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第十八話

「多分音楽は、そう言う時の為にあるんすよ……」


 明け方まで弾き続けた僕は、意識が朦朧とする中ヒロさんの声が聞こえた。


 本当は自分なんかより、もっと大変なはずなのに彼は僕に優しく語りかけた。その言葉のとおり、ヒロさんの教えてくれた必殺技は、それまでの僕のフレーズでのモヤモヤを解決してくれる物だった。


 そのオクターブと呼んでいた弾き方には、今まで音を増やすか減らすかしか出来なかった所に段階を踏みながら革命をもたらした。


 まず、必要なのはリズムの安定感。ピッキングする際下に弾き切るダウンと上に上げるアップがある。それをただ何となく弾くのではなくリズムの表になる部分ではダウン、裏はアップで弾くと言うのを徹底する。


 その上で、今まではコード内の音の弦を増やす事で変化を付けていた所、オクターブのみの音を代替えしコードが変わらなくても変化をつけられると言うものだ。


 さらにはそのオクターブは、実質一つの構成音の為、他の構成音に違和感の無い範囲であれば移動する事が出来る。


 まさにそれまでコードに縛られていた僕には革命的な必殺技だった。


 寝不足でぼんやりしながら学校に向かう途中、僕はヒロさんが言っていた事を確かめるように頭の中でなぞった。


「オクターブってスリーコードとあまり変わらないですよね……なんか思っていたのと違うというか、何というか……」

「そうか? 選択肢が生まれるって事は祐樹の感覚やセンスが必要になるって事だぞ?」

「感覚やセンス?」

「今までは、音を増やす選択肢はあったもののそのコードをどの数で弾くかしか無かったわけだ。だから旅行で言えばスケジュールの決まったツアーみたいなもので、その中でどう楽しむかしかない」

「なるほど……」

「選択肢が増えると言うのは、行き先を変える事が出来楽しめる代わりにどの様に回るかのセンス。つまりはいいルートにも悪いルートにも自分で出来る様になるんだよ」


 彼は『責任のある自由』と言っていた。

 やってみると思っていた以上に難易度が上がる。切り替えが増えるだけでも難しいのに自分で考えて模索しなくてはならない。


 結局一晩やっても僕はムーンリバーに少ししか入れる事が出来なかった。


「祐樹、顔ヤバいけど大丈夫?」


 学校に着くと美波ちゃんが心配そうに聞く。眠気のおかげで、彼女への後ろめたさとかを考える余裕がない事もあり話すことが出来る。


「あぁ、美波ちゃん。今日の朝まで練習してたから眠くて……」

「そっか。そんなに練習してるならあたしも頑張らないといけないなー」

「曲も決まったからね」

「でもどうすればいいか。……そっか! また祐樹の家に行ってもいい?」

「え、いいけど……」

「あ、そっか。今日は眠いよねー。それじゃあ明日は? 合わせるまでに弾けるようにしておきたいんだよねー」

「うん、いいよ。そしたらムーンリバーのコードとか美波ちゃんの分をコピーしておくよ」


 彼女は手を合わせてごめんぬのポーズで「ありがと」と言った。


 それから僕は、席に着くと眠気に耐える事が出来ずその日は先生に起こされながら、一日中かまぼこのように机に張り付いて眠っていた。そのせいもあってか帰る頃にはスッキリしている。


 帰り道に美波ちゃんとの練習を今日にすればよかったかなと少しだけ後悔する。スマートフォンをみるとバンドのLINEグループに通知が来ていた。


 なんだろう……。

 アプリを開くと高田さんが追加されていたのと、狭山からスタジオに入る希望日のアンケートが来ている。


 明日、明後日はバイトだし……。

 ん? 何か忘れているかも知れない。そうだ、美波ちゃんと明日練習する約束をしてしまっていた。


 直ぐに僕は連絡した。


「もしもし祐樹? どうしたの?」

「ごめんなさい、明日明後日バイトが入っていたのを忘れてました……」

「まぁ、眠そうだったもんね……でも3日後はスタジオになりそうだよね」

「あの……美波ちゃんが良ければ今日でも?」


 僕がそう言うと、道を挟んだ先で見覚えのあるシルエットが見えた。太田だった。


「今日? うーん、17時くらいか、ちょっと遅くなってもいい?」

「僕はいいけど……美波ちゃんが良ければ」


 そう言うと電話越しに返事が聞こえる中、太田にかけ寄る高田さんの姿が目に入って来た。


 あの二人……やっぱり知り合いだったのか。電話を切ると少し二人の事がきになった。彼女は太田と何をしているのだろうか。


 挨拶というよりは、仲がいいという感じだ。部活の休みの日に一緒に遊ぶような仲なのか? スマートフォンで時間を見ると15時半。美波ちゃんが来るまではまだ少し余裕が有る。僕は大通りを渡り彼女らの方に向かった。


 二人は一緒にどこかに向かう様子で、顔見知りというよりは仲が良さそうに歩いているのが分かる。中学が同じという事もあり帰り道が同じでもおかしい事は何もない。


 そう言い聞かせながら二人に気付かれないように少し距離を取りながら歩いた。会話が聞けたら話は早いのだけど、こんな所でわざわざ待ち合わせするくらいだからあまりバレたくはないのだろう。


 大通りから中に入り、住宅や小さなオフィスが入り混じる裏通りを通る。となると帰り道が同じというだけでは無さそうだ。


 目立つ事もあり僕はさらに距離を取る二人が右に曲がるのが見え、急いで曲がり角まで走り角から覗き込むと白く少し古そうな建物に入って行くのが見えた。


 マジかよ……。

 奥に入っていくのを確認すると、僕はそのビルの前にむかい何のビルなのかを確認した。


 ……太田設計事務所。

 1階にはそう書いてあり、幾つかの会社が入っている様に見える。3階以上は住居の様だ。


 太田の家……なのか?

 なんで高田さんはあいつの家に。正直僕は、太田の印象と彼女の言動からいかがわしい事しか想像が出来なかった。


 くそっ。僕は何やってんだよ……。

お読みいただきありがとうございます。


道が外れて行ってますが、それを選ぶのは祐樹自身だったりします。


♪♪♪


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