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第二十五話

「俺の出番」


 そう言っていた筈のヒロさんは、メンバーに曲を聞かせる様に言った。僕は出来た曲をスマートフォンに入れ、歌詞と合わせてグループLINEに送った。


「送ったんですけど、本当にこれでよかったんですか?」

「まぁ、とりあえずはみんなの反応を見る所からだな!」

「でも……」


 彼は一体どうするつもりなのだろう。このままみんながアレンジしたら終わりだと思っていた僕には疑問が残る。


 しばらくして、狭山から返信がくる。


「新曲いい感じだな!」


 その言葉に、僕はホッと肩を撫で下ろした。それに合わせる様に後の二人も、「アレンジしてみるね」とメールが来た。


「ヒロさん、とりあえずアレンジしてみるって来ましたけど……いいんですか?」

「ああ、まずアレンジを聞いてみないとな!」


 こうして僕らはスタジオまでの間、学校では口頭で、家では僕は次の曲作りとアレンジをしっかりと弾ける様に練習した。


 そして、スタジオの日。

 みんながアレンジを考え完成させたのは、既に知っている。後は合わせて見るだけだ。


 前回同様、スタジオに入りセッティングを行う。二回目だからなのか、高田さん以外も少しなれてきた様にスムーズに準備した。


「まず肩鳴らしにムーンリバーやるか!」


 狭山の呼びかけに、高田さんがカウントを入れムーンリバーが始まる。


 みんな練習してきているのか、纏まりがいい。そんな中一番変わっていたのは高田さんのドラムだった。


 前回はイメージ通り。綺麗に丁寧に叩いていた印象。だけど今回は、場面毎に叩き方が少しづつ違う……。


「なるほど……やっぱりドラムの子は上手いな」


 ヒロさんは腕を組み、ジッと僕らの演奏を見ている。


 そして曲が終わると、新曲をする事になる……すると高田さんが言った。


「あの……この曲、ドラムかなり攻めたので、合わせたり意見もらえると嬉しいです」


 僕らは頷き、曲を始める。

 だが、思ったより普通?


 Aメロが始まった瞬間、ドラムが変化する。音量、いや叩く所で調整しているのか?


 Bメロの直前、フィルインと呼ばれるつなぎの後、イメージしていた雰囲気とは違う複雑なドラム展開になった。


「ちょ、ストーップ!」


 狭山が慌ててストップをかける。僕はヒロさんの方に目をやると腕を組んだまま目を瞑っている。


「奏ちゃんのドラムと、ギターとベースが合ってない!」


 狭山の言う通りだ。そして、僕自身弾きづらいと感じている。


「でも、どうすれば……」

「いや、奏ちゃんのドラムかなりカッコいいんだよな……出来れば、ベースギターを合わせて欲しいんだけど出来る?」

「それじゃあ、Bメロだけ叩きましょうかぁ?」


 何度かBメロを練習するも中々合わない。


「これは、俺の出番かな?」


 そう言うとヒロさんが僕に囁いた。


「あの……高田さん」

「はい!」

「二回目のバスドラの位置を変えられる?」

「手前にですか?」

「いや、後の方に……」

「その方がいいのですけどぉ……余計に難しくなっちゃいませんかぁ?」


 難しくなる?

 ヒロさんは何を指示したんだ?


「一度、叩いてみますねぇ?」


 そう言って叩くドラムは、さらに複雑になった様に聞こえる。だけど、不思議と少し間をとるだけで弾ける気がした。


「そう、その間ををミュートするんだ」


 僕はそのまま合わせてミュートして見ると、リズムに変化というかアクセントがぴったりハマった様になる。


「あれ? 出来ますねぇ……」

「こっちの方が意外と簡単に弾けたかな?」


 美波ちゃんも僕のギターに合わせてすぐにミュートする事が出来た。


「この間、ぴったり合わないと失敗した感じがするから合わせる練習はしっかりしようか!」


 ヒロさんのアドバイスに、僕らはそこを何度か、練習をした。そして、一通り合わせてみたのだけど狭山が思っていたより迫力がない。


「狭山?」

「ああ、わかってる。そうだな、ライブ感出してやってみるわ」


 スタートから煽り全開。だが観客のいない空間でのパフォーマンスは流石の狭山でもキツそうに感じる。


「人が入ればやりやすいんだけどな!」

「いや、充分雰囲気出てたよ!」


 ふたたびヒロさんは声を掛ける。

「ちょっと今からいう感じで調整してみて?」


 言われるがまま、僕はアンプを触る。美波ちゃんにも変えていいか確認し、ベースのアンプも指示通りに変更した。


「これで歌いやすくなるかも? 後は狭山の感覚で微調整して行けばいいかな?」


 変更した後、合わせてみると狭山の声が聞こえやすくなり、彼も歌いやすいのかテンションを上げて行った。


「始めとしてはこんな感じで、後はドラムのフィルインの際のフレーズや、細かいアクセントにしっかり合わせたアレンジを考えて、全体的な流れを作ろう」


 その後も小さなアドバイスをして修正していく。最後に、スマートフォンで録音して終了した。


「なんかこういうのいいよな!」

「こういうのって?」

「細かく修正して曲がどんどん出来上がっていくかんじ?」


「うん……」


 ヒロさんには何かイメージが見えているのだろうか? アレンジというより、職人の様な指示は確実にこの曲のクオリティを上げた。


 メンバーは自信に溢れた様子で解散。

 いつもどおりヒロさんと二人で帰っていると、ヒロさんの顔が曇っているのが分かる。


「ちょっと、どうしたんですか?」

「いや……」

「もしかして、思い出しちゃいました?」

「まぁ、それもあるけど。違うんだ……」


 普段ほとんど見せる事がない弱気なヒロさんに、僕は少し心配になった。


「今週……BOOM HALLを観に行ってきたんだ」

「出る予定の所ですよね」

「BOOM HALLにはほとんど人が居ないんだ」


 その言葉を僕は理解出来なかった。


「人が居ないって……それ、呼んでないだけなんじゃないんですか?」

「まぁ、それもあるけど。去年の疫病でライブハウスが沢山潰れたのは知ってるよな?」

「以前、初めて行った時になんとなく……」


 ヒロさんは立ち止まり、頭を下げた。


「ちょっと、ヒロさんどうしたんですか?」

「BOOM HALLは配信を中心としたスタイルでやっている新しいライブハウスなんだ」

「だからって、ヒロさんが謝る必要は……」

「俺は、そのスタイルでのノウハウを持っていない……だから俺自身模索するしか無いんだ」


 ヒロさんが活動していたのは生前。その頃には配信型のライブハウスは無かったのだろう。


「あれだけ自信満々に言ったけど、正直自分のバンドだったとしても試して見ない事にはわからない」

「それじゃ……」

「ああ。今回は配信を意識して勢いより音のクオリティを考えてみた。だけど、それが正解かはわからないんだ。だから、BOOM HALLの配信をネットで見させて欲しい」

「いいですけど……」


 僕は、ヒロさんの動揺に戸惑いが隠せなかった。

お読みいただきありがとうございます。


2021年に生き残るライブハウスのあり方を考えてみて作りました。

♪♪♪


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