第十九話
いつまでも待っている訳にはいかない。別に太田と高田さんが何をしていても僕には関係ない。美波ちゃんとの待ち合わせの方が、そんな事より大切に決まっている。
そう言い聞かせ、その場を離れた。
もやもやとした気持ちの中、一旦家に帰り服を着替える。もちろん家にはヒロさんが暇そうに待っているのが見えた。
「あれ? どこか行くの?」
「今日美波ちゃんが来る事になったんです。ムーンリバーのベースパートを覚えたいからって」
「なるほど。昨日のアレンジを早速披露できる訳だな!」
「いや、あれはまだ完成してないですよ」
すると、LINEの通知音がなる。開いてみると美波ちゃんが近くに来ているのがわかった。
「ちょっと迎えに行ってきますね!」
「わかった、気をつけてな!」
僕は自転車に乗り、待ち合わせ場所に向かうと直ぐに彼女が居るのがわかった。大きなベース、茶色い髪で彼女は制服のままの姿で待っていた。
「お待たせ!」
「えー? 自転車で来たの?」
「美波ちゃんも自転車なのだと思っていたんだけど……」
「そっか、ベースもあるから親に車で送ってもらってね」
「なるほど……」
そう言って、僕は自転車から降りて押しながら歩こうとすると彼女は小さい声で言った。
「後ろ乗せてくれないんだ?」
僕は自転車を見る、ママチャリという事も有り、もちろん荷台が付いているのが分かる。彼女の顔を見ると少し恥ずかしそうな表情を見せた。
「美波ちゃんはいいの?」
「なにが? 別にバンドメンバーと二人乗りするくらいフツーでしょ?」
そう言って彼女は後ろに乗るとバランスを取る為に僕肩に左手を乗せる。僕は足に力を込めて自転車を漕ぎはじめるも、ベースを持っているからなのか、それとも二人乗りに慣れていないからか自転車は左右に揺れて転けそうになる。
「フラフラしてるけど、大丈夫? 思ったより重かったかな……」
「そ、そ、そんな事ないよ。多分ベース背負っているからだと思う」
「確かにバランスとりづらいかも?」
スピードが乗ると安定してくる。気持ちに余裕が出たからなのか左肩の体温と、微かに視界に入る生足にドキドキし始めた。
「あのさ……高田ちゃんと何かあった?」
「え、なんで?」
「祐樹が知らない女の子と話すの苦手なのは知ってるけど、明らかに避けてる様に見えたんだよねー」
美波ちゃんに気付かれていた。意識はしていないけど、あまり話したく無いのは事実だ。
「そっか。ちょっと苦手なタイプではあるんだよね……」
「まぁ、祐樹はあたしの事が大好きだからなー」
「ええっ!? 僕は、その、あの……」
「なに動揺てんのよ? そうだった?」
そう言って美波ちゃんは小さく笑う。あまりの直球の冗談に動悸する。
「でも、あんまり苦手なら狭山に言った方がいいよ。なんとかしてくれるとは思うし」
「うん、ありがと。でも本当、苦手なだけだからあんまり気にしないでよ」
これは個人の問題だ。美波ちゃんが変な印象を持ってはいけないし、高田さんも好意で声をかけているだけで悪意はない。
「あのさ。さっき狭山に言えって言ってたけど、美波ちゃんと狭山は仲いいんだよね?」
「んー? まぁ、小学生の時からだからねー。仲がいいとか、そんな話じゃないよ?」
「えっ……それって」
「腐れ縁って事! なんであんたが心配してるのよ……」
小学生の頃からなら、幼馴染みみたいなものなのか……。狭山は美波ちゃんと色々な場面を過ごしてきたのだと思うと仕方のない嫉妬心が生まれる。
「前から気になってたんだけど、美波ちゃんも狭山って呼んでるよね?」
「ああ、それね……」
「狭山は美波って呼んでるのに、名前で呼ばないんだって思って」
すると、彼女は右手も僕の肩に乗せて、耳元で言った。
「あいつの名前知ってる?」
「そりゃ、同じクラスだし……カッコいい名前だよね……」
「狭山塁。なんか少女漫画のヒーローみたいじゃない?」
「確かに……」
「見た目も女の子にウケるから、中学の時結構チヤホヤされてだんだよね」
「だろうね……まさにイケメンだし」
天性の光属性みたいな狭山はイメージ通りだった。
「でもね、あいつ自分の名前嫌いなんだよねー。弱み見せるタイプじゃないから言う事は無いと思うけど……」
「そうなの? それで名字で……」
あの狭山にも、コンプレックスみたいな物があったのは意外だった。なんでもプラスにしてしまいそうな自信家なだけに少し驚いている。
「だから祐樹も、無理に名前呼びしなくていいと思うよ」
「自然に受け入れそうだから、嫌って言えるくらいの関係になるまでは触れないでおくよ」
家の近くに着くと、自転車のブレーキを握る。玄関前に止めると美波ちゃんを降ろし、自転車を止めて部屋に案内した。
「うん、特に変化ないねー」
「そりゃ変わらないよ……」
二人は楽器を出すと、ヒロさんがニヤニヤとした表情で見ているのが見えた。
「あのさ、ムーンリバーって曲の原曲聞いてみたいんだけど?」
「YouTubeにあるから、パスはかかってないからパソコンでかけたらいいよ!」
彼女は机に座ると、パソコンを開いてYouTubeを出し検索した。
「オードリーヘップバーンが歌っているんだねー」
「うん、色々な人がカバーしている」
曲が終わり、少しアンプの音を出し僕は練習していたアレンジを小さく口ずさみながら弾く。かなり練習している事もありしっかり弾けているとおもう。
「え、なんかめちゃくちゃ良くない?」
「でしょ?」
「歌は残念だけど」
彼女は少し悪い顔で笑う。
それを見てヒロさんも大笑いしているのに腹が立つ。
「まぁ……僕は、ボーカルじゃないし。狭山が歌うんだからいいだろ!」
「嘘嘘、味があっていい感じだったよ」
「それフォローになってなくない?」
それからコードの書いた紙を彼女に渡し、ギターと合わせる様に弾く。美波ちゃんも練習しているのだろう。かなり安定して弾けるようになっているのがわかった。
「大分練習してる?」
「まぁ、それなりには?」
「ベースも入るとバンドっぽくなるよね!」
「うんうん。今ね、ベースのアレンジをネットで結構調べててねわかりやすいサイトがあったんだー」
「ネットはいいよね! 色々情報あるし!」
「コードが分かったからちょっと見ていい?」
「どうぞどうぞ!」
ヒロさんも気になったのか、立ち上がりパソコンの近くに寄った。だが、次の瞬間僕を絶望させるには充分な画面が開いていた。
「えっと……祐樹も男の子だから仕方ないとは思うけど……」
ヒロさんは首と手をふり、「俺じゃない、幽霊だから触れない」と必死にアピールしている。
その画面には脱ぎかけの金髪の女の子のイラスト。それは開いたままになっていた太田のエロゲの画面だった……。
お読みいただきありがとうございます。
細かい伏線を回収していってます!
マジ高低差はんぱないっすよ!
♪♪♪
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