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第二十三話

「彼の技術って……ゲームを作る技術?」

「まぁ、そうなんだけどぉ……」


 高田さんがそう言うと太田が反応した。


「高田氏はおれに何をさせようとしてるんだょお」

「こないだの機械で、奏達の音を録ってよぉ?」

「いやいや、バンドなんか録った事ないから音源には出来ないよぉ〜」


 こないだの機械?

 僕はその事が気になった。


「練習用でもいいから奏達は客観的に聴ける必要があるとおもうんだぁ」

「まぁ……それくらいなら……」


 練習用の音源を作れるのは大きい。だが太田は、代わりに条件を出した。


「そのかわりに、おれのゲームに声を入れて欲しいんだけど? それならいいよぉ?」

「ええーっ!」


 そう言うと太田は、高田さんを見た後に美波ちゃんも見る。


「ちょっと待って。ゲームってエロゲじゃない?」

「そりゃそうだよ……お互いウィンウィンだろぉ」



 と言う事は、美波ちゃんの声でエロゲを……。

 邪な気持ちを出してはダメだ。


 だけど、客観的に曲を聴く為には、録って貰えるのはありがたい……。



「美波や奏ちゃんがいいならいんじゃないか?」


 狭山も別に止めようとはしなかった。それから太田はマイペースに「ま、おれの条件はそれだけだからぁ」と言ってすぐに席に戻って行った。


 高田さんは条件を出されるとは思っていなかった様で、一旦、太田への返答は曲を作ってからにしようと保留にした。



 そして、僕たちの曲作りがスタートする事になった。



 計画は狭山の案と同時進行で行う。

 一カ月は曲作りに専念して、もう一カ月でライブを作る。ヒロさん曰く最初は曲が出来ればいいと考えてしまう事が多いらしい。


 だけど、大切なのは来てくれた人を如何に楽しませる事が出来るか、もう一度見たいとか言ってもいいと思わせるかなのだと。


 さらに究極的な所だと、誰かに紹介したいとまで思わせる事が出来れば完璧との事だ。その為には曲が演奏出来ると言うのは最低ラインだ。



 まず最初に狭山……。

 ヒロさん曰く、ボーカルとしての素質は充分。ルックスを置いたとしても、緊張を見せず自信があるように演じる事が出来る。さらには人を巻き込む力、これがステージで発揮出来れば最強との事。


 それは歌唱力よりもボーカルには必要な事らしい。


「狭山は、聴かせるより巻き込む方が向いていると思うんだよね」

「巻き込む? 手を上げろ! とか、タオルを回せ! みたいな奴か?」

「そんな感じ……だから観客にアプローチしやすい曲を多くしたい」


 狭山は腕を組み下を向く。


「なかなか難しそうだな……」

「狭山はどんな時、話しかけたり、誘ったりしやすい?」

「何かきっかけがあれば、あんまり抵抗は無いけどな……」

「それだよ!」

「なんだよ?」

「きっかけ、それを入れた曲にしよう!」

「よくわかんねぇけど。そんな曲があればやりやすいな!」


 とりあえず、きっかけを作るという事で、狭山の活かし方がイメージ出来た。


 次には、高田さん。

 少し苦手意識はあるものの彼女がバンドの要である事は間違いない。ヒロさんも彼女だけは技術で引けを取らないと太鼓判を押してくれた。


「あの……」

「んんぅ? 曲の事かなぁ」


 まったりとした口調に、調子を乱される。


「奏は練習方法はなんとなく分かっているよぉ?」

「それは分かる……アレンジは置いといて、楽しませるにはどうしたらいいと思う?」


「奏的には、自分が楽しめるくらい叩けないとダメかなぁ。だから曲が早く貰えると助かるけど?」

「なるほど……頑張ります……」

「後は、色々出来た方がいいよねぇ」

「色々とは?」

「ギター見てて思ったんだけど、西村くんは無難な感じに聞こえた。それ、弾けるの? みたいな緊張感が無くて……だから、そのスタイル続けるなら複雑なリズム挑戦しようかなって」


 正直、経験値が違いすぎる。何も考えていない様でムーンリバーだけで、それだけ先の事をイメージしていた事に驚いた。


 だけど、これが唯一奴等に匹敵するレベルというのが重くのしかかって来た。


「無難か……結構攻めたつもりだったんだけどね」

「西村くんは、性格的にもいざという時に魅せる人だとおもうよぉ?」

「ありがと。あと……」

「ん?」

「いや、なんでもない」

「うん。一緒にがんばろ?」

「うん……」


 誤解かもしれない太田との事や、最初に話しかけて来た内容を一瞬聞こうかと思ったのだけど、僕は誤解だったのだと思う様にした。



 ……そして、美波ちゃん。

「美波ちゃん……」

「わかってる。あたしが一番問題だよねー?」


 無理もない。天性の狭山はさておき、メンバーの中では一番経験も浅い。さらには教えているのが僕という、環境にも恵まれていない。


「祐樹は、出来ると思う?」

「どちらかって言うと、やるしか無い……かな」

「だよねー」


 今までに無い難易度。理由は簡単、後の二人はどちらかと言えば僕次第。矢印を自分に向ける事で、前に進む事が出来る。だけど、美波ちゃんには僕が頑張るが通じない。


「あのさ、美波ちゃんも狭山とよくカラオケとか行ってたよね?」

「何ー? ストーカー?」

「いや……はい」

「認めるんだ?」


 すると、美波ちゃんは少し笑った。僕は目線を逸らし頭を掻いて誤魔化した。


「いや……美波ちゃんKANAに憧れているから歌ってみないかなって……」

「あたしが? 無理無理、ベースだけでも手一杯だし……」

「そうだよね……」


 無理もない。ただでさえ彼女は足を引っ張っていると思っている所に、追い討ちをかける様な事は言うべき事じゃない。コーラスやサブボーカルとして声を掛けてみるのはヒロさんの提案だったが、正直彼自身受ける可能性は低くもし受けたとしても潰れる可能性も有ると言っていた。


「祐樹はあたしが出来ると思う?」

「まぁ……僕は出来る出来ないよりも、見てみたいかな?」

「KANAみたいに出来るかな……」

「出来ると、思うよ? 根拠は無いけど」

「なにそれ。でもその方がいいと思ったならやってみようかな……」


 メンバーみんなの意見を聞いた僕は、忘れないようにスマートフォンにメモを残す。この時僕はまだ、曲を完成させる難しさを理解していなかった。

お読みいただきありがとうございます。


勝つ為に動き始めた祐樹。みんなの強みをまとめた彼にヒロさんは何を言うのだろうか。


♪♪♪


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