第十二話
「……ヒロさん?」
僕らを見る彼はどこか心ここにあらずと言ったような風にも感じる。
「西村、どうしたの?」
「いや、なんかこの人美波ちゃんに似てるね」
「えっ?」
驚いたような顔をみて、冷や汗がでる。
あれ……今僕は、なんて言った?
「……KANAさんと似てるかな?」
「あ、うん」
スルーしたけど、気づいているよな。
つい、名前で呼んでしまった事で、心臓がバクバクとして視点が定まらない。
「服とか、髪型とかは意識してるんだけどね」
「この人も凄く美人だけど……」
「だけど?」
「あ、いやなんでもないです!」
「そこは言えよ西村ー!」
そう言うと、彼女は新しいCDを手に取ると、「ちょっと待ってて」と言ってレジに向かった。
僕はその隙にヒロさんの所に向かう。
「どうしたんですか?」
「ん? あ、いや……別に……」
「別にって、なんか変ですよ?」
「あの子、似てると思った『かな』のファンなんだな」
「もしかして、待ち合わせの時に言ってた知り合いって……」
「うん、同一人物だよ」
「じゃあ、ヒロさんの知り合いなんですか!?」
彼もプロなのだから、知り合いでもおかしくは無い……だけど改めて凄い人なのだと実感する。
「もしかして、ぼうっとしてたのって『かな』さんの事好きだったんじゃ?」
「いやいや、かなは先輩と付き合っているし、そもそも背が高いくせに結構ソールの高い靴履くから俺よりデカいんだよ」
「そんなに大きいんですか?」
ヒロさんは大きくはないが175cmには至らないと言った所だ。となると写真ではあまり分からないけれど170cmくらいはあるのか……。
「それに俺は彼女のやっていたバンドのギターボーカルの子の方が好きだったよ……」
少し寂しそうな彼の表情からは、そのバンドが活動休止している事と関係があるのか、ヒロさんが個人的に何かあったのかは分からない。だけど、僕は普段とは全く違う彼の雰囲気にそれ以上の事を聞く勇気は無かった。
沈黙の中、CDを買い終えた美波ちゃんが戻って来ると、その袋を僕に手渡す。
「はい!」
「えっと、くれるの?」
「貸してあげる! だから良かったら他の曲もダウンロードとかして聞いてみて?」
「あ……うん」
美波ちゃんの好きな曲がどんな曲なのか楽しみだけど、彼女とこうして居る時間も嬉しい。そんな贅沢葛藤の中、美波ちゃんは聞いた。
「西村はどんなバンドが好きなの?」
正直バンドはほぼ分からない。だけど唯一僕が分かるバンドを彼女に伝えた。
「えっと、RISE UPってバンドが好きなんだけど……」
「うーん、聞いた事ない……ここにあるかな?」
そう言って彼女は、探し始めすぐに見つけ出した。
「へぇこのバンド、インディーズなんだ。やっぱり西村はマニアックだよねー」
「いん……?」
彼女はジャケットを見つめている。すると、ヒロさんが後ろから僕に声をかけた。
「インディーズって言うのは、メジャーじゃないレーベル、小さなレコード会社って事だよ」
「なるほど……」
「RISE UP勧めたんだろ? ここは買って彼女に貸してあげなよ?」
「いや、でもこれは僕ダウンロードしてますし」
「この機会に直接LINEできるきっかけにもなるし? まだ出来てないんだし、このチャンスのがしたら祐樹が個人的に連絡出来る日はいつになるかわからないぜ?」
悔しい事に、ヒロさんの言う通りだ。
結局今日も待ち合わせで来ているのと、狭山の作ったグループLINEもまだ変化はない。
僕は勇気を出して言ってみた。
「それ買おうと思ってたから、貸そうか?」
「いいの?」
「僕も市村さんに借りてるし……」
そう言った僕を彼女はスルーするように、他に目をやった。
「あれ、市村さん?」
彼女はあからさまに無視しているように見える。慌ててヒロさんに目をやる。
「苗字呼びに怒ってるんじゃないか? お前さっき名前で呼んでただろ? 触れなかったって事はそう言う事かな……分からないけど」
ヒロさん聞いてたの?
名前って言われても、そんな事する様なタイプなのだろうか。
だけど、試してみるしかないよな。
「み、美波ちゃん?」
「なに?」
あれ?
「怒ってるの?」
「別に。仲良くなれたと思ったら、距離とられたからあたしの事嫌なのかと思っただけ」
「そんな事ないよ……ちょっと恥ずかしくて」
そう言うと、彼女は肩の力を抜いた様に笑顔を見せて言った。
「西村のそう言う素直な所好きだよ」
「えっ……」
「あと、あたしは西村の名前知らないだけだから」
「いや、それはそれで凹むんですけど……」
すると彼女は耳に手を当て、少し腰を曲げ首を傾げた。
「ええっ、本当にわからないの!?」
「ワタシウソツカナイヨ!」
「……祐樹……」
「はい?」
「だから名前、祐樹だよ」
「あれ? 意外と可愛い名前だね」
「僕は、美波ちゃんがこんな陽気なキャラだった事に驚いているよ……」
人見知りなのか、警戒心が高いのかはわからないけど、以前より仲良くなれた様な気がしたのは気のせいじゃないと思いたい。
「そう言えば……ベース持って来たんだけど?」
「練習しなきゃだよね?」
「祐樹の家行っていい?」
「あ、うん。いいけど……って、えーっ!」
「近いならその方がいいでしょ?」
自然と名前で呼ばれたのは嬉しかったのだが、急な展開に正直気持ちがついてこない。
「祐樹良かったな! エロ本は見える所には無かったぞ」
「なんでそんな所みてるんですか……」
「漁っても見つからないなら無いだろ?」
「その前に漁らないで下さいよ」
「何ブツブツ言ってるの?」
「大丈夫! なんでもないよ!」
「なら、いいけど!」
別に今は、気になってはいるものの少し仲良くなれた女の子。それに、まだ始まっては居ないけど、同じバンドのメンバーだ。
少しづつでいい、彼女の事を知って何か一緒に作って行ってそれだけ考えるだけでもワクワクする。
だけど……ヒロさんはどうなのだろう。
生きている時に仲の良かった人が今も活躍している。
沢山の物をくれる彼。もう前に進めない彼に僕は何が出来るだろうと思い始めていた。
お読みいただきありがとうございます。
イメージとしては、ようやく祐樹はヒロさんの事に目が向いた所です。謎の幽霊の内側を徐々に書いて行ければと思っています!
♪♪♪
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