たいと思われるのも理解出来る。


「まぁ、美波ちゃんもアリだけどな。でも、メインは狭山だ」


 ヒロさんは言った。動画になると言う事は、記憶ではなく、事実として残る。


 だから、空気感や雰囲気よりも見た目や音の綺麗さに拘る必要がある。


「どうカメラに映るのか、それぞれの服装や髪型も映像寄りに仕上げだ方がいい」

「どう見えるか……」

「そうだな。派手にすればいいって物でもない、一番印象を付けたい格好をする」


 そう言われ、ヒロさんを見る。


「もしかして、銀髪だったり黄色いパーカーを着ているのって……」

「そう。目を弾くし、キャラクターとしてもいいだろ?」


 そう言って自慢げに見せる。


「ちなみにこれは3着ある。ギターがレスポールカスタムの黒とストラトの赤だから、持った時にも映えるんだよ」

「それ、めちゃくちゃ高いんじゃ……」

「一張羅とは言ったけど、一着とは言ってないだろ? まぁ、元々普通の黄色いパーカーだったんだけど、写真とかにも映るし収入が有るなら経費で落とせるからな!」


 なんとも便利なシステムだけど、彼の格好にそんな秘密があった事に驚いた。


「ちゃんと、コンセプトがあるなら、なんでもいいんだぜ?」


 そう言われて僕は美波ちゃんと見た白いパーカーが頭を過ぎった。


「ちょっと、狭山達と相談してみます……」


 映像を考える。カメラを意識すると言った目線は、PVなどで得たノウハウなのかも知れない。だけど、常に考え適応していかないと行けなない、新しい事を考えていかないと生き残れないと言う言葉が重く感じた。


 ヒロさん自身、過去の経験は有るにしても新しい事を考えて行くためには、挑戦して行くしかない。それなら僕にも出来る事は有るのだと思う。一つだけでも何か見つける事は出来ないだろうか。


 僕はその何かを、メンバーに相談してみようと思った。



♦︎


♦︎



「西村? あれ、今日は早いんだな」

「狭山こそ、いつもこんな時間に?」


 普段より30分以上早く学校に着いた僕は、狭山が居た事に驚いた。


「まあな……」


 そう言って、狭山はノートを閉じる。何かを書いて居たのだろうか?


「狭山今のノートって……」

「見えた?」

「よく見えなかったけど……」


 狭山はおもむろにノートを隠す。


「何書いてたの?」

「別にいいだろ、気にすんなって!」


 気にするなと言われたら、誰でも気にしてしまう物だと思う。僕はジッと片付けたノートの先を見ていると狭山は言った。


「なんだよ……」

「いや。別に……」

「わかったよ、そんなジロジロみんなよ!」


 そう言って、開いたノートには新曲の歌詞。狭山は朝きて歌詞を覚えていたのか。だけど、ノートが新しく無い事に気づく。


「わかったって! バンドのノートだよ」


 そう言って開いたノートには、誘う予定だった人や、パフォーマンスなどに役に立ちそうな内容などびっしりと書かれていた。


「狭山……意外とマメなんだな……」


 少し照れ臭そうにしている狭山。だけど僕は、なんでもそつなくこなす狭山が、天才では無く努力家だった事に衝撃を受けた。

お読みいただきありがとうございます。


見えない努力ほど、勘違いを生みやすい。人は努力していないと思いがちなのだと思う。



♪♪♪


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