第二十一話
ヒロさんはそれぞれの課題を見つけ、僕はそれをみんなに伝えて行く。
「ちょっといいかな?」
「いいね、気づいた事はどんどん言っていこうぜ!」
狭山がマイクを置くと、みんなは僕の方を見る。見慣れたメンバーなのだけど少し緊張する。
「まず狭山だけど、軽く崩してもいいと思う。原曲に引っ張られすぎと言うか……」
「確かになぁ、原曲で練習してたからそうかもしれない」
「声が勢いあってカッコいいから、歌い捨てる様な感じでもいいのかなって」
「了解! やってみるわ」
次は……。
「高田さん……」
「え、奏?」
彼女を見ると太田と消えた日の事を思い出す。でもバンドとは関係ない。
「はっきり言って思っていたより数段上手い」
「あ、ありがとうございますぅ」
「だからもっと、合わせて行くって言うよりは引っ張る感じで叩いてみてほしい」
僕には意味がよくわからなかったけど、ヒロさんの言葉をそのまま伝えた。
「西村くん、なんかドラムの先生みたいな事いいますね!」
「理解してくれてたすかるよ」
そして、最後に美波ちゃんを見る。
「あたしの番だよねー?」
「うん。ベースはリズム隊と言われる楽器だから、ドラムのバス、スネア、ハイハットシンバルの叩き方を聞いて弾いてほしい」
「ギターじゃないの?」
ヒロさんをチラッと見ると頷く。
「僕もそれで合わすから、その方が纏まると思う。正直ギターはあまり聞こえなくない?」
「そうだねー。わかった」
それから何度か試して行くと、それぞれ何かを掴み始める。バラバラとは最初から思わなかったけど合っている感覚が何となく分かった。
「これめちゃくちゃかっけー!」
そう言って、狭山はテンションを上げ急にライブが始まるみたいに話し始めた。
「どうもー! 高校生ばんどのセイントです! 一曲目から盛り上がっていきましょう!」
すると高田さんがカウントをいれ、曲が始まった。合わせて弾いて見たもののすぐにギターをとめる。
「ちょっと、急に止めるとかどうしたんだよ!」
「いやいや、セイントって何!?」
「そりゃ、バンド名に決まっているだろう?」
「なんでまたそんな厨二な名前に……」
女の子二人もその事には引っかかっていた様子で一緒になって狭山を問い詰めた。
「なんだよ、気付かないのか?」
「なにが?」
「狭山のさ、市村のI、西村のN、高田のTでSAINTになるだろ?」
「いや、なんで狭山だけSAなんだよ! それならSINTだろ?」
狭山は口を尖らせると、
「じゃあSINTってどう言う意味なんだよ……」
そう言われ、僕はスマートフォンで検索をかける。
「オランダ語で聖人……あんまり変わらないね」
「えっ、オランダ語? なんかかっけーな。それにしようぜ?」
「うん、メンバーの名前からっていいよねー」
「奏もいいとおもいますぅ」
狭山の思いつきから、いともあっさりとバンド名が決まる事となった。それから何度か練習してその日のスタジオは終わった。
鍵を返しにいくと、高校生と思われるバンドが待っているのが見える。少しやんちゃそうな三人組は返し終えた狭山に小さく呟いたのが聞こえた。
「ちっ。おせーよ」
どこか感じの悪い、雰囲気で僕は狭山がキレるんじゃないかと心配する。だけど意外にも彼は少し唇を噛んでから僕に言った。
「あんま気にすんなよ」
それに合わせる様にヒロさんも、
「たまにいるんだよ。でも、イケイケそうなのに彼は大人っすね」
そう言って、その場は収まるはずだった。鍵を借りて出てきた三人組と目が合う。僕は直ぐに目を逸らして何事もない様に美波ちゃんに話しかけようとした。
「こいつら、女いるじゃん?」
「いるんだよな、こう言うお遊びバンド。こんなのにスタジオ取られてたのかよ」
聞こえる様に言う三人。正確にはその内の二人で一人は気まずい顔をしている。それをみて僕はジッと我慢した。
「あれじゃね? ヤリサーってやつ?」
「ちょっとカズ君言い過ぎだよ……」
その瞬間僕の中で何かが吹っ切れた。
「ちょ、西村!」
狭山とヒロさんが止めようと声をかけるも、僕の耳には届かない。
「今の、訂正して下さい」
怖いとか、殴られるとか、そんな事はどうでもよくなった。
「はぁ? 何言ってんのコイツ」
「たがらカズくん。止めよって」
「彼女らはそんなんじゃない!」
カズと呼ばれる男に近づくと、胸ぐらを掴まれた。
「お前らみたいに生半可な気持ちでやっている奴が一番ムカつくんだよ」
殴られる!
そう思った瞬間、横から手が伸びて男の腕を掴んだ。
「オーケー。ここは喧嘩する場所じゃない。だけど、好き放題言っているコイツに、正直俺もムカついている」
狭山は彼の腕を強く握る。その表情からは、怒りを抑えているのが分かった。背の高い眠れる獅子に少しひるんだのか、僕を掴む手を離し精一杯強がっているのか悪態をついた。
「チッ……」
何も言わずに去ろうとする三人を目で追う様に睨む狭山。彼らがスタジオに入る直前についに口を開いた。
「そこまで言うなら、音楽で勝負してやるよ」
「……俺らが? お前らと? ハハ、なんのメリットがあるんだよ」
「なんだよ、それだけほざいてる癖に逃げんのか?」
狭山がそう言うと、カズと呼ばれている男が言った。
「BOOMHALL。そこで、ライオット&スクリームってバンドで月一でやっている。出てくるなら店長に言って被せてやるよ」
「俺たちはSINT。すぐ出てやるから待ってろよ……」
狭山がそう言うと、鼻で笑いスタジオに入って行った。すると狭山は後ろを向いたまま言った。
「奏ちゃん。正直俺等ってムーンリバー位の曲ならどの位なんだ?」
「彼らがどの位かわからないですけどぉ。ちょっと厳しいと思いますぅ」
「そっか……」
そう言うと、狭山は上を向き小さく「負けたくねぇなぁ……」と呟いた後、笑顔でこっちを見て言った。
「わりぃ。俺、啖呵きっちまった」
「ごめん、狭山。僕が……」
「何言ってんだよ。俺がムカついて喧嘩吹っかけた。……お前らはそれの犠牲者だ」
僕は泣きそうになりながら頷いた。
「まぁ、頑張ろうぜ?」
そう言った狭山に合わせて、美波ちゃんと高田さんに頭を下げる。
「いいよ、ありがとう……」
そう言った瞬間。スタジオから音が響く。素人目に聞いても圧倒的な実力差に、僕たちの空気はさらに重くなってしまった。
お読みいただきありがとうございます。
ライバル?
登場ですか?
♪♪♪
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