第二十二話
スタジオの後、僕らはあまり言葉を交わさなかった。彼等の音はそれくらい完成されていた。
帰り道、ヒロさんも空気を読んでいるのか黙ったまま付いてくる。そんな中、LINEに通知が来る。
『別に無理に出る必要は無いとおもうよ。ごめんね』
美波ちゃんから来る短い文章が辛い。僕はそっとスマートフォンをポケットに入れ、何も言わないヒロさんに聞いた。
「あいつらってどうだったんですか?」
ヒロさんは少し遠くを見ながら言った。
「正直俺は大した事無いと思う。所詮は高校生の音とアレンジだよ」
「それじゃ……」
「だけど、SINTは一カ月そこら頑張ったくらいじゃ技術は到底勝てない。強いて言うなら奏ちゃんなら俺がアレンジすれば差は見せられると思う」
「そうなんですか……」
「何暗い顔してんすか。俺は思うけど、音楽は技術だけじゃ無いよ。どれだけ伝えられるか、どれだけ楽しませられるか。大事なのはそこだろ?」
そうは言ってもここまでハッキリと言われた事が辛い。結局はあいつらがパフォーマンスも上手ければ僕たちはただの恥さらしでしか無い。
「狭山くんの天性の魅力とメンタルの強さ、美波ちゃんの可愛さ、奏ちゃんの技術。SINTが勝てる要素は俺は有ると思うけど?」
確かに……。
「あの……それで言うと僕は?」
「祐樹には、俺がいるじゃん?」
「それだけですか?」
「何言ってんだよ。俺プロだよ? 自分のバンドだったら眼中にないどころじゃ無いからね!」
「いやいやいやいや、答えになってないですよ!」
ヒロさんは僕の前に立つと、嬉しそうに笑って言った。
「勝てる人に勝てる方法を教えて貰える。それ以上に凄い事はないだろ? 後は祐樹次第だからな!」
彼の言葉で、僕は気づいた。
どうして、狭山達と同じだと思っていたのだろう。この数ヶ月、ちょっと人より練習したくらいでいい気になっていた。
バンドが組めたのも、美波ちゃんと仲良くなれたのもギターが少し弾ける様になったのもヒロさんがいたからじゃないか。
僕はまだ、自分では何もしていない。
ヒロさんに言われた事をやっただけでここまで世界は変わったんだ。
「そうですね。僕は凡人だ……」
「祐樹……」
「だから、出来る事やっていくしかないって事ですよね」
「ああ、俺も全力でやる」
「曲、作ります!」
♦︎
♦︎
休みが開けた月曜日。
僕は昼休みにみんなを呼んだ。
不安が見える表情の中、狭山は笑顔を作り元気そうに言った。
「西村、急にどうしたんだよ」
彼は、さんざん悩んだのかもしれない。それでも何をしていいかわからい。そんな風にもみえた。
同時に、女の子二人も不安の色が見える。
「みんな集まったね」
僕は、それぞれの顔をみて呟いた。
「僕は普通……いや、普通より大分下なのかもしれない」
「どうしたの?」
「まぁ、聞いてよ」
そう言うと美波ちゃんは頷いた。
「狭山は人気者で、華がある」
「なんだよ、急に……」
「高田さんには、練習してきた実力がある」
「あ、はい」
「美波ちゃんも、かわいいしそれに憧れに真っ直ぐに頑張ってきた」
「ちょっとやめてよ」
「だけど……僕は、数ヶ月前にギターを始めただけの凡人。争う事からも逃げてきたし、夢も特には無かった」
そう言うと、狭山が立ち上がる。
「だけどっ!」
狭山が何か言おうとしていたのを遮る様に声をあげる。
「今回は絶対負けたくたないんです。初めてそう思ったんです……」
「西村……」
「だから、こんなところでバラバラになんかなりたくない。折角、上手くいってたんだ……」
「それは、俺が……」
狭山は下を向き、唇を噛みしめた。
「曲を作ったんで、僕に力を貸して下さい!」
僕は深く頭を下げた。みんながどう思っているかはわからない。この事と避けたい人だっているかもしれない。
狭山は、そっと肩を叩く。
「あったりめぇよ! でも力を貸すわけじゃない」
「えっ?」
「すまない。あの後俺は、責任感じているかもって、お前にだけLINEを送る勇気がなかったんだ……」
「狭山? 勇気が無かったって……」
「だから、俺らは最初からそのつもりだよ。西村から連絡来て、辞めたいって言われるかと思ってヒヤヒヤしてたんだ」
という事は……。
みんな諦めたわけじゃなかった……?
「その曲、一緒にやろうぜ? 奴等に勝てる位の名曲なんだろ?」
「もちろん! だけど……」
「だけど?」
「イメージは出来ているんだけど、一人では完成させる事は出来ないんだ」
「なら、聴かせろよその構想。その為にこうしてみんなを集めたんだろ?」
僕は、狭山の言葉にそれまで抱えていた不安は無くなっていた。そして、昨日ヒロさんと詰めた初めてのオリジナル曲の事を三人に話した。
「なるほどな……そりゃ一人では出来ない訳だ」
「でも、出来るかも……」
「あのぉ……その事についてなんですけどぉ。多分力になると思う人がいるんですけどぉ……」
高田さんは、「ちょっと待ってて下さいねぇ」と言って席を立った。それから、すぐ近くに座っている男に話しかけると、僕らの集まる席に連れてきた。
「あ、太田だけど。高田氏、急になんなんですかぁ」
連れて来た男はあのエロゲの太田だった。
なんでコイツなんだよ……。
僕は内心戸惑う中、太田自身もなぜ呼ばれたのかを理解していない様子でオドオドとしている。
「彼の技術は、きっと役に立つと思うんだぁ」
そう言った高田さんは、珍しく自信に溢れた表情でニッコリと笑っていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回はあの彼の秘密にふれられます!
♪♪♪
これから読み進めて面白いと思っていただけましたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】評価ボタンでお気軽に応援していただければ幸いです!
また、ブックマーク登録や感想もとても励みになります。




