第十三話
「普通の部屋だね……」
僕には三人いる様に見えても彼女にとっては二人。不思議な事に、彼女は躊躇なく僕の部屋に来ている。市村美波は、憧れの女の子だ。
「どんな部屋想像してたの?」
「もっと濃いアーティストのポスターとか貼ってたりするのかなって……それ、祐樹のギター?」
「そうだよ。ポスターは貼ってないかな」
二人きりの部屋。
本来なら緊張してしまう所なのだろうけど、ヒロさんが見えるおかげで、友達を呼んで、一緒に好きな子がついて来た。それくらいの緊張感でどうにか自分を保っていた。
僕はパソコンを開くため、机に座ると美波ちゃんは周りをチラチラと見ているのがわかる。ヒロさんはお構いなしにいつも通りテーブルに腰掛けた。
「えっと……」
「どうしたの?」
「どこに座ればいいかと思って……」
目の前にはベッド。それをみてハッとする。もしかして彼女は緊張しているのだろうか?
僕がベッドに目をやるとチラリとこちらを見て、ベースを立てかけると、ゆっくりと座り少し俯くようにテーブルを見ている。
「彼女多分意識してるっすよ?」
ヒロさんもなんとも言えない緊張感で、初めて会った時の様な話し方になっている。
どうすればいいか相談したい。
だけどこの距離だと美波ちゃんにも聞こえてしまう……葛藤しながら僕は袋からCDを出した。
「これかけて見てもいいかな?」
「うん……聞いてみて」
よく見ると彼女の唇が水々しく潤っている。リップなのだろうけど、僕自身意識しているのは間違いないだろう。
ドキドキ……ドキドキ……。
鼓動が小刻みに震える中僕はCDをかけた。
その瞬間、イントロのリフに衝撃が走る。
キレのあるドラム、繊細かつ力強いギター。なにより他の何かが今まで聴いた曲には無い物を感じる。
歌が始まると、美波ちゃんが心配そうに聞いた。
「どう……かな?」
「なんていうか……凄い……」
歌唱力が特別高いわけじゃないけど、その声のために作られた様な異常な空気感が素人目にも分かる。
「でしょ? こんな曲出来るようになりたいんだけど……出来るかな?」
「まぁ……練習すれば出来る様になるかもね」
「本当?」
「……多分……」
音楽の話なのに珍しく入って来ないヒロさんは、真剣な表情で聴いている。美波ちゃんと何を話せばいいのかわからない、曲が終わるまでの沈黙した空気が長く感じた。
「うん、流石かなのバンドっすね……」
口をひらいたヒロさんは困っているのかワクワクしているのかわからない様な顔をする。
「祐樹、美波ちゃんにベース出してもらいなよ?」
僕はハッとして、彼女に伝えると一緒に買いに行った白いベースを取り出した。
「美波ちゃんベース触ってみた?」
「うん、触っては見たけど何すればいいか分からなくて……ピアノしてたから音はわかるんだけど」
僕はこの日のためにヒロさんに教えてもらったことをはなす。ベースの役割、ルートと呼ばれるコードの軸となる音を中心に弾かないといけない事。ギターとすぐに合わせられる事などじっくりと話す。
ヒロさんが隣で聞いているのは緊張はするけど修正もし易いこともあって安心して話す事ができる。
「それじゃ、弾いてみようか!」
僕はそう言って初めて弾いた3つのコードの曲を自分のギターで弾いて見せる。もちろん余裕を見せてカッコつけたのは言うまでもない。
「この人差し指の押さえている所をベースで押さえていけば音がズレることが無いんだ」
ピアノをしていたという事もあり、彼女はすんなりと理解した様に弾いて見る。だが、抑える力が弱いのかしっかりと鳴らない。
「このフレットの近くを押さえるといいかも?」
「あ、うん。ありがと」
「ピックも少し深く持つと安定するよ」
僕は自分の持ち方を見せる。すると彼女は少し深く持ち見せて来た。
「人差し指は曲げた方がいいかも……」
そう言って彼女の指を誘導する様に人差し指を摘んで動かしてみた。
「うん、こんな感じで少し深く持つといいよ」
弾き方に集中していたせいか、美波ちゃんに思いの他近づいていた事に驚いた。
「うわっ……ごめん」
恥ずかしくなり身体を離した。すると美波ちゃんは少し赤くなった顔で呟いた。
「一人で祐樹の家に来てるけど、ベースを教えてもらうだけだから……」
「どうしたの急に?」
「男女の関係になるつもりないから、勘違いしないでね……」
正直な所、恋愛対象にはならないのかと少し凹んだ。だけど、そもそも話せているだけで僕にとっては充分で、家に来ているなんて大躍進もいい所だ。
「わかってるよ。僕だって身の程を弁えてないわけじゃない」
「……いや、そんなつもりじゃ」
「美波ちゃん祐樹の事意識してるんだと思うぞ?」
「マジで!?」
慌てて大声で言ってしまった。
「うん、ゴメンね……ちょっとしっかり練習したいと思って言っただけ。別に祐樹を嫌いなわけじゃないから……」
「多分、好きまでは行って無いかもだけどあんまり悪い印象は無いと思う。祐樹はツンデレな感じの子が知り合いだった事はないのか?」
僕はコクリと頷く。
「まぁ、多分だけどその子はツンデレっすね!」
「何情報なんです?」
「そりゃ……そんな漫画を読んだ事がある……す」
ガッカリして、美波ちゃんを見ると彼女はじっとこちらを見ている。
「ねぇ……祐樹ってさ……」
「なに?」
「いつもなにかと話してるの?」
心配そうにこちらを見る彼女に僕はなんて伝えたらいいのだろうか。見慣れた静かな自分の部屋で、まさか彼女が来る以上に緊張する事になると僕は全く予想していなかった。
お読みいただきありがとうございます。
前作を読んで頂いていた方にレビューいただきましてありがとうございます!俺音からは一年開きましたが以前から読んで頂いていた方がこちらも見てもらえるのは素直に嬉しいですね( ´∀`)
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