第十七話
コピーとは言わない。これはある意味オリジナルのカバーだ。もちろんほとんどがヒロさんの力なのは自分でも分かっている。
だけど、昨晩の彼との作業はまるでプロになった様に錯覚した。まだまだギターの実力が足りない。新しい事が出来るようになりたい。
この日僕は自信満々に、持ち寄りの曲としてこのムーンリバーを挙げた。
「いきなりカバーって大丈夫なのかよ、いい曲だとは思うけどバンドって雰囲気じゃ無いよな」
「カバーなら、バンドサウンドになるんだよ!」
だが、意外にも狭山にはこの事がうまく伝わらず葛藤する。
なんで、わかってくれないんだよ……。
「あたしは祐樹がそこまで言うなら、別にやってみてもいいと思うけど?」
「あ、私も市村さんも初心者ですし、ロックカバーというのは面白いかも……です」
女子2人は、乗り気というほどでは無いものの好奇心的な意味で了承してくれた。
「まぁ、二人がそういうなら……聞かずに否定するのも良く無いしな」
とりあえず、狭山も興味が湧いたのか、一度聞かせてみるという事で話がついた。その他にもコピーの候補があったものの、好みが割れ一旦保留になり、意見が分かれた時の纏める事の難しさをひしひしと感じた。
話が終わり解散すると、教室を出た僕に高田さんが少し複雑な表情で話しかけて来る。
「西村くん……ちょっといいですかぁ?」
「あ、はい。どうしたんです?」
聞き返すと、彼女は周りをキョロキョロと見て人が近くに居ない事を確認したのか小さな声で話す。
「太田と仲いいんですかぁ?」
「いや、別にこないだ話した位で今まで話した事すら無いよ?」
「そうなんですかぁ……」
彼女の口から出たのが太田だったことに驚いている。なにより、普段丁寧な高田さんが太田と呼び捨てしている事に違和感を感じた。
「知り合いなの?」
「あ、いや……同じ中学校だっただけでぇ」
「なるほど」
中学校が同じというのは、まぁ良くある事だ。だが、それだけで声をかけてくるのかと僕は疑問を感じていた。
だが、彼女もそれを悟ったのか少し慌てた言い訳ねように誤魔化し始めた。
「太田はさぁ。ちょっと危ない人って言うか変態っていうかあんまりね、うん」
「あんまり何?」
「うん。まぁでも西村くんが興味があるとかなら、別に、別にいいんですけど。……ね」
奴が公開変態なのは知っている。むしろあのスタイルで知らない方がおかしい。多分彼女は、優しさのつもりで気を使いながら注意してくれているのだと思った。
「なんとなくいいたい事は分かったよ、ありがとう」
「……うん」
「てっきり今回の曲の話なのかと思ったんだけど、特に問題ないならまた次の打ち合わせで!」
そう言って別れを告げ、僕は昼休みのうちにトイレに行こうとしたのだが、彼女は急に僕の袖を引っ張り耳元で囁いた。
「やっぱり西村くんもそっちの方に興味あるんですか?」
「……はい?」
その言葉に僕の脳内はショートしかける。ロングではなくショートの方だ。
「高田さん……何言ってるんですかい?」
「え、だって奏達のバンドって、男の子が2、女の子が2って言うよりは、狭山くんと市村さんって雰囲気だとお、思うんですよね。だから……」
「いや、僕は普通にバンドしてるだけだよ!?」
「そうなんですかぁ……西村くんはこっち側だと思ったんですけど……」
明らかにしょんぼりした様な高田さんに、少しだけ罪悪感を感じていた。
「あ、でも奏はそう言う話大丈夫なんで、いつでも話してくださいね!」
そう言って去って行ったのだけど、彼女の加入していた動機に、素直に喜ぶ事は出来なかった。
そもそも僕は美波ちゃんが好きで、彼女も別に狭山と付き合っているわけじゃない。人生初めての女の子からのアプローチがこんな複雑な気持ちになるとは思ってはいなかった。
午後の授業で太田の事が気になってはいたけど、それより僕は少しでも早くギターが上手くなりたいと思った。高田さんの言葉が頭をチラついて悔しいとも、悲しいとも言えない気持ちが怒りに変わる。
学校が終わるとすぐに、家に帰り部屋のドアを勢いよく開けた。
「おぉっ、ちょっと祐樹、どうしたんすか?」
「ヒロさん、僕にギターを教えて下さい!」
「教えて下さいって、普通に教えるけど……」
「すぐに、すぐに上手くなりたいんですっ」
すると、ヒロさんは浅くため息をついた。
「まぁ、焦りたい気持ちはわかるけどさ。ギターはやっぱり少しづつしか上手くはならないからさ」
「でも……」
「落ち着けって。もしかして、ムーンリバー、ダメだったのか?」
「いや、やる事にはなったんですけど……」
「あれ? 良かったっすね、それじゃなんでそんなに焦ってんすか……」
「……」
ヒロさんは今日。僕に気を使って家にいた。
結果が不安だった事もあるのだろうけど、それを僕自身が受け止めなくてはいけないと言うのが理由らしい。
「俺には言えないんすか?」
優しく見守る様な目は何を言っても、受け止めてくれると思う。言わなければ僕の気持ちは、想像も出来ないだろう。だけど、今日の事はヒロさんだけには言いたく無かった。
「まぁ……色々あるっすよ。とりあえずそんな時はギターを弾くのが一番だと……思う」
僕は、何も聞かないヒロさんに小さく頷いた。
「そしたら今日は、とっておきの技を教えてやるよ。まだ早いかも知れないけどこの技に打ち込んで必殺技にしたらいいんじゃないか?」
「…………お願いします」
その日僕は、晩ご飯も食べる事なくギターに打ち込んだ。高田さんの事が嫌いなわけじゃない。むしろ、少し嬉しいとさえ思っていた。
でも、その気持ちがバンドや、美波ちゃんへの気持ちという自分のアイデンティティを汚したような、ヒロさんを裏切ったような気持ちになって何かに没頭したくなっていた。
ヒリヒリする指が、もっと痛くなればいい。多分それが自分自身に対する気持ちの整理の付け方だった。
お読みいただきありがとうございます。
上手くいかない時、多分それは色々な面で成長するチャンスなんじゃないかと思います。
♪♪♪
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